第40話 夜はまだ、切れていない
目が覚めたとき、喉の奥が少しだけ重かった。
痛いわけじゃない。
歌いすぎた翌日の、あの独特のだるさ。
(……昨日、歌ったんだっけ)
天井をぼんやり見つめながら、ゆっくりと昨日の記憶を拾い集める。
スタジオの照明。
モニターの向こう側のレンの顔。
神谷さんの「もう一回、今度は半歩だけ前に」という声。
ヘッドホンのなかで鳴った、自分の声じゃないみたいな自分の声。
胸の奥が、じわっと熱くなった。
枕元で充電していたスマホを取る。
暗い画面が点いて、一気に白くなる。
通知の数が、いつもより二周りくらい多い。
「……おはよう、Nem’s Night……」
冗談めかしてそう呟いてから、指先でアプリを開いた。
【Nem’s Night Channel】
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「……ふぇっ?」
情けない声が出た。
(ちょっと待って……昨日寝る前、50万ギリ超えたばっかりで……)
うまく数字が頭に入ってこない。
眠気が一気に飛び、布団の上でぴんと上体を起こす。
「52万って……そんな、ゲームみたいに増える……?」
画面をスクロールすると、
・アニメ公式からの引用RT
・Nem’s Night 仮歌ラフ、スタッフ限定公開の噂
・ファンアートの二次拡散
・「ED楽しみ」タグ
・英語圏の小さなまとめ
色々な“夜の名残”が、タイムラインに折り重なっていた。
通知のなかに、レンからのメッセージが埋もれているのを見つける。
水城レン:
《おはよう。起きたらまず水飲んで。
それと、登録者は“まだ途中経過”だと思っておいて》
(途中経過ってなに……?)
首を傾げながら、ベッドから降りる。
足裏に触れる床は少し冷たくて、
でもその冷たさが“今日”をはっきり教えてくれる気がした。
◆
白湯をマグカップに注ぎ、ゆっくりと飲む。
喉の奥を湯気が通っていく感覚が、妙に心強く感じられた。
(……まだ歌える)
そう思えた瞬間、ようやく少し落ち着く。
テーブルの上には、昨日のまま開きっぱなしのノート。
ボールペンが三本、色違いで転がっている。
ページには、
Nem’s Night の歌詞案がびっしり並んでいた。
一番の歌詞は、もう決まっている。
あの切り忘れの夜を、そのまま歌に落とし込んだ部分。
問題は、二番だ。
(“バズったあとの夜”をどう歌うか……)
現実の自分が今まさにそこにいるからこそ、
中途半端な言葉では書きたくない。
そこへ、画面に新しい通知が走った。
【Lumière Staff Discord】
《本日15:00〜 Nem’s Night / アニメED合同会議(運営・音楽・アニメ・営業)》
その下に、個別でレンから。
水城レン:
《ねむちゃんは原則オフ。
参加しなくていいから、喉とメンタル温存。
終わったら通話で全部話す》
「……オフ、なんだ」
少しだけほっとして、少しだけ不安になる。
(私抜きで、私の歌のことが決まっていくんだ……)
ノートを手前に引き寄せた。
ペン先を走らせる。
紙を少し強めに押してしまうのは、緊張のせいかもしれない。
——まだ眠れないけど
ひとりじゃなかった夜
書き終えて、じっと見る。
さっきまで胸の中でうまく言葉にならなかった感覚が、
少しだけ、形を持った気がした。
「……こういうの、かな」
小さく呟きながら、もう一行。
