2-8話 転移したら探偵だった件

「それでテル様は、どんなジョブを授けられたのですか? 転移者とはいえ男というだけでハズレなんですから、せめてジョブくらいは使えるものじゃないと困りますよ?」


 成人の儀を終えたテルを待っていたのは、そんなウェルヘルミナからの心無い言葉。


(ひ……ひどい言われよう……)


 心を抉られ涙目になるテル


(どうしてこんなに目の敵にされてるの、ボク? ここにいる兵士も神官も全員を女性にするくらいだし……。ウェルヘルミナ様って、そんなに男が嫌いなんだろうか……?)


「聞いていますかテル様? ジョブは何だったのかと尋ねているのですけど」

「あ、はい、えっと……」


 再度ウェルヘルミナに促され、テルは恐る恐る自分のジョブを口にする。


「それが…………[探偵]っていうジョブなんですが……」

「[探偵]? 聞いた事のないジョブですね。誰か知っている者はいますか?」


 そう言い辺りを見回すウェルヘルミナへ――


「……僭越ながらウェルヘルミナ様」


 ――傍に控えていた神官の一人が進言をする。


「過去の『成人の儀』の記録に[探偵]というジョブが載っていたのを覚えております。ほとんど実例が無く、どのようなジョブか詳しくは分かっていないようですが……」

「それは……珍しいならそれだけ当たりのジョブだと言う事ですか?」

「いいえ、ウェルヘルミナ様。魔物と戦う事も、何かを生産することもできず、まともに使えるスキルは鑑定だけ。その上、どうすればレベルが上がるのかすらはっきりしておりません。記録に残っている限りでは、非常に珍しいだけで性能は大ハズレのジョブだと思われます」

「なるほど……性別が男な上にハズレジョブ……。とんだハズレ転移者ですね」


 神官の答えを聞き、冷ややかな目でテルを見るウェルヘルミナ。

 テルは嫌な汗が止まらない。


(どういう事なんだよ、あのバカ女神! 『神に最も近いジョブ』だなんて意味深な事を言っておいて、なんなのさこのハズレジョブは? ボクの目標チーレムはどうしてくれるんだよ!)


「まぁこんなハズレ野郎は放っておいて……さぁ次はスズカ様の番です!」

「あ、ああ……分かった、ウェルヘルミナ。テルも……良く分からんがあまり気にするなよ。それじゃ行ってくる」


 ウェルヘルミナに促され、続いて鈴夏スズカが成人の儀に向かった。


 * * *


「ちくしょう、どうしてボクがこんなハズレジョブを……」


 鈴夏スズカが儀式に向かっている間、テルは……広間の隅っこでウジウジしていた。


「ここってRPGの世界じゃないのか? 聞いたことないぞ、RPGでジョブが[探偵]なんて。チーレムを作るためにも、朔夜サクヤさんの[勇者]みたいなチートジョブが欲しかったのに……」


 と、心の中で朔夜サクヤの名前を出したところで、はたと気付く。


「……ってアレ、そう言えば朔夜サクヤさんがいないな……?」


 テルがそんな疑問を抱いたタイミングで、計ったように神殿入口の扉がバタンと開く。

 どうやら外に出ていた朔夜サクヤが戻ってきたようだ。


「あらテルくん、成人の儀は終わったのかしら?」

「い、一応終わりましたけど……」


 ハァーッと深くため息をつくと、テル朔夜サクヤに質問を返す。


「それより朔夜サクヤさんはどこへ行ってたんですか?」

「私はせっかく魔法を覚えたので、試し撃ちに外へ行っていたのよ」


 朔夜サクヤは頬に手を当てると、満足したようにホゥ……と息を吐いた。


「とても楽しかったわ。レベル1の魔法なんて大したことはないと思っていたけれど、[精霊魔法]というのはすごい威力ね。木をなぎ倒せるほどの威力の風が起こせるなんて思わなかったわ。その分消費魔力も大きくて、今のレベルじゃ一発撃つのが精一杯みたいだけれど」

