12 彼方の恵宇羅

 年末、クリスマス前に退院したかーくんを見て、頭を小突いてやった。

 快気祝いに、かーくん、それから先生とラーメンを食べた。

 おっちゃんは、今日はやけに無口で、弾き語りのエンドレスループが、代わりに語りかける。

 —ピラミッドにのぼれば♪ みわたすかぎりの、みどり♪

 帰り際にのれんをくぐるとき、おっちゃんはニヤリとして、


 ―おふたりさん、もう、、した?


 しねえし!



 もともとすべての魂が天上の神のもとにあり、しかしそこからこの地上に降りてきて肉体をまとい、堕ちた者としての生活をするのであり、あらためて魂は肉体を脱ぎ棄てて、天上に昇って行く…


 イクスペァリエンス、経験はその純粋な魂の上に課される労役にほかならぬ…

 

 いま地上にいる自分はそれを忘れているが、こちらへ降りてくるに際して、自分の魂はある決意をしたのだ。おそらくは―


仕方がないしゃーねえやろうやるかあ



 歳月は過ぎた。

 

 いま老境にあって、穏やかに旅立とうとしている未知さん。

 毎年、仕事の合間をぬって島を訪れているけれど、未知さんがいなくなったら…。

 ううん、いつでも帰ってくるよ。

 

 二匹の蝶が、病室の開け放たれた窓から、枕元にそっと舞い降りた。

 

 窓の向こうでエメラルドの水面が揺れている。

 既知臨界点ニライカナイで、あなたはまた産まれるだろう。

 

 水平線は彼方に。

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