僕は、羊水に揺られて夢を見る。外は、激しい憎しみの世界なのに。

蘇 陶華

第1話 ここから、進むべきか。僕の運命は、平坦ではないのに。

何とも、暖かく心地よいのか。


僕は、ゆらゆらと揺れていた。


母の胎内で、僕の命は芽吹いた。


「君は、生まれると同時に、母親の命を奪うよ」


簡単にそう言うな。


自分から、望んだ訳でない。


普通に人として生まれれば良かった。


それは、無理だ。


誰かが、笑った。


「お前を産むんじゃなかった」


母は、そう言った。


予言は、外れて、母親が死ぬ事は、なかった。


だけど、


僕を捨てて去っていった。


「化け物」


そう、母親は、そう言った。


化け物の母親に、そう言われるとは、思わなかった。


「だから、生まれなきゃ良かったんだ」


僕だって、そう思うよ。


なのに、何度も、この夢を見る。


母親の胎内で、息づいた瞬間を。


外の世界が気になって仕方がなかった。


手は、動くのか。


足は、動くのか。


生まれてすぐ、あなたに、抱きしめてもらえるように、


その瞬間を楽しみにしていたのに。


結局、


僕は、母親に捨てられた。


「お前が、死なせたんだよ」


誰かが、そう言ったのを、父親が庇った。


「誰も、何も言うな」


そうじゃなくて、


僕が言って欲しいのは、


「生まれてくれてありがとう」


だったのに。


僕は、出生と同時に知る事になるんだ。


僕は、


母親の血を引く


化け物だって事を。


生まれなければ、良かった事を。


僕は、颯太。


邪神と旅に出る。


僕らの方が、


人らしいなんて、


この外の世界は、変わってしまった。


〜それは、人に憑くより〜





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