4-5話 セックスはスポーツ、浮気は文化

「――とまぁそんな感じだな。 あとは気付けば白い空間にいて、ニンフィアって女神に会ってこの世界に飛ばされた――って、このくだりはテルと同じか」


 タケルから異世界転移の経緯を聞かされ、あきれた様子のテル


「異世界転移のキッカケが、ヤンキーに屋上に呼び出されたからって……。やっぱりタケル兄ちゃん、学校でも問題児だったんだな」

「呼び出し食らったのは俺のせいじゃねーし。蓮司レンジさんが平成初期のヤンキー過ぎただけだぞ」

「でもまぁタケル兄ちゃんの話を聞く限り、それ以外はテンプレの異世界転生だったみたいだね」

「まぁな。ただ、魔法陣は頭上じゃないだろって思わなくもないけど」


 タケルの感想に「確かに……」とテルも同意する。


「言われてみれば、異世界転移のテンプレだと魔法陣は足元だよね」

「だろ? だから俺も最初は異世界転移じゃなく、UFOに誘拐されたんじゃないかって思っちゃったぜ」

「……なぜにUFO?」


 だが上空の魔法陣に吸い込まれていくタケルを想像してみて、確かにUFOの怪光線で吸い込まれていく『アブダクション』みたいだなと納得するテル


「……って、あれ?」


 そこでふと、テルは引っ掛かりを覚えた。


タケル兄ちゃんの話を聞く限り、ボクたちとは違って生きてる状態で転移したのか。だとしたら三人の誰かが『異世界転移する方法』を使ったり、それに巻き込まれたって訳じゃない……? ……いや待て、今の話じゃ三人の名前しか上がってないよな?)


 今まで聞いていたニュースや噂とは違う当事者の話に疑問を抱くテル


「ねぇタケル兄ちゃん。そのとき異世界転生したのは四人だよね?」

「四人? いや、さっき話した三人だけだが?」


 やはり食い違う証言に、テルは頭を悩ませる。


(おかしい、確か失踪したのは四人だったはずなのに……。じゃあもしかして、残ってるもう一人――確か不知火秋兎しらぬいあきとだっけ――が『異世界転移する方法』を実践したんじゃないか? ボクたちが異世界転生した時に『消えた四人目』がいたように、その不知火秋兎しらぬいあきとって人も四年前の転移後に姿を消した可能性もある。それに……)


 まだ分からないことがある――とテルはさらに思考を巡らせる。 


(さっきのタケル兄ちゃんの話じゃ、魔法陣が現れたのは頭上なんだよね? でも失踪事件について聞いた噂じゃ、屋上の床には『七芒星の魔法陣』が残されてたって話だった。……空中に現れた魔法陣が屋上の床に残る? なんだか聞いていた情報と実際の証言に色々と齟齬があるような……。うーん、いったいどういう事だろ?)


 気になることがどんどんと増えていくテルは、もっと状況を詳細に知りたいとタケルに尋ねる。


「ねぇ、タケル兄ちゃんが異世界転移した時の事、もっと詳しく――」

「そんな事よりテル、お前にどうしても聞いておきたい事がある」


 だがテルの質問は、逆にタケルからの疑問によって遮られてしまった。


「聞きたいこと? 何だよタケル兄ちゃん?」

「その……陽莉ヒマリのヤツは元気か?」


 神妙な様子で陽莉ヒマリの心配をするタケルに、胸がシーンとなるテル


タケル兄ちゃんも陽莉ヒマリのこと心配して……。えっと……さっき言った通り陽莉ヒマリもその爆発現場にいたんだけど、多分助かってると思うんだよね。とはいえボクの死ぬ間際の朦朧とした記憶だから、絶対大丈夫とは言えないんだけど……」

「そうか……無事だといいんだが。陽莉ヒマリの事は俺もずっと心配してたんだよ」

「そうなんだ。タケル兄ちゃんもなんだかんだ言って陽莉ヒマリのお兄ちゃんなんだなぁ……」

「もちろん妹の事なんだから心配して当然だろ?」


 そしてタケルは、優しい目で遠くを見ながら応える。


「俺の天使なHカップ妹は、今頃ちゃんとJカップくらいには育ってるのかなってずっと心配だったんだ」

「……そうだった、こういう人だったわ。シスコンな上におっぱい星人だったよ、思い出してきたわ……」


 好きな子の兄が残念だった事を改めて思い知らされ、ちょっぴり凹むテル


「あのさぁタケル兄ちゃん……。そうやって堂々と女性の胸の大きさに言及するの、ホントに良くないと思うよ。小さな胸の女性に失礼だし、何より今の時代はルッキズムだなんだって色々とうるさいんだから」

