書いた遺書
渡良瀬みなみ
プロローグ
その道は、本当は選びたくはなかった。ただ、そうせざるを得ない状況まで来てしまった。震える足、震えたい気、体が安定しない足取りで、菊池颯(きくちそう)太(た)は屋上までたどり着いた。
彼の手には汗でびしょむれになった一枚の折りたたまれた紙が頼りなく握りしめられていた。
彼は、足におもりをつけてるかのようにすり足で目の前のフェンスまで向かう。
昔、この場所で家族と思い出をつくったのである。しかし、いい思い出ではなかった。そう、この屋上で、実の兄が飛び降り自殺をはかったかったからである。兄の名前は、篤志(あつし)という。
今日、それが自殺ではないことが判明してしまった。そう衝撃の身内、いや、家族の中に篤志を落とした犯人がいたのだった。
なぜそれがわかったのかというと___。
そう、あの犯人のせいで彼は自殺を考えたといっても過言ではない。
そんなことを考えていると後ろから「そこの君、どうしたんだい?」っという声がした。
まさか、こんなところで自殺を止められたら、彼にはもう生きるすべがない。
「ここで少し休憩をしようと思って」
彼は嘘をついた。嘘が嫌いな彼は、これが最初で最後の嘘だとわかっていた。どうせなら、最後死ぬまで嘘をつきたくはなかった。でも今は嘘を言うしかないじゃないか。「自殺を試みてます」なんて言ったら、親に知られて、根性焼きでは済まないぐらいの虐待を受けるのだ。事実、篤志は、そうやって殺されたのだから。
「そうか?俺には自殺しようとしてる風に見えたのだがな?」
何なんだこいつ?じゃあ最初から、「自殺はよくないぞー」って言えばいいじゃないか。
「だとしたら何なんですか?」
しまったと思ったのはもう遅かった。これはもう自殺する人が言うセリフじゃないか。
もう、こんな人間社会で生きていくにはつらすぎる。
『お母さん、お父さん、さやか、美(み)琴(こと)、誠(まこと)へ
僕は、もうこの世で生きていくのは難しいようです。あえて書きませんが、2年前兄の自殺は、家族のうちの誰かというのがわかりました。隠蔽されてしまった証拠は、実は___の中にありました。勝手に見ちゃってごめんね。最後だから、5人にそれぞれメッセージを残しとくね____』
書いた遺書 渡良瀬みなみ @Minami1108
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