2-1話 はじめての異世界①

「うーん……良く寝た……」


 ゆっくりと思考が戻り、目を覚ましたテル


「なんか変な夢見ちゃったなぁ。爆破事件に巻き込まれて、死んで異世界転移なんて…………って、あれ?」


 意識が覚醒するにつれ、置かれた状況の異常さに気付きだす。

 テルが現在いるのは覚えのない部屋で、壁も床も天井も石造りの、三十畳はありそうな広い一室だった。

 その床の中央、照の足元には七芒星を模った大きな魔法陣が描かれている。

 直径5メートルはあろうその魔法陣は、今も淡い光を放っており、テルはその中心で眠っていたようだ。

 さらに周りを確認すると、七芒星のそれぞれの角には一つずつアンティーク風な飾り壺が置かれている。

 それらは三角コーン程度の大きさで、よく見ると全ての壺の胴体にも七芒星の紋様が描かれているようだ。


「な、何だこれ……?」


 それら怪しい儀式のようなインテリアに戸惑いつつも、テルがさらに周りを伺う。

 正面の壁に大きな鉄のドア、その対面の壁にはガラスもないぽっかりと開いた窓。

 窓の外はどうやら夜のようだ。

 テルは窓に近づき外を覗いてみる。

 まず眼下に広がっていたのは、明らかに日本ではない中世ヨーロッパのような街並み。

 そして――夜空には、地球ではありえない大小二つの月が浮かんでいた。


「うぅ……これってやっぱり……」


 テルは眠る前の記憶を呼び覚ます。

 連続爆破事件――。

 夢の中で会った、女神を名乗る少女――。

 そして今の、ファンタジーの世界に迷い込んだような状況――。


「あれは全部夢じゃなくて、ボクは本当に異世界転移したのか……」


 ようやくテルは現状を把握したようだ。

 そこで――


『異世界転移が終わったら『ステータスオープン』と言ってみてください。そうすればお約束のステータスが見れますよ』


 ――という、女神を名乗る少女ニンフィアの言葉を思い出す。


「あ、そういえば……よし、ステータスオープン!」


 早速テルが異世界転移のお約束を試してみると……。


「うぉっ! ホントに出た!」


 驚くテルの目の前には、ゲームのウィンドウのような輝く板が出現していた。


====================

 名前:テル・ソウマ

 性別:男 年齢:16 種族:人間

 状態:なし

====================

【ジョブ】

 なし

====================

【称号】

 [異世界からの転移者]

====================

【ステータス】

 ステータスレベル:1

 HP:28/28 MP:18/18

 攻撃:15 防御:10

 魔力:12 魔抗:13

 器用:30 俊敏力:8

 幸運:35

====================

【アクティブスキル】

 なし

====================

【パッシブスキル】

 [経験値×10倍]

====================


 その板に書かれていたのはまさにゲームのステータスのようなもの。


「ちょっと待って! こ、これは……」


 テルは食い入るようにステータス画面を見る。

 そこに書かれていたのは『性別:男』の文字。

 慌てて自分の体をまさぐるテル

 元々小ぶりだった胸はすっかり平らになり、そして股間には念願の――。


 ――ボクにチンコをください!――


「これ……本当についてる!?」


 ――その事にようやく気付いたテルは喜色の声を上げた。


「夢じゃなかった! ――ありがとうニンフィア様。『これが女神? ちゃらんぽらんすぎね?』なんて思っちゃってごめんなさい! あの女神様、本当にボクの願いを叶えてくれたんだね!」


 ついでにこっそり謝りながら、夢が叶った感慨に耽るテル

 だが――。


「ボク、本当に男になれたんだ! これで陽莉ヒマリも――」


 ――陽莉ヒマリの名前を口にした途端、脳裏に浮かぶ元の世界での最後の瞬間。

 バクダンを見つけ、必死に陽莉ヒマリを庇い、そして――。


「……そ……う、だった……。陽莉ヒマリとはもう会えないんだった……」


 ――その事実に、先ほどまでの高揚感がしぼんでいく。


(もう会えない……陽莉ヒマリには、もう二度と……)


 ジワっと目に涙が溢れる。

 こぼれ落ちそうになり慌てて手で拭うテル


「バカ! 何を落ち込んでるんだよ! ボクは陽莉ヒマリを無事に助けたんじゃないか! 命を懸けて好きな子を庇ったんだ、胸を張れって! 今回の異世界転移はそのことに対するご褒美だって思えばいいんだよ!」


 自分に活を入れ、無理にでも気持ちをポジティブに持っていこうとする。


「そうだよ! 本当なら死んで終わりだったところを、みんなのあこがれ異世界転移なんてしちゃったんだから! しかも望外のTS転移だよ? だったらせめて、この状況をとことん楽しまないと!」


 そうして強引に意識を変えて、新たな希望を抱いていると――。


 ――コツコツコツ……。


 ――と、石畳を叩く足音が聞こえてきた。

 テルが耳をそばだてながら待っていると、その足音は扉の前で止まる。

 ギィィー……ときしむ音とともに扉が開き――テルのいる石畳の部屋に十名ほどの人間が中に入ってきた。

 ファンタジー映画さながらに剣や鎧を身に着けた女性の兵士たち。

 そして彼女たちを率いてその先頭に立つ、白とピンクの華やかなドレスに身を包んだ一人の少女。


「異世界へようこそ、転移者様」


 最初にテルに声を掛けてきたのはドレスの少女だ。

 年はテルと同じくらいだろうか。

 輝くブロンドヘアを腰まで伸ばし、目を見張るほどの美貌と透き通るような白い肌。

 そして豪華なドレスに身を包んだ彼女は、まさにお姫様といった気品を感じる美少女だ。

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