第23話 方針

 アピサルベット(?)で至高の眠りを堪能した俺は、最高の気分で目覚める



「お目覚めですか?旦那様」


「あぁ、こんな姿勢でアピサルは寝られた?」


「ふふ、寝るよりも素敵な時間を過ごさせて戴いました」



 にっこりと笑うアピサルと共に広場に行くと、モモが豪華な朝ごはんを用意してくれた


 続々とやってくる仲間たちと共に楽しく食卓を囲み、そのまま広場で会議をすることになった


 モモの力で100人以上が入れる建物を用意することも出来るようだが、ロードやアピサルという規格外まで収容するとなるととんでもない規模の大きさになる為、作るのを見送ってもらっている。


 桃源郷には雨が降らないので、野外でも困らないし、融通が利く分何かと便利なのだ



 因みにロードやアピサルに用意された楼閣は、宮殿かな?と思うほどガワは大きいのだが、中身がスカスカしてしまっている


 これはモモが巨大な建物はまだしも、巨大な椅子や装飾を作った経験がなく、まだまだ試行錯誤の段階だかららしい。


 そのことが発覚してショックを受けたモモが――


「わたくしめのおもてなし力って、本当はミジンコレベルなんじゃ......わたくしめは、皆様のお役に立てないダメ妖精なのです......」


 ――と不貞腐れて地面に座り込む一幕があったのだが、見かねた俺が励ますと「がんばりましゅ~」としっかりと言葉を話せないほど号泣しながら喜んでくれた。


 本当に一生懸命でいい子だ


 まぁ当のアピサルやロードは、宮殿は、いつか支配地域ができた時に作ればよいと考えているらしく、心地よい環境の桃源郷であれば、野外でも何も不満はないといっているのだが、これはモモのプライドの問題らしい


 ちなみにピー助に用意された小さなお家はとても凝った作りになっていて、ピー助はかなりご機嫌だった


 全部ひとりで用意するモモが大変そうなので、本来の世界ではどうしていたのか聞いたところ、桃源郷世界はたくさんの妖精で管理していたらしく、得意不得意があるのは、管轄が違った為らしい


(いつかモモにもお手伝いさんを雇わせてあげたいな......)


 あの小さい身体でこれだけの広さを管理するのは並大抵じゃないと思う。この世界にもモモと同じような妖精種族とかが居ればいいのだが、その為にもこの世界についてもっと知らなくてはならない


