第9話 背信の疑惑






「は、はあ…?なんでそうなるんだよ…!」



ようやく見つけた事件の唯一の手掛かり…。それは、ヒロと同じく異世界人が仕出かしたと言う疑惑が浮上する。

そして…こう考えるのは必然なことなのか……異世界人などただの1人しかいない…。そう結論付けるイツキは……再びヒロに嫌疑をかけたのだ。


何の冗談かと、困惑した笑みを浮かべたままそう反論するが、どう見ても彼は冗談な顔ではなかった。



「ちょ!?ちょっと待ってよ!!アタシ、分かんない!分かるように説明しなさいよ!!」



いきなりのイツキの冷たい言葉に混乱し、アカネは声を荒げる。

しかしコウの方は何か思案しながら思い付いたように指をさした。



「…そうか…。黒の国が異様な繁栄を遂げていた理由…それがワープポータルによる異世界人との接触にあったのか。

そして…協力していた異世界人にそそのかされたのか、はたまた黒の国自ら決断したか…。

理由は分からないが、ソイツと共に内部から戦争の火種を切った…って事ですか…。」



そして、ここからが恐ろしいのが…自身の目標を達したことで、用済みとなった黒の国は異世界人に裏切られ…逆に滅ぼされた…。と解釈できる。

コウの見解にほぼ同意のイツキは、憎しみの激情を彼へと向ける。



「そう。…その黒の国と共に青の国を攻めた異世界人。

そして黒の国を裏切り、あまつさえ…俺達も陥れようとした張本人が…そこにいるヒロって事だ!!!」



指をさされイツキにそう宣告されてヒロは頭が真っ白になった。

勿論、反論がしたい。だが、各国の王達に言われた時よりもショックが大きすぎて、いつもみたいに上手く頭が回らない。

「…え?……っえ?」と困惑するヒロを尻目にイツキはまくし立てる。



「ずっと、ずっと俺達の事、騙していたんだろ!?今までの話も全部自作自演。

内部戦争を起こす為に、俺達に協力するフリまでしてここに連れて来たんだろ!?」



「ち、ちがっ…!!い、異世界から来た人が僕だけなんて限らないでしょ!?きっと他に誰か居たんだよ!!」



荒々しく問い詰められて、ヒロは慌てて否定する。だがそんな中身のない言い訳では、頭に血がのぼった彼らは納得しなかった。



「他って誰の事なんですかね〜?前から薄々思っていたけど…。ヒロ氏。キミはこの世界が始めてって言う割には、色々知りすぎている。

スキルの事もそうだし…。あまりにも肝が据わりすぎている訳ですよ。やっぱあの場面で自分達4人が揃った所に落ちてくるのは……計画通りってヤツですよね。」



疑念の目を向けられ、コウからも痛い所を突かれてしまう。それは…イロハネに教えてもらったから…。だからこそ、このヴァーチュアルの世界も一定の知識を持てた。

しかし、それをどう説明する?「スキルが自分の為に世界の理を教えてくれた。」なんて説明すれば余計に疑われかねない。



「そもそもアンタは、このワープポータルの場所をなんでこんな簡単に発見できたのよ!?情報収集を得意としているアタシ達の国ですら知らなかったのよ!?」



アカネの怒涛の問い詰めになんて説明すればいいか分からず「そ、それは…」と言葉を濁すヒロ。

最早、選んでなんていられない。言い淀んでいても疑われるだけだ。

ヒロは覚悟を決めて、本当の事を話そうとした時…頭の中でイロハネが大きくため息をつく。



『………ここまで…ですね。見て下さいマスター。目の前の光景を。

信用し過ぎはよくない。彼らは所詮、国に飼われている人達。マスターの仲間でも…ましてや…友達でも何でもない………偽物なんですから…………。』



「(…にせ……もの…………)」



眼前の…3つの顔にはそれぞれ、疑惑。嫌悪。軽蔑…。そんな視線が降り注がれる。

確かに…ヒロが知る彼らならこんな事、絶対に言わない。話も聞かず決め付けるなんて…いくら普段ふざけあっているとは言え、そんな事…絶対にしない!!



『…言葉で受け入れられないのなら…戦うしかないですね。生き残る為には…。』



「………え…………?」



頭に響くイロハネの衝撃的な一言にヒロはつい声を出してしまった。が、彼女は構わず続ける。



『このままどうするのです。死にますよ?それに…私の事を話した所で信じてもらえる様な雰囲気ではなさそうですよ。』



その通り。イツキ達3人は軽蔑と疑いの眼差しをヒロに向けている。最早、何を言っても聞き入れてもらえる気がしない…。


それどころか…裏切り者を粛清されるべく、ジリジリと3人に距離を詰められる。

その分を逃げるようにヒロは後ずさるが、すぐに背中が壁に当たった。



「…白状しろよ…ヒロ。お前の目的は何なんだ…?」



「…僕の…目的………?」



そんなの決まっている。元の世界に帰る事だ。あっちの世界には本気で自分を心配している優しい一樹いつきがいる。

不安なくせして誰よりも気丈に振る舞う意地っ張りの朱音あかねもいる。

晃太郎こうたろうも…この事態には気付いているだろう。多分、こうなった事を悔いて泣いているかもしれない…。


僕は…そんな3人と約束もした。だから…こんな所で死ぬのだけは………絶対に嫌だ!!



『…よくぞ申し上げて下さいましたマスター。それでは…私が……なんとかしてみせましょう。』



ニヤリと笑われたような気がした。悪寒がする。それと同時に、急速に意識が引き剥がされる感覚がした。

これはヤバい!ヒロの中で警報音が鳴り響く。しかし今までにない感覚に戸惑い動揺し、どうする事もできなかった。

そして、そのまま自分と……誰かが入れ替わった感覚がした。


…そんな筈あるわけない。自分は自分でしかいない。ヒロはそれを確かめるべく両手をギュッ…と握る。

だが…どうだろう…彼の意思とは裏腹に、足が前へと歩みを進めた。



『……………え…………?』



「(…是非、私にお任せください。)」



頭が真っ白になる程だ。信じたくないが、理解してしまった。どうやらヒロの意思はイロハネと入れ替わったようだ。

…いや、どちらかと言えば彼女に体を乗っ取られてしまったようだ。



『ちょっ!?待って!待って!イロハネ!?何してるの!?僕はそんな事望んで…!?』



「(お優しいアナタでは、あの方々を止めることはできません。

マスターを守るのがスキルの役目。オートモード実行。敵殲滅を開始します!!)」



『待って!!僕、そんな事言っていない!!』と出られない膜の様な中で悲痛な叫びを上げる。

しかしイロハネはそんな彼の言葉を無視してヒロの体を使い、イツキ達へと敵意をのせた冷淡な眼差しを向ける。



「さて、始めましょう。我が覇道を邪魔するものは………何人たりと排除します。」










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