——画面越しの「おやすみ」が
部屋の灯りをやさしく消した
「うん」
自分で自分の言葉に頷くなんて、
デビュー前の自分なら考えられなかった。
(ちょっとだけ、変わってきたのかも)
それが良い変化なのか、怖い変化なのかは、まだ分からない。
でも、“変わらないままでいるほうが怖い”と、今は少しだけ思えた。
◆
昼前。
ねむは珍しく、外に出た。
マスクにキャップ、無地のパーカー。
配信者にとって“外出装備”はほとんど制服みたいなものだ。
エントランスを抜けると、
秋の空気がふわりと頬を撫でる。
少しだけ冷たい。
でも、嫌いじゃない。
駅前までの一本道は、
ベビーカーを押す人、スーツ姿の人、
スーパーの袋を提げたおばあちゃん、
いろいろな生活の匂いで満ちていた。
(この中に、私のリスナーさんもいるのかな)
そう思うと、不思議な感じがした。
配信画面のコメント欄でしか知らない名前たち。
「夜勤終わり」とか「看護師です」とか「受験生」とか言っていた人たちが、
もしかしたら、この道を通っているのかもしれない。
パン屋の前を通ると、
焼き立てのカレーパンの匂いが飛び込んできた。
「……負けた」
理性よりも胃袋が先に白旗を上げる。
小さな店内に入ると、
店員のお姉さんが笑顔で「いらっしゃいませ」と言った。
「カレーパンと……この、クリームパンもください」
「はーい、カレーパンとクリームひとつずつね」
トレーの上のパンたちが、
なんだか“今日のご褒美セット”みたいに見える。
会計を済ませて、受け取ったレシートをちらりと見ると、
端っこにペンで小さくハートマークが描かれていた。
《ありがとネ :)》
(こういうの、ずるい……)
わずか二秒くらいのやりとりなのに、
胸が少しだけ温かくなる。
(いつか歌詞に……)
つい、職業病のメモ癖が頭をもたげた。
◆
帰り道、公園のベンチでパンを食べることにした。
平日の昼間、
ブランコで遊ぶ子どもが二人。
そのそばで見守る親の姿。
ベンチに座り、カレーパンをかじった。
じゅっと油が染み出して、口の中が一気に幸せになる。
(おいしい……)
さっき書いた二番の歌詞の一行が、
ふと頭に浮かぶ。
——ひとりじゃなかった夜
(“ひとりじゃない”って、
別に恋愛とかじゃなくても、
こういうことだよね)
ブランコの軋む音。
遠くを走るトラックの音。
鳩の羽音。
パン屋の匂い。
全部まとめて、“自分が生きている世界の音”だ。
食べ終わった包み紙をたたみながら、
ねむは小さく息を吐いた。
「……よし、帰ろ」
◆
マンションの前まで戻ってきたときだった。
上の階から、かすかにギターの音が降りてきた。
昨日、廊下の奥から聴こえてきたそれよりも、
今日はずっとはっきりしている。
昼だからかもしれない。
もしくは、自分の耳が少しだけ“音の世界”に近づいたからか。
(綺麗……)
立ち止まって、耳を澄ます。
コードはシンプルなのに、
指の動きが柔らかくて、
一音ずつがちゃんと“意味”を持って鳴っている感じがした。
(練習中、かな……)
しばらく聴いていたい衝動に駆られながらも、
不審者感が出そうで慌ててエントランスへ向かう。
カードキーをかざして中に入る。
エレベーターのボタンを押す。
しゅん、と小さな音を立てて扉が開いた。
「あ」
昨日見かけた隣人が、
ちょうど中から出てくるところだった。
黒髪を後ろで軽く結び、
背中にはギターケース。
ラフなシャツにパーカーという、