 そんなことを考えていると、皆がそろったらしい


 全員が揃ったタイミングでオルトレーンが声を発した



「ではこれから、神の記録奪取計画についての作戦会議を行う。小僧よいな?」


「うん、はじめてくれ、オルトレーン」


「まずは神の記録奪取計画についてじゃ、ガルバード殿、意見はあるか?」


「は。我らが加護を取り上げられたことで、王都は混乱に包まれている事と思われます」


「どういうこと?」



 聖騎士が居なくなって混乱するならわかるけど、加護が取り上げられて混乱とは意味が解らず口をはさむ



「ガルド=イグノアの加護は総量が常に一定なのです」


「ん?どういう事?」


「加護を持つ者が死ぬと、別の者が加護に覚醒するのです。加護を扱う強弱によって人数の変動はあるのですが、力の総量はおおむね変わりません」


「一人のデミゴットが生み出せるリソースには限りがあるという事か」


「そして強力な加護を保持していた聖騎士111名が同時に加護を失いました、つまり」


「王都には111人分の加護が突如としてあふれたってこと!?」



 俺は昨日の裏路地で子供を殴っていた男たちが加護を発動した時の事を思い出す


 あの狂戦士とも呼べる変化が100人を超える人間の元に突如として現れたのなら、今頃王都は大パニックかもしれない


 それを知った俺は慌てて立ち上がる



「それじゃあ、急いで向かわないと!」


「待つんじゃ、小僧」


「でもオルトレーン。今この瞬間にも苦しんでる人が居るかもしれない!」



 俺はオルトレーンの冷静な声につい声を強く出してしまう



「オルトレーンは加護の総量が一緒の事を知っていたんだろう?何で昨日教えてくれなかったんだ、そうだと分かっていれば昨日の段階で」


「小僧!」



 オルトレーンの強い静止の声に、冷静になる



「......すまないオルトレーン」


「わかればよい、まずは冷静になり出来る事と出来ない事を見極めるべきじゃ」



 冷静に考えればわかることだ。俺が思い至る程度の事、聖騎士や王女様が思わないわけなかった。それでも動かなかったのには理由がある


 加護を失った聖騎士の人たちの戦闘力は未知数。力の変化に慣れなければ、強敵と戦う事はまず不可能だろう。


 そして少数で潜入するならともかく、聖騎士の皆やロードやアピサルが王都に行けば争いは必至。より多くの犠牲が出るのは確実だ



「だけど、苦しんでいる人が居るなら出来る限り助ける、この方針は捨てたくない」


「有難うございます。竜将様」



 民を愛し、戦争を止めるため、敵国の神に直談判しようとしたアリシア王女は、俺の方針を喜んでくれている



「......それならボス、私が行ってくる」



 ヴァイオレットの発言にキューレが噛みつく



「アンタ正気?こいつらの炎は天敵だろ」


「それでも、それが一番被害が少ない」



 隠密行動に優れるヴァイオレットが単独潜入を立案する


 確かに一度王宮の演習場に潜り込んだ実績があるヴァイオレットなら成功する可能性が高い



「ガルバード。ヴァイオレットなら神剣の元にたどり着けると思うか?」


「我らの出立式を見ていたというその技量があれば、難なくたどり着けるだろう。我等十二聖騎士団が盗み見されていたと聞かされた時は、到底信じられなかったがな」



 そういって笑うガルバード。


 昨日の宴会でヴァイオレットの潜入の話になり「さすがにそれは嘘だ」と、ロードの屁で何度も吹き飛んでボロボロになったディオンが主張。


 それならばと、聖騎士全員VSヴァイオレットでかくれんぼをすることになった。


 面白そうだと参加したマリエルや武王丸の真眼をもってしても、ヴァイオレットの潜伏術を暴くことはできず、全員がお手上げ状態だった



 因みにヴァイオレットが隠れていたのは俺の影だった


 気が付いた時には、ヴァイオレットが横で何かを食べていて


「......ん?その饅頭は?」


「ボスが食べてたやつ。美味しい」


 いつの間に俺の手にあったはずの饅頭が無くなっていた。


 これだけのメンツが血眼になってあたりを探していたのに、ヴァイオレットの本気は恐ろしい


  「馬鹿侍も、天使も、護衛失敗」


 ヴァイオレットが盛大に煽り散らかし、モモに続き、マリエルまで「私はミジンコ以下......」


 ――と落ち込む場面があった



 アピサルだったら見抜けるのか、疑問になって寝る前に聞くと、当たり前ですといわんばかりに優しく微笑んでた。流石アピサル




 まぁそんなこともあり、ガルバードはヴァイオレットの潜伏には絶大の信頼を寄せたようだ



「しかし、相手には神がついてる、ヴァイオレット一人に行かせるのは心配だ」



 誰も勝てないと思ったロードとアピサルを武王丸が斬ったように、絶対は存在しない。ヴァイオレットもあっさりと見つかって、やられてしまうかもしれない


 やはり単独行動は不安が尽きない



「ふむ、であればこうしよう。ワシとキューレとピー助とヴァイオレットの四人で王城近くにテレポートをし潜入。ワシ等は隠れやすいところで待機し、ヴァイオレットが単独で潜入。ヴァイオレットにはキューレの糸をつけておき、異常があればその糸で知らせ、ワシが即座に糸の魔力をたどりテレポートを行い全員で即時撤収。ワシ等の方がばれた場合は、ピー助のバフを頼りに撤退戦を行い、ヴァイオレットの結果が出るまで粘った後撤収じゃ」


「確かに忍ぶのであれば、私はお役に立てませんね......」


「じゃあオルトレーンの策を採用して、残ったメンバーには俺と聖騎士を鍛えてもらうことにしよう」



 俺の言葉に少し落ち込んでいたマリエルと聖騎士の皆が表情を明るくする


 聖騎士の皆は力の変化に慣れるために少しでも多く模擬戦闘を行いたいのだろう



「竜将殿、お心使いに感謝する」


「当然のことだよ。あ、ロードには頼みたいことがあるんだけど」


「なんだ?」


「灰の平原ってとこの様子見てきてくれない?」


「混乱に乗じた者がいないかの観察か。しかしよいのか?又加減なく敵を屠るやもしれんぞ?」


「なるべくなら穏便に済ませてほしいのが本音だけど、この世界でその考えが良くない結果を招くのはこの二日でわかったつもりだ。被害に目をつぶってでも、神殿建設のせいで魔王が召喚される事は防ぎたい。これが神の指揮下に入って、力が増すと厄介そうだし

 」


「うむ、では余に任せるがよい」



 やっぱり細かいところに気を使い続けるのはストレスなのだろう。ロードはストレス発散の機会に無邪気な笑みを浮かべた



「よし、それじゃあ行動開始だ。皆必ず生きて戻るように。吉報を待ってる」


「了解、ボス」



 そうして方針が決まり俺達は動き出す


(ヴァイオレット...頼んだぞ)


 俺は、仲間の背中を見送った





 ###王城内部 神の間



 ガルド=イグノアを唯一神へ押し上げるために存在する国ヴェルディア王国


 その特殊性から神殿は存在せず、ガルド=イグノアの本殿は王城の一番重要な場所、つまり一般的に玉座の間と呼ばれる場所にあり、神の間と呼ばれていた


 玉座の後ろに、ガルド=イグノアの像が立てられており。神は王の上に在り、王は神の代理に過ぎないというのが誰の目にも明らかになるような作りになっていた


 人の気配のない神の間


 しかし、そこには一人の人間が居た


 その人こそ玉座に座り、うつろな目で宙を見つめる聖騎士王レオンハルト・ヴェルディアであった。かつてアリシア同様に金色に輝いてた頭髪は全て白く染まり、頬はこけ、血色の悪い肌。地面に突き立てる鮮やかな両手剣をとても振り回す事は出来なさそうな細い腕をしていた


 レオンハルト王は、そばで耳立てなければ到底聞こえぬほど小声でブツブツとつぶやく


「イレギュラー......発生......原因......不明......精鋭の離反を確認......神へ露見した場合......神格剥奪の可能性大......救援要請......却下......確実な殲滅を実行......すべての傀儡をもって対処......ゼロス様に......栄光を」



 レオンハルト王を見下ろすガルド=イグノアの神像は鈍く光り輝いていた


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