「くっ、なんて羨ましい。……ってあれ?」


 朔夜サクヤの話を聞いて、首をかしげるテル


「でもその割には静かでしたね? そんな事をしていたのなら、ここまで音が響いてきてもおかしくなさそうなのに……」

「ああ、それならこの神殿が防魔と防音の結界で守られているからみたいね。結界を生み出す魔道具で守られているから、思い切り魔法を使っても大丈夫だってウェルヘルミナさんが言っていたわ。それより……」


 朔夜サクヤは質問に答えると、話の矛先をテルに向ける。


「テルくん、キミがもらったジョブはなんなのかしら?」

「うぅ……言わなきゃダメですか?」


 思わず躊躇するテル

 だが、いつまでも隠し通せるものではないと、仕方なく白状する。


「実は……[探偵]だったんですよ、ボクのジョブ……」

「……なんですって?」


 テルが[探偵]を語った途端、朔夜サクヤの目がスゥーッと細くなる。


「あーあ、ボクも朔夜サクヤさんの[勇者]みたいにチートなジョブがよかったなぁ~。……って、どうしたんですか朔夜サクヤさん?」

「もう一度言ってみなさい、惣真照そうまてる

「……へ?」

「もう一度貴方のジョブを言ってみなさいと言っているのよ。何度も言わせないで」


 イライラした態度を見せる朔夜サクヤ


「いま貴方、[探偵]って言ったわね? 間違いないわね? ねぇ、間違いないわね?」


「あ、や…………はい、そうですけど……」


 なぜ朔夜サクヤの機嫌が悪くなったのか分からず、戸惑いながらそうテルが答えた。

 そんなテルの返事を聞いた朔夜サクヤは、眉間を手で押さえながら、フゥーッと深い溜息を吐き、忌々し気にテルを睨みつける。


「……どういう事なのかしら、テルくん?」

「な、なにがでしょう?」


 ビクビクしながら返事をするテルに、朔夜サクヤは容赦なく詰めてくる。


「どうして貴方が[探偵]などという崇高なジョブをもらえるのかしら? ミステリーが好きで、あらゆるミステリー作品を網羅してきたこの私を差し置いて、どうして貴方ごときが[探偵]に選ばれているの?」


 どうやら朔夜サクヤは、自分が探偵になりたかったようだ。


「ねぇ、答えなさい。答えてみなさい、惣真照そうまてるくん」

「い……いや、そんな事言われても……。ボクだってこんなジョブ、欲しくて手に入れたものじゃないですし……」

「『こんな』ですってぇっ!」


 その瞬間――朔夜サクヤが鬼の形相に変わった!


「探偵と言えば神にも等しい存在! それをこんなモノ呼ばわりするというの、貴方は! 許せない、絶対に許せないわ、惣真照そうまてる!」

「え、えぇえええ~……」


 怒髪天な様子の朔夜サクヤに、テルはアタフタと困惑した表情を浮かべる。


(外れジョブ引き当てた挙句、文句を言われるなんて冗談じゃないよ!)


 助けを求めて周りを見回すと……。


「ぐぬぬぬぬ……。ハズレジョブのハズレ転移者のくせに、どうしてわたくしのサクヤ様と親しげにしていますの? 許せませんわ、テル様~っ!」


 ウェルヘルミナからも恨みがましい視線を感じる……。


(えぇえ~、こっちも? どうしよう、[探偵]のジョブのせいでヘイトを集めまくってるよ!)


 思わぬジョブ[探偵]の効果に慄くテル


(使えない上にヘイト効果大のジョブ……。とんだ疫病神じゃないか、ちくしょう! 見てろ、あの駄女神! 今度会ったらゲンコツ食らわせてやるからな!)


 女性たちからのヘイトを集めつつ、女神に対するヘイトを募らせるテルであった。

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