月影兄弟の非日常な日常
桜 さな
第1話 プロローグ
関東にあるとある私立高校には、名物とされる生徒が何人か存在する。
中でもこの春入学し生徒会の役員に抜擢された二人は特に注目を集めていた。
既に
この二人、顔立ちはそっくりだが性格が全く違うせいか、それぞれの表情で見分けやすいタイプの双子であった。
一重でシャープな目元、清潔感のある白い肌、薄めの唇。
所謂塩顔系イケメンなのだが、兄は首席の頭脳を持ちサッパリとした性格で、ハキハキとした話し方は真面目さを窺わせる。
眼差しはキリッとして凛々しく、時々少し険しめな表情が浮かぶ。
一方、弟は同じく成績優秀であるが性格はおっとりして、短く簡潔に紡がれる言葉は穏やかだ。
凛とした顔立ちに眦が甘く垂れ、時々何処か焦点が合っていないような表情を見せる事がある。
これだけでも話題になるには充分であるが、更に注目を集める理由は何と言っても彼らの関係性にある。
「真宵、準備できたか?」
「ごめん。くろ、先に行っててもいいよ?」
「いや、一緒に行く。ゆっくりで良い、待っててやるから」
「うん」
彼らはずっとこんな感じで、どちらかが欠けるなんて有り得ないと言わんばかりに、常に二人で行動する。
ある時は手を繋いで歩いていたり、黎明がふらつく真宵の肩を抱き、支えながら歩く姿も目撃されており、兎に角仲の良すぎる双子なのだ。
これが一部の生徒達の琴線に触れ、二人の様子はつぶさに拡散されるようになり、月影兄弟の名は学校中で噂される様になった。
しかし、そんな周囲の騒めきも当事者達は意に介さず、今日もまた二人の世界が展開される事だろう。
「くろ、そっちは良くない」
「そうか、ならこちらから行こう」
「うん」
月影兄弟の様子を見ていると、時に今の様な不思議なやり取りがある。
特に変哲のない場所を避ける様に周ったり、方向転換したりする。
それだけではなく、真宵は時々夢見心地のような表情で予言めいた言葉を紡ぐ。
そしてそれを聞いた黎明はその言葉に助言を付け加えるのだ。
ある時は不調を言い当て、またある時は暫く同じ場所を見つめたと思えばそちらへ向かう人を止めた事もあり、それを目の当たりにした人はただ首を傾げ訝しげな目を二人に向ける。
ただそれらの指摘はあながち間違いではなく、それにより事態が好転する場合がほとんどなので、その恩恵を受けた人達の間でも月影兄弟の名は概ね好評価を得ていた。
知らぬは本人ばかり也。
真宵は自身の言動が良い印象を与えない事を理解しており、黎明はそんな弟を過保護に囲い込み片時も側を離れようとしない。
月影兄弟を招いた生徒会長はそんな二人の姿を見る度につい言ってしまう。
「これでもう少し個別行動できればね」
だが、そんな言葉を聞いた黎明の答えは一貫している。
「何だと?貴様、俺の弟の何が不満だ?」
「…君は娘離れが出来ない父親なのかな?」
弟はどうやら視えるらしい。そして兄は少々鬱陶しい。
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