12 彼方の恵宇羅
年末、クリスマス前に退院したかーくんを見て、頭を小突いてやった。
快気祝いに、かーくん、それから先生とラーメンを食べた。
おっちゃんは、今日はやけに無口で、弾き語りのエンドレスループが、代わりに語りかける。
—ピラミッドにのぼれば♪ みわたすかぎりの、みどり♪
帰り際にのれんをくぐるとき、おっちゃんはニヤリとして、
―おふたりさん、もう、オオカミ、した?
しねえし!
◆
もともとすべての魂が天上の神のもとにあり、しかしそこからこの地上に降りてきて肉体をまとい、堕ちた者としての生活をするのであり、あらためて魂は肉体を脱ぎ棄てて、天上に昇って行く…
イクスペァリエンス、経験はその純粋な魂の上に課される労役にほかならぬ…
いま地上にいる自分はそれを忘れているが、こちらへ降りてくるに際して、自分の魂はある決意をしたのだ。おそらくは―
◆
歳月は過ぎた。
いま老境にあって、穏やかに旅立とうとしている未知さん。
毎年、仕事の合間をぬって島を訪れているけれど、未知さんがいなくなったら…。
ううん、いつでも帰ってくるよ。
二匹の蝶が、病室の開け放たれた窓から、枕元にそっと舞い降りた。
窓の向こうでエメラルドの水面が揺れている。
水平線は彼方に。
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