2-17話 爆破事件の裏側①

 朔夜サクヤに尋ねられたテルは、異世界転移前に何があったのかを二人に語った。

 偶然遭遇した七回目の連続爆破事件の現場――。

 そこから推理して最後の爆破事件の現場を特定した事――。

 そして最後に連続爆破事件に巻き込まれて異世界転移――。

 それらを話し終えたとき――何故か朔夜サクヤは赤い顔をして悶えていた。 


「……そう……ハァハァ……。そんな事が……んくっ……。あったのね……ハァハァ」

「だ、大丈夫ですか朔夜サクヤさん? 何だか顔が赤いようですけど……?」

「気にしないでテルくん……ハァハァ……。魔法陣を見つけてから爆弾現場特定までの流れで……ハァハァ……。ちょっと……んあっ……しちゃっただけだから……ハァハァ……」

「しちゃったって、何を!? ……いや、やっぱり答えなくていいです」


 朔夜サクヤの痴態に嫌な予感がしたテルは、慌ててスルーへと舵を切る。

 だがしかし――。


朔夜サクヤ……ひょっとしてキミは変態なのか?」

「あっ、言っちゃった! 鈴夏スズカさん言っちゃった!」


 ――テルの見て見ぬふりもむなしく、鈴夏スズカから直球の指摘が入った。


「んぅっ……それはちょっと……ふぅ……偏見じゃないかしら?」


 息を整えながら朔夜サクヤが反論する。


「そう……確かに私は、謎解きで気持ちよくなっちゃう性癖の持ち主よ」

「こっちも自分で認めちゃった!?」

「うるさいわよテルくん。――だけどね鈴夏スズカさん。今の世の中、多様性の時代じゃないかしら。私はただミステリーを愛し、ミステリーに抱かれることに至上の喜びを感じているだけの事。それは世間一般から見れば特殊な性愛なのかもしれない。でも今はどんな性志向や性自認でも世間から認められている世の中。なら私のような特殊性愛も世間に認められてしかるべきだと思うの。私はこのミステリーに対する性愛に何ら負い目は感じていないし、ましてや『変態』などと呼ばれるいわれは無いはずよ」


 堂々と胸を張り自分の性癖を暴露する朔夜サクヤに、思わず気圧される鈴夏スズカ


「そ、そうか、それはすまなかった……。こ、これも多様性なんだな、うん、分かった、理解した、理解したとも……。と、ともかく話を元に戻そう」


 飲み込むように自分を納得させた鈴夏スズカは、顔を引き攣らせながら何とか話題を変える。


「ともかくテルは、あの女神を名乗る少女に男にしてもらったということだな。私も会った事があるあの少女に」

「は、はいそうです鈴夏スズカさん」

「しかし……テルの話が本当だとすると、私たちの中に爆弾魔がいると言う事になるのではないか? それも――」


 鈴夏スズカは少し考える素振りを見せた後、朔夜サクヤの方に向き直る。


「これまでの話を聞く限り、連続爆破事件の犯人は消去法で朔夜サクヤしかあり得ないのだが……」

「……おかしなことを言うのね、鈴夏スズカさん」


 鈴夏スズカの言葉に剣呑な様子を見せる朔夜サクヤ


「私が爆弾魔だなんて、いったいどんな根拠で言っているのかしら?」

テルの話にもあったが、爆弾魔の目的は異世界転移だ。なら実際に異世界転移した、私たち三人の中に犯人がいるのは間違いない」


 鈴夏スズカは疑惑の根拠を語る。


「そして私は自分が爆弾魔ではないと知っているし、爆弾魔の事をわざわざ語ったテルも違うと考えていいだろう。だとしたら犯人に該当する人物は、あとは朔夜サクヤ以外にいないじゃないか」

「面白い事をいうのね、鈴夏スズカさん。それで言うなら、私も私が犯人じゃないと知っているわ。だから私にとっては、犯人は鈴夏スズカさん以外に考えられないのだけど」

「――って、ちょっと待って!」


 不穏な雰囲気になる二人に、慌ててテルが口を挟む。


「――そうだ! 思い出しました! 異世界転移してきたのは、ボクたち三人だけじゃありません!」

「……どういう事かしら、テルくん?」

「ウェルヘルミナ様……いえ、ウェルヘルミナが言ってたんですけど……」


 テルはウェルヘルミナの言葉を思い出す――


『どうやら今回の転移者は、テル様で最後のようです。これで四人……いえ、一人は去ってしまわれたので、全部で三人のようですね』


 ――たしかにウェルヘルミナはそう言っていた。


「転移されてきたあの魔法陣から光が消えたとき、ウェルヘルミナはそう言ってたんです。これって『四人いたけど一人いなくなった』って事ですよね?」

「ああ、確かに話を聞く限り、四人目がいるというのは間違いないだろう。そう言えばウェルヘルミナがバタバタと慌ただしくしていた事があったが、あの時に四人目が来ていたんじゃないか?」


