たぬきのぽん吉

檸衣瑠

家族

たぬき、というのが我々の種の総称らしい。

大きく、二本だけで動く奴らが私を見るたびにそう呼んでいた。

たぬき、たぬき、たぬき、たぬき、ぽんきち、たぬき、ぽんきち、ぽんきち……

ぽんきち?

私をそう呼ぶしわくちゃの二本で動くでかいのは、「よかったー」と喜んでる。

よく見るとまわりに他の奴らもい……。

「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」



突然の痛みにぽん吉は思わず暴れかけていた。

しかし、今の彼は到底動けるような状態ではない。

痛みに耐えかねたその狸は、再び気を失った。

直前、彼が見たのは、血相を変えたばあさんだった。



(ここは…?)

ふかふかのなんかが敷いてあって、目の前には白のあみあみ。

見たことのない景色だ。

緑の木とも、空の青いのとも違うけど、狭いけど、なんだかとってもぽかぽかして、なんだかとっても、優しい。



目を覚ましたぽん吉を見て、ばあさんはその場で泣き崩れた。

簡単な治療と検査のための入院だったぽん吉は、検査でも異常なしということで、3日のうちに退院し、怪我が完治するまでは、とりあえずばあさんが世話を見ることになった。

ばあさんに抱きかかえられながら病院をあとにするぽん吉は、一瞬、ほんの少しだけ表情を崩した。



「さぁ、今日からここが君の、ぽん吉のお家だよ。私は「ばあちゃん」。よろしく」

飼い主、このばあちゃん?はそう呼ばれるらしい。

ばあちゃんはよく喋った。

なにが好きか、なにを食べたいか、痛くはないか、不満なことはないか。

たぬき、は話せないのに、同じ種と話した方が話しやすいはずなのに、ばあちゃんは、僅かな表情の違いで、気持ちを読み取ってくれた。

いつしかばあちゃんは、なくてはならない存在になっていた。

こういうのを何て言うんだろう?



夫が死んだ。一人になった。

娘も、孫も遊びに来てくれる。ババ友とお茶もする。

それでも、この淋しさも孤独感も消えないまま、気づけば半年が過ぎていた。

お茶帰りのことだった。

タヌキが接触事故にあっていた。

夫を思い出した。気づけば傍で大声をだしていた。

「タヌキ!、タヌキ!、タヌキ!、タヌキ!、ぽんキチ!、タヌキ!、ぽんキチ!、ぽんキチ!……」

このタヌキの名前を私は知らない。

ぽんキチという名がどこから出てきたのかも分からない。

それでも必死にその名を呼んでいた。

ぽんキチが来てから1か月。

今日も愉快に暮らしています。

もしかして、あなたがこの子と出会わせてくれたんですか?

ずっと元気のなかった私のために。

ありがとう。でももう大丈夫です。

もうすっかりぽんキチはいなくてはならない存在になりました。

新しい生活を、大切な存在を、新しい家族をありがとう。

君もそう思ってくれてたらいいな。

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たぬきのぽん吉 檸衣瑠 @Leil-net

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