どこにでもいそうで、どこにでもいなさそうな格好。
「こんにちは」
「こ、こんにちは……」
声が裏返りかけて、慌てて咳払いをする。
(落ち着いて私)
「さっき……音、聞こえました。
すごく、綺麗でした」
言ってから、
“初対面二日目で何を口走っているのか”と自分で自分にツッコミを入れる。
でも彼は、少し驚いたように目を瞬かせてから、
すぐ穏やかに笑った。
「ありがとうございます。
昼間のほうが響いちゃいますね、やっぱり」
「ぜんぜん、うるさくなかったです。
むしろ、なんか……落ち着くというか……」
「それならよかった」
ギターケースのストラップを肩にかけ直しながら、彼が続けた。
「課題曲でして。
今度、ちょっとした“夜の歌”のコーラスを頼まれてて」
「よるの……」
ねむの胸が、ぴくりと動いた。
“夜の歌”という単語に反応するのは、
ほとんど条件反射みたいなものだ。
「夜に聴くための曲だから、
あんまり主張しすぎないようにって言われてて。
練習するときも、
“夜の音量”ってどれくらいだろうって悩みます」
「……わかります」
思わず口を挟んでいた。
自分でも驚いて、
彼も少し驚いた顔をする。
「夜って、
同じ声でも“うるささ”が全然違いますよね。
昼間に出してたテンションのままやると、
なんか、刺さりすぎるというか……」
「刺さりすぎる?」
彼が興味深そうに首を傾げる。
「はい。
なんか、夜のほうが人の心が薄くなってる感じがして。
そこで強い声を投げると、
たぶん、疲れさせちゃうなって」
「……それ、すごく分かるかもしれないです」
彼は、ぽつりとそう言った。
「歌ってると、
昼と夜で同じキーでも
喉の感じが違うんですよね。
夜は、少し揺らしたほうが落ち着くというか」
「わかります!」
思わず食い気味に言ってしまい、
慌てて「あっ」と口を押さえる。
「すみません、なんか……語ってしまって……」
「いえいえ。
むしろ、そんな風に聴いてもらえてるの嬉しいです」
彼は軽く笑ってから、少しだけ真面目な顔をした。
「この前も、その……
夜、廊下で“おやすみ”って、小さく言ってましたよね」
「!?」
血の気が引いた。
(やばい、やばいやばいやばい)
「あ、えっと、それは、その……!」
「あ、ごめんなさい。
聞き耳立てるつもりはなかったんです。
たまたま、ゴミ出しから戻るときに」
彼は慌てて手を振った。
「“おやすみ、ちゃんと言ってね”って。
誰かに言ってるのかなと思って」
「…………」
心臓がうるさい。
(配信の口癖が、現実にも出てる……)
「なんか、あ……その……クセで……」
必死にごまかそうとしていると、
彼はふっと微笑んだ。
「いいクセだと思いますよ」
「え……」
「“おやすみ”って、
ちゃんと言う人、少ないですから」
その言葉が何故か、
胸のかなり深いところまで滑り込んできた。
ありがとうございます、と言うのが精いっぱいで、
顔を上げる余裕がなかった。
「……あ、すみません。
そろそろスタジオ行かないと」
「あ、はい、いってらっしゃいませ」
「いってきます。
白露さんも、良い夜を」
(……良い夜を)
配信者同士みたいな挨拶だな、と一瞬思う。
でも、彼が自分の正体を知っているわけじゃないことも分かっている。
エレベーターの扉が閉まり、
小さな空間にひとりきりになる。
「……なんだろう、今の」
頬がまだ少し熱い。
(別に、そういう意味じゃ、ない……よね?)