 過去を思い返しながら、鈴夏スズカテルの考えを肯定すると、朔夜サクヤもそれに追随する。


「あの時ね……ええ、私もそう思うわ。その消えた四人目の転移者――異世界に来てすぐに出ていったと言う事は、同じ転移者である私たちに、自分の正体を明かしたくなかったのかしら? だとしたら今こうしてマヌケに捕まってる私たちより、その『消えた転移者』の方が犯人として疑わしいわね」

「うん、そうだな。それに七芒星で異世界転移する方法なんてものを知ってたんだ。犯人は相当、異世界の事情に通じてる違いない。だからこそ初めての異世界でも一人で逃げ出せたんだろう」


 朔夜サクヤが納得の意を示し、鈴夏スズカが賛同するのを聞きながら、テルは一つの疑問を抱く。


「……アレ? 鈴夏スズカさんは『異世界転移する方法』の噂、聞いた事が無いんですか?」

「ああ、知らないな。ちなみに『高校生神隠し事件』の事は知っている。私も当時捜査に加わっていたからな」

「えっ! そうなんですか?」

「だが『異世界転移する方法』なんて噂は、先ほどの話の中で初めて聞いた。すまないがもう一度どんな内容だったか確認させてくれないか」

「いいですよ、四年前に流行った異世界転移する方法の噂なんですが――『七芒星に七日ごと生贄をささげよ。さすれば自らの命をもって、異世界の扉は開かれん』――っていう内容で。まさかこれで本当に異世界転移できちゃうとは思ってもみなかったですけど」

「うーん、やはり知らないな。そんな噂があっただなんて……」


 鈴夏スズカが首を横に振ると、朔夜サクヤもそれに続く。


「私も聞いた事が無いわね、そんな噂。噂が立った時期は……確か四年前だったかしら?」

「はい、えっと……ボクが小学校六年の頃で……。アレ、朔夜サクヤさんも知らないんですか? 結構話題になったと思うんですけど……」


 自分と他の二人との認識の差にテルは頭をひねる。


(あれ、二人とも知らない? ひょっとして子供の頃の曖昧な記憶だから勘違いしてるだけで、ごく狭い範囲でしか噂になってなかったのかな? 剣人ケントもこの噂の話をしたときに聞いたことないと言ってたし……。そういやボク、どうやってこの噂を知ったんだっけ? 最初に聞いたのは……たしか陽莉ヒマリからだったような……)


 そうしてテルが過去を思い出していると――


「ともかく話を聞いて、テルくんが男になった理由が分かったわ。ついでに私たちが異世界転移することになってしまった原因もね。あと分からないのは……鈴夏スズカさん、貴女の正体よ」


 ――そう朔夜サクヤが別の問題を切り出してきた。


「私の正体? どういうことだ朔夜サクヤ?」

鈴夏スズカさん。あの爆発に巻き込まれた人間が異世界にやってきたというのなら、普通に考えれば貴女もウチの学校の生徒だと考えられるけれど……。でも私は、貴方のような生徒を知らないのよ」


 全校生徒の名前と顔を知っている系の生徒会長の指摘だ。

 朔夜サクヤがそういうのなら、鈴夏スズカは白羽矢高校の生徒ではないのだろう。


「それに……。あなたのステータスを見たとき、年齢が46歳になっていたわ」


 朔夜サクヤの言葉に、テルも「そういえば……」と鈴夏スズカのステータスを思い出す。


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 名前:スズカ・シラヌイ

 性別:女 年齢:46 種族:人間

 状態:なし

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「ああ、確かに私は46歳だが、それがどうしたというのだ?」

「46歳だとしたら、年齢的には生徒ではなく先生かしら。だけど私には、貴方のような先生がいたという記憶もない。それに貴女、どう見ても十代にしか見えないじゃない。ねぇ、どういうことなのかしら、鈴夏スズカさん? 貴女はいったい何者なの?」

「……そうだな、じゃあ今度は私の事を話しておこうか」


 そうして鈴夏スズカは一息つくと、テルたちに自分の正体を告げる。


「――私は県警の刑事だ」

「け、刑事!? 鈴夏スズカさんが!?」

「そうだテル。そして私たちが巻き込まれた、連続爆破事件の捜査を担当していた」


 おどろくテルに肯定して見せると、鈴夏スズカは事件に巻き込まれた経緯を語り始める。

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