君にプレゼント

梟の剣士

何よりも甘いお菓子を君に。

キラキラとした君に。

この甘い甘いお菓子をプレゼントしたい。

どうしようもなくて、持て余した分だけ。

そうでもしなくちゃあ、きっと君は、

逃げ出して受け取ってくれやしないだろうから。

甘い、甘い、上澄みだけを、

酸っぱい、酸っぱい、上澄みだけを、

掬い取って、月日をお鍋にかけて。

煮詰めてできた、胸焼けしそうな甘ったるいジャムにコンポート。

色とりどりのそれを、キラキラとしたお菓子に作り替えてゆく。

いったい君は、どうしたらこれを受け取ってくれるのだろう。

本当は、グズグズになるまで煮詰めたかった。

本当は、丸ごと全てを煮詰めたかった。

でも、ダメなのだろう?

苦いお菓子を、

君は、


受け取らないからね。
















トン、トン、トン、  ゴトリ、ゴトン。

艶やかな果物達をドレスアップさせる。

林檎は皮をむき、種を取り除き、半分にした後に薄くスライスする。

白桃は皮を剝かに半分に切り、種を取り除く。

無花果は軸の硬い部分を取り除く。

洋梨は皮を剝き、芯を取り、一口大に切る。

枇杷は縦半分に切り、皮と種を取る。

さくらんぼは小さいから、軸と種を取り除くだけで済む。

杏は良く洗ってから皮付きのまま半分に切り、種を取り除く。

檸檬は良く洗いそのまま丸ごと薄い輪切りにする。

葡萄は種無しを使い、洗って皮を剝くだけ。

蜜柑は小粒なものを選び、皮を剝いた後にお湯につけながら白スジを取り除く。


今すぐに、食べる訳でも無いのに。彼に食べて欲しいと願ったものを少量ずつ仕上げていく。これらは全てコンポートにしてゼリーやらケーキやら何やらに仕上げる。

この日の為に、スプーン印のお砂糖を何袋も買い込んで置いたからお砂糖切れの心配はない。

懐かしい。自分が初めて母と共にお菓子を作ったあの日。

お菓子にはバターとお砂糖が沢山、使われていること自体は理解していたが想像以上に使われていて目がこれでもかと見開くほど驚いてしまった。

微笑ましい幼き頃の自分を思い出して目を細め、柔和な笑みを浮かべながら電子計量器に乗せたボウルに次々とお砂糖を入れていく。

各サイトで調べたうろ覚えのレシピでは大体、それぞれお砂糖が二百グラムほど必要だと書かれていた。

一つのボウルにつき、二百グラムきっかりでお砂糖パンパンボウルを量産していく。

少々お砂糖袋が余ってしまったので、百グラムごとに小さめな容器に入れて保管場所に仕舞い込む。

どうせ、また何かお菓子を作るしその時には大抵百グラム単位でお砂糖を使うのだから特に問題は無いだろう。

ちょっとお砂糖の計量にうんざりしながら次は某レモン汁の容器を取り出す。

物によってはレモン汁を使うレシピもあるのでそれ用に予め計量しておく。

やっとこさ終えたら次はお水の準備。

ここにはコンロが三口存在しているから三種類を同時進行で進められるようにそれぞれに合わせて水を張り材料をグループ分けする。

準備が出来たら後は材料を全てお鍋に入れてぐっつらぐっつら煮込むだけだったはずだから、一番早く時間のくる果物にキッチンタイマーを合わせてもう使わない道具のお片付けに入る。

......ああ、いけない。このタイミングでを入れようと思っていてすっかり忘れていた。バレない程度に隠し味を各お鍋に投入すれば、後はもうキッチンタイマーがなるまで作業をしているだけだ。

キッチンタイマーという某キッチンタイマーボーイが思い浮かぶのだが、このネタが通じる学友は一体どれほどいるのだろうか、と非常にどうでもいいことを考えていれば何時の間にかキッチンタイマーが鳴っている。

慌てて火を消して様子を見る。まあ、いいだろう。

つやつやになった彼らを耐熱容器に移し替え、リビングに持っていく。

次の果物が仕上がるまで放っておいて、熱が冷めたら蓋をして冷蔵庫にしまうだけ。

後はこの繰り返し。

鼻歌交じりに繰り返し、予想よりも時間が余ったからついでとばかりにゼリーに加工したり食パンに乗せて食べたりして一日を終えた。


-次の日、深夜-


綺麗になったお菓子たち。

途中でもかけてきたを最後に、誰にも分からないくらいに薄っすらと仕上げにかける。

キラキラのそれらを、キラキラを閉じ込める為の落ち着いた色合いの濃紺で包み込み縛るリボンは紫のラインの入った黄金のリボン。こんなに大人っぽいのに少女のようなお菓子が出てくるとは思うまい。

ゆっくりと箱の中にプレゼントを仕舞い込み明日に備える。

プレゼントを渡したら、やらねばならないことがあるのだから。


獲物を仕留めるならば、体調を万全に整えるのが狩人というものだろう?

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