自分で自分に「ないない」と首を振ってから、
ようやく部屋へ戻った。
◆
部屋に戻ると同時に、
スマホが震えた。
水城レン:
《会議ひと段落。
10分後、通話いい?》
すぐに「はい」を返す。
ティッシュで口元を拭いて、
速攻でカレーパンの痕跡を消す。
なぜか、レンに見られている気がするのだ。
着信音。
通話ボタンを押す。
「……もしもし」
『おつかれ、ねむちゃん。
喉、どう?』
「大丈夫です。
ちょっとだけ重いけど、痛くはないです」
『よし。じゃあ、結論からいくね』
レンの声が、
いつもより少し低く、でもどこか高揚している。
『Nem’s Night フルバージョン——
正式に“アニメED”として採用決定。
クレジット表記は “白露ねむ × Lumière” 表記。
発売&配信はアニメ最終回の一週間前に先行解禁』
「……っ」
声にならない声が漏れた。
(決まった……本当に……)
『それから。
大人の話になるけど、
成果配分——ねむちゃんの取り分は、通常の“箱案件曲”より20%アップ。
東雲社長の決裁』
「に、20パーセントって……」
数字の重さがうまく掴めない。
(ただでさえ、EDで歌わせてもらって、
しかも20%も……)
『社長曰く、
“この曲は白露ねむの人生そのものなんだから、
本人にちゃんと返さないと会社が腐る”
……だそうです』
「社長……」
言葉にできない何かが胸を満たす。
白露ねむとしての自分は、
決して完璧な看板タレントではない。
泣き虫で、要領が悪くて、
台本もよく噛む。
それでも、“人生そのもの”と言ってもらえた事実が、
あまりにも重くて、ありがたかった。
『それともうひとつ。
Nem’s Night を軸に、Lumière の“夜配信ライン”再編成が決まった』
「再編成……?」
『夜=ねむちゃん。
これは変えない。
でも、箱として“夜に寄り添うコンテンツ”を増やしたい。
ルナやミオ先輩、ユウマ、カイたちも含めて、
全部で“Nem’s Night ブランド”としてまとめていく流れ』
「ブランド……」
さっきあなたが怒っていた「人をブランド扱いするな」という話が
ふっと頭をよぎる。
(私は商品じゃない。
でも、“夜の声たちの名前”としてなら、
Nem’s Night を大事にしたい)
「それって……
私が、夜の責任者みたいになっちゃうってことですか?」
『責任者というより、“灯り”だね』
「灯り……」
『真っ暗闇の夜に、ぽつんとついてる電気。
そこにルナの笑い声や、カイのバカ騒ぎや、ユウマの静かな語りが合流して、
“箱全体の夜”になる。
その一番最初の灯りが、ねむちゃん』
「……なんか、それ、ずるいです」
『ずるい?』
「そんな言い方されたら……
がんばるしかないじゃないですか……」
笑いながら言ったつもりなのに、
声が少し震えてしまった。
レンは笑ってくれる。
『そのつもりで言ったんだけどね』
「レンさんは、ほんと……」
『それと、最後にもう一個。
ねむちゃんの隣人の話』
「……なんで知ってるんですか」
間髪入れずに突っ込むと、向こうでクスクス笑う声がした。
『いや、さすがに“隣人がどうこう”って話は詳しく知らないけどさ。
さっきの会議で、“リアルな夜のコーラスが欲しい”って話が出て』
「リアルな……」
『Nem’s Night のアウトロで、
ねむちゃんの声の後ろに、
ごく薄く“別の夜の息遣い”を入れたいって。
プロのスタジオシンガーじゃなくて、
実際に夜に歌ってる人のほうがいいんじゃないかって意見が出た』
「…………」
『そこで東雲社長が言ったんだよ。
“ねむの住んでるマンション、
隣の部屋に歌の仕事してるヤツいるんだろ?”って』
「なんで知ってるんですか社長それ!?」
思わず声が裏返る。
『この前、ねむちゃんがぼそっと口走ったのを
俺がそのままメモっておいたから』
「レンさん〜〜〜〜!」
『悪用はしてない。
まだ“候補”の話だから。
ただ、アニメ側の音響監督がちょっと興味持ってた』
「興味……」
『“同じ夜の空気を吸ってる誰かのコーラスが重なったら、
この曲の世界はもっと深くなる”って』
レンは、少しだけ真面目な声に戻る。
『もちろん、ねむちゃんの気持ちが最優先。
嫌だったら断る。
隣人さん自身の意向もある。
でも、俺は——』
「……レンさんは?」
『面白いと思ってるよ。