「何を言ってるんだテル? 俺は巨乳を賛美しているだけで、貧乳を非難している訳じゃないんだぞ? もし俺が巨乳好きを公言することで傷つく貧乳がいたら、それは差別ではなく被害妄想なのだ」

「だから今の時代にそういう発言は、煽り認定されて格好の炎上ネタになっちゃうからね!」


 テルに注意されるガッカリな兄は、だけど一歩も引くことなくさらに質問を繰り返す。


「……で、どうなんだテル? 俺がいなくなってからも成長してるのか陽莉ヒマリの胸は?」

「えぇえ……。ま、まぁ今は陽莉ヒマリのやつ、JどころかLカップまで育ってるけど……」

陽莉ヒマリ……立派になってお兄ちゃんは嬉しいぞ」

「ガ、ガチ泣き……ダメだこの人、早く何とかしないと……」


 妹(――のおっぱい)の成長を、涙を流して喜ぶ兄に呆れるテルであった。


「と、ともかく……」


 先ほどから続くおっぱいトークばかりの状況をなんとかしようと、テルは強引に話題を切り替える。


「まさか異世界でタケル兄ちゃんに再会できるとは思わなかったよ。ホントに久しぶりだね、生きててよかったよ兄ちゃん。」

「そうだな、久しぶりだ。俺の知ってるテルは小学生だったが、今は高一か。そりゃすぐに気づけない訳だ」

「まぁタケル兄ちゃんがいなくなってから四年も経ってるからね」

「いやぁ、懐かしいな」

「そうだね~。久しぶりだよ、タケル兄ちゃん」

「よし! それじゃあテル、無事の再会を祝して――」


 ポンッと手を叩きタケルが提案する


「――とりあえずセックスでもしとくか?」

「はぁ!?」


 タケルの口から飛び出した、思いもよらぬパワーワードに目を丸くするテル


「な、何で!? 何で急にそういう流れになるの!?」

「どうしたんだ、テル。もしかして恥ずかしいのか? たしかに俺は巨乳派だが、頑張れば貧乳でも何とか出来ちゃう男だぞ」

「セ、セクハラ! 今度こそまごうことなきセクハラだから!?」

「……む、もしかして嫌なのか?」

「当たり前だろ! さすがに今のはライン越えだからな!」


 本気で嫌がるテルの態度に、タケルは素直に謝罪する。


「悪かったテル。だが悪意があったわけじゃないぞ? むしろ俺も被害者だ。異世界という環境が俺をそうさせたんだからな」

「……環境?」

「だって異世界ココで出会った女は、大抵俺に抱かれたがるもんだからさぁ。女なら誰もがそうだと勘違いしちゃうじゃないか」

「た、タケル兄ちゃん……アンタ今までどんな異世界生活を送ってきたの?」

「別に……転移者としては普通だと思うけどな。普通にチートでハーレムな感じだぞ?」

「それ普通じゃないから! 『探偵』なんて使えないジョブで苦労してる人もいるから!」

「ちなみにテル、俺はこっちの世界に来て学んだよ」

「……な、何を?」


 嫌な予感がしつつも聞き返すテルに、タケルの答えは――。


「セックスはスポーツ、浮気は文化だって」

「最低だ! この人、異世界で最低の人間になっちゃったよ!」


 コンプラ違反な発言を連発するタケルに全力でツッコみ、ゼーハーと肩で息を切らすテル


(おかしい、ボクの知ってるタケル兄ちゃんはこんな人じゃなかったのに……)


 テルは昔のタケルを思い返してみる。


(いや、たしかに妹のおっぱいの成長を祝ったり、昔から変な人ではあったけど……でもここまで令和のコンプラにそぐわない人じゃなかったはずだよね? 異世界の環境が~って言ってたけど、転移してからタケル兄ちゃんに、いったい何があってこうなっちゃったんだろ?)


 変わり果てたタケルの姿に、何があったのか興味が湧くテル


「……ねぇ、タケル兄ちゃん。兄ちゃんのステータスを鑑定してみていい?」

「はぁ、何で?」

「いやまぁ、なんとなく見てみたくなって」

「なんだそりゃ?」

「さっきマリーさんに勝手に鑑定して怒られたから、今度はお願いしてみたんだけど……ダメかな?」

「うーん……まぁ隠さなきゃいけないものも無いし、別にいいけど」

「ホントに? それじゃ……」


 そしてテルタケルに向けて[探偵の鑑定眼]を使った。

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