11:魔物の顔
ライヒェがモニ太くんを介して何も言わない。彼の状況はこちらからは見えないので分からない。思わずモニ太くんを強く抱き締めた。
その時、後ろから気配がする。気づいた時には、カルアが如何にもな魔法の杖を横振りして助けてくれていた。
「リーダー。集中してくださいよぉ」
カルアの全力のスイングに取り巻きの魔物は体勢を崩す。その魔物にイドが素早く馬乗りになって心臓部分に包丁を突き刺した。
「時々不意を狙ってくるな。分断させてカルアを一人にしたことも含めて、やっぱり知恵がついてないか?」
「否定はしません。我々の回復の要、情報の要を主戦力二人と引き剥がした上で落としにかかる。昨日のそれと違い、洗練された動きであるのは実感として確かです」
「くどい言い方をする」
「確定事項とは言えませんので。戦場でのデマが厄介であることは、イドさんの方が私よりご存知でしょう」
二人の話を聞いていると、下から薄く照らされた。見るとモニ太くんのモニターが点灯している。
「ライヒェ!」
『失礼。医務室に運ばれて、抜け出すのに手間取った。飛行ユニットに損傷はない。モニ太くんは自力で飛行できる。手を離せ』
言われた通りに手を離すと、モニ太くんは浮遊するがいつもの軽々とした飛行ではなく、痛みでよろよろと歩く人のそれを連想させた。大丈夫か、と尋ねても、大丈夫、と返ってくるだろう。支えようとした手は引っ込めた。
『お察しであろうが、あの行列全てが魔物だ。しかし、本体は中心の華やかな女である。残りは全て子機だ。いくら子機を倒そうと、本体がいる限りは意味が無い』
「ライヒェさん。少し図書施設側で調べて頂きたいことがあります。現場からの報告事項となるのですが」
キリはそう言って、モニ太くんの視界に入るように歩み寄った。
「まずひとつ。魔物が改造空間転移魔法の余り物を利用してこちらの分断、撹乱をしております」
『戦争の余波か。リヴァイアが再現されている以上、それの存在は致し方ない。目を瞑ろう』
言ってしまえば、それは黄の夜空戦争の余波であり、ライヒェの責任ではないにしろ、図書施設側の対応は保身でしかなかったことを考えると、気まずそうなライヒェの口調には納得がいく。
「ふたつ。その分断が意図的のように思えます。簡単に説明すると、カルアさんを孤立させ、主戦力の二人が行方不明の状況です。あなたも真っ先に狙われ……」
『前者の状況に持っていくメリットは理解できる。その行動を魔物が取るのも、何となくお前たちが察している通りであろう』
ライヒェが珍しく食い気味に応答をする。キリが言った「真っ先に狙われた」という部分に、彼は引っ掛かりを覚えているように見えた。
『モニ太くんへの攻撃が真っ先だったことについて少し考えていたのだが、そこの……エスじゃないエス。今、お前であるのは僥倖だ。少し話を聞かせろ』
声をかけられたイドは、そのつもりさ、とモニ太くんへと近づいていく。
「というか、ライヒェ、イドのこと知ってたんだ。昨日夜からモニ太くんが動かなかったから寝てると思ってたんだけど」
『その認識に誤りはない。寝ていた。モニ太くんには録画機能がある。それを再生していた。俺の職務はお前たちのサポート兼監視だというのを忘れるな』
「説明の手間が省けてよかったよ。あの花魁の顔を復元できるか?」
『話を聞かせろと言ったのはこちらだぞ』
そう言いつつも、ライヒェはため息をついた。イドが引かないのは分かっていたのだろう。
『無理だ。シンプルな復元なら出来なくもないが、モヤをかけているのはお前たちの心だ。そちらを解決した方が早い。何故そんなことを聞く? あれが何なのかという情報がそんなに大切か?』
前回は確かに魔物の正体なんて気にせずに撃破した。それを見ている彼女が、それを気にするのはライヒェが言った通り気になる部分だ。
『聞きたかったことはその部分だ。魔物が解析されるのを拒んだように見受けられた。それに心当たりがないか、という話をしたかった。……どうやら思い当たることがあるらしい』
「アヤノ、いや、エスが……、エスが帰ってきてから話したい」
ライヒェは幼いが故に、人の情緒をあまり理解できない。見ている景色がモニ太くんを通したものだから、というのもあるだろう。もし彼が急かすなら、間に入ろうと思った。
『ふむ。大方検討はついた。しかし、そう言うのなら待とう』
しかし、ライヒェはそう言い、私の肩口に停まった。それからすぐ、省電力モードなのかモニターの電源が落ちた。
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