第4話 欺瞞はびこる法廷






両脇に立つ警備兵に小突かれて、手を縛られたヒロは仕方なく前へと進み、荘厳で大きな両扉の前に立つ。


扉が開かれ入室するそこは、元世界で言う本会議場みたいな所で、中央にある机へと移動させられた。

周りには、各国の偉いおじさん達が難しい顔をして、ヒロを疑心と嫌悪の目をしている。その背後には護衛役なのか、前に会った友達のそっくりさん…イツキ、コウ、アカネの3人が控えていた。



「容疑者の名はヒロ。今現在、我が緑の国で捕虜として捕らえている。

3日前、遠征に出ていた騎士団長が容疑者に接触すると、奴は一般人とは思えぬ身体能力と大魔法を駆使して抵抗した。


場所は、緑の国と青の国の丁度中間。その為、暴れる容疑者に話を聞くべく、その場に居合わせた黄の国の魔術師と、赤の国のギルドマスターと一時的に協力し確保に成功。そして今現在に至る。」



緑の国…。イツキが傍に控えているいかにも…王様と言うに相応しい貫禄の老人が、書簡に目を通しながら淡々と説明する。


それを聞いて、赤の国のボス…。浅黒い肌に筋骨隆々とした男は、頬杖を付きながら、勝ち誇ったようにニヤリと笑う。



「決まりだな。各国の手練れ3人が手を焼く様な人物だ。おおよそまともな人間とは思えない。

きっと人間の皮を被った悪魔の子に違いねーよ。このまま放置すればいずれ、他の国も奴の餌食になる。即刻、死刑を命じた方がいいな。」



「ちょっと!ちょっと!待て待て!!」



何も言葉も発せないまま、今にも死刑で可決されそうなヒロは、慌ててそれを止める。

すると、その場を仕切っていた緑の国王が、物凄い剣幕で睨み付けて怒号を飛ばす。



「口を慎め!大罪人め!!よもや貴様は人に有らず。本来なら捕まえた即日処刑される所を、合同会議に掛けるまで待ってやっているんだぞ!!

次、その口を開こうものなら……。」


そう国王が目線で指示をすると、彼の後ろに控えていたイツキが、スラリと剣を抜いた。その顔にはやはり…何の感情も映ってない。ヒロはその目に冷や汗が流れる。



「騎士団長の剣技が再び飛ぶと思っておけ。」



王の言葉とイツキの覇気にヒロは押し黙ってしまう。なんと言う事だろう…。これでは弁解の余地すらない。

このままでは何も訳も分からぬまま犯人に仕立てあげられ、死刑されてしまう。



『茶番ですね。犯人が見つけられず、民の不安や反感を買う前にマスターを見せしめにしようとしているのでしょう。

……このままでいいのですか?…マスター。』



頭の中でイロハネの声が聞こえてきた。ここではスキルが普通に使えるようだ。

久しぶりの会話だが、それを喜んでいる暇は彼にはない。



「(…でも…イツキは本気…だった。

裁判なのに僕は反論の余地もなく終わっちゃう訳!?)」



『…そうです。こんな裁判は無意味。始めからマスターは処刑される事は決まっております。

黙っていても殺される。話しても殺される。…だったら………やれる事は1つなのでは?』



イロハネにニヤリと笑いかけられた気がした。その顔は…大人びた言動をしながらも、年相応の発言をした時の妹…彩羽いろはによく似ている。


…そうだ。どちらにせよ殺されるのなら、足掻こうが足掻くまいが一緒じゃないか。だったら……可能性は少なくても…足掻いてみようじゃないか!

覚悟を決めたヒロは、もう話が可決に向かうここにいる全員の意識ををこちらに向けるように……………


目の前の机に思っいきり頭を打ち付けた。



ドンッッッッ!!!



「「!?!?!?」」



「…………皆さん。聞いて下さい。僕は無実です。何故なら僕は………異世界から来たからです!!!」



『……注目のさせ方ゴリ押し過ぎますね……。』



何とでも言うがいい妹(仮)よ…。そんな彼女の呆れを無視して、ヒロは打ち付けた机から顔を上げる。

本当は手でやりたかったが、縛られている為やむを得ず頭でやった。

しばし、ヒロの突然の奇行に唖然と見ていた緑の国王が、次第に火がついた様に奇声を上げる。



「貴様ぁぁ!!先程の言葉を覚えてないのか!?お前に口を開く権限はないのだ!!口を慎め極悪人!!」



国のトップが、まあそんなにポンポンと暴言を吐けるものだ。まだ…勝負はついていないというのに…笑い者だ。



「どちらにせよ僕は処刑されるのなら、そんな事考えたって仕方ないでしょ。」



先程までと雰囲気が異なるヒロに圧倒されて、緑の国王は言葉に詰まる。

その時一瞬、イツキが吹き出したように見えたが……気のせいだろうか?



「異世界からね…。じゃあ君は3日前にたまたまあの場所に降り立って、たまたま魔道士達に会って、たまたま戦闘になったと…そう言いたい訳?」



唯一の女性…綺羅びやかな宝飾にと気高い威圧感を纏う黄の国の女王が、そう気だるそうな言い方で彼に冷たい眼光を飛ばす。



「そんなの信用出来るわけねぇーだろ!!大体、なんで出会ってすぐ戦闘になんだよ!?俺達、青の国を含めた4ヵ国は不可侵条約があるんだぞ!?」



「えーおかしいなぁ~?だって僕が来た時、この3人明らかに喧嘩してたよ?それだと3ヵ国とも条約違反じゃない?

信用ないなら証拠見せようか?僕の職業『学者』だから…3人しか使えない必殺技覚えてるよ?どう?やる?」



さて、口火は切ってやった。景色はどう変わる?何かが動き出す?そんなの……したっことではない。動き出さねば待つのは死のみだ。変わるんじゃない…変えてやるんだ!


周囲の顔色を探り、ヒロはさっきまでの怯えきった顔を沈めて…ニヤリと……不気味な笑みを浮かべるのであった。












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