“配信、まだ切れてませんよ?”っていうタイトルの物語に、
ほんとに“まだ切れてない夜”を生きてる人の声が乗ることになるから』
(……ほんと、この人は)
このマネージャーは、
いつも少しだけ物語みたいな言い方をする。
そのくせ、現実の線引きはきっちりしているから、
余計にずるい。
「私……」
深呼吸する。
自分の胸の内を、ちゃんと見つめるために。
「……もし、その人が嫌じゃなかったら、
聴いてみたい、です」
『うん』
短く頷く声が聞こえた気がした。
『じゃあ、音響側とだけ話進めておく。
隣人さんには、改めてスカウトを通すから、
今は深く考えなくて大丈夫』
「はい」
『そのかわり——』
「?」
『今日の夜は、ちゃんと休む。
ツイートも、“おやすみ”だけでいい』
「……“おはよう”は?」
『それは明日の朝の楽しみに取っときなさい』
通話の向こうで笑う声がして、
ねむもつられて笑った。
◆
夜。
窓の外は、
街灯のオレンジと、
遠くのビルの白い光でじんわり明るい。
パソコンはつけていない。
スマホも、ベッドの上で伏せてある。
部屋の中央で、ねむはノートとペンを膝に乗せて座っていた。
(二番のサビ……)
何度も書いては消していたフレーズを、
もう一度書き直す。
——まだ、切れてない
あなたと私の夜
——画面越しの「おやすみ」が
ひとり分の世界をあたためた
そこまで書いて、手が止まる。
(“あなた”って、誰だろ)
リスナーたち。
箱の仲間たち。
レン。
そして——
昼間、エレベーターで交わした、
『良い夜を』
という隣人の言葉が、
ふっと脳裏に浮かんだ。
(……いやいやいや)
顔を振る。
(違う、そういうんじゃなくて)
恋とか、そういう単語を頭の中から追い出す。
まだそこまでの感情を持っているわけじゃない。
ただ、“同じ夜に声を出している人がいる”という事実が、
妙に心強く感じられただけだ。
ペン先を紙に戻す。
——まだ、眠れないけど
ひとりじゃなかった夜
「……うん」
声に出して読んでみる。
歌うときとは違うトーン。
でも、耳の奥にすっと馴染んでいく感じがした。
その瞬間だった。
壁の向こうから、
小さなギターの音がした。
さっき昼間に聴いたものより、
さらに柔らかく、静かで、
まるで“誰かを起こさないように”鳴らしているみたいな音量。
(……練習、してるんだ)
ねむは思わず、壁の方を見た。
壁の向こう側で、
同じ夜、別の誰かが自分の声を調整している。
それだけのことなのに、
胸の奥がじんわりと温かくなる。
ノートに小さく書き足す。
——壁一枚の向こうで
知らない誰かが夜を鳴らす
歌にするかどうかはまだ分からない。
でも、この記憶は残しておきたい。
◆
ベランダに出て、
夜風を吸い込む。
遠くで電車が走る音。
犬の吠える声。
誰かの笑い声。
誰かの泣き声。
全部まざって、
「今日の夜」ができている。
(Nem’s Night は、
私だけの夜じゃないんだ)
ふと、そう思った。
自分の声が、
誰かの部屋の灯りになるなら。
誰かのギターが、
自分の歌詞の一行を進めてくれるなら。
(“配信、まだ切れてませんよ?”っていうのは、
たぶん——)
自分だけじゃなく、
この夜を生きてる全部の人たちのことを、
どこかで信じてる言葉なんだろう。
胸の奥で、静かにそう理解する。
「……おやすみ」
誰にともなく呟く。
スマホを手に取り、
Xに一行だけ打ち込んだ。
《今日は歌詞を書く日でした。
Nem’s Night、まだ続きます。
おやすみ、ちゃんと言ってね。》
送信。
すぐに「おやすみ」「Good night」「Boa noite」が
画面にぽつぽつと灯り始める。
(この“おやすみ”の連なりが、
きっと曲のなかでも鳴るんだ)
そう思うと、
怖さより、楽しみのほうが少しだけ勝った。
布団に潜り込み、
天井を見上げる。
(……Nem’s Night の本当の始まりって、
もしかしたら今日なのかもしれない)
そんな風に思いながら、
ねむは静かに目を閉じた。
配信はしていない。
赤い「LIVE」のランプも灯っていない。
でも——
(配信、まだ……切れてませんよ?)
心のどこかで流れ続けている“夜の声”は、
今日も確かにオンのままだった。
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