第17話 神話を超える者

 ###副団長セラス・ルミナード



 山脈を越えた瞬間、私は見た


 森を破壊しながら悠然と歩く、15mの巨人を



「あれが......」



 全身から冷や汗が噴き出す



 (偵察から戻った部下が騒ぐわけね)



 これほどの存在感は、神以外で感じたことがない


 いや、違う、神ですらここまでの圧迫感は放たない



 (戦争の魔力汚染で生まれる魔王はこんなにも強大なの?)



「全軍、戦闘配置!」



 私と違い、魔王の討伐経験のあるガルバード団長が檄を飛ばす


 12騎士団は基本的に団長が大まかな方針を決め突撃し、戦闘中は中からの指揮を


 副団長の私が全体を俯瞰し、状況に合わせた戦術指揮を執る戦闘形態をとっている


 私の率いる第一中隊はガルバード団長の合図と共に全隊よりもさらに高高度を取り、戦場を俯瞰できる位置に来る


 遠距離狙撃特化の第十中隊とそれを率いるリディアも上がってくる


 リディア含め、中隊の兵士は皆、目の前の存在が放つ圧倒的な覇気に顔を蒼くしている


 有利な位置を取るために高度を取ったが、まるであの化け物と距離を取りたくて、無意識に上空に上がったのではないかと錯覚してしまう程のプレッシャー



(先陣を切る団長の背中が見えなければ、皆動きを止めていたでしょうね)



 化け物はこちらにとっくに気が付いているくせに動かない


 まるで私たちを値踏みするかのようにこちらをじっと見ている



(この世に死神がいるとしたら、あれよりは可愛い存在でしょうね)



 恐怖に駆られそうだからこそ、心の中で冗談を言い平静を保つ


 本来であれば気の利いたジョークで部隊の皆の緊張も取ってあげたいところだけど、生憎私にはその手の才能はない


 第二席のディオンや第三席のルークがこの場に居ればきっと皆を和ませてくれたはずだが、生憎彼らは今灰の平原へ命がけの偵察へ出ている


 だから私は私に出来るやり方でやるしかない



「あなた達!皆が効率よく戦えるかどうかは、私達のサポートにかかっているのよ、恐怖を振り払い、敵味方の観察に集中しなさい!」



 私の言葉にハッとする聖騎士たち

 呼吸を整え、団長の動きを注視する



 団長は、どこまで近づけば化け物が動き出すかを慎重に見極めているようで、ゆっくり、ゆっくりと距離を詰めていく



 次の瞬間に戦いが始まってもおかしくない状況に

 いつもの数倍心臓の鼓動を感じてしまう



 本来であれば団長が直接指揮を執る第二から第五の中隊で正面からぶつかりながら内側の包囲網を、第六から第9隊までが援護射撃をしながら外の包囲網を形成していく序盤戦を展開する筈であった


 しかし、微動だにせぬ魔王を見て団長は賭けに出たらしい


 戦端を開く前に大胆にも部隊を展開したのだ


 部隊の展開は大きな隙を生む


 今この瞬間に魔王からの先制攻撃を受けてしまっては主導権を握られ被害は甚大になるだろう


 しかし、団長はこの魔王はこちらに先手を完全に譲るつもりだと読んだようだ


 それであれば我らも相応しい行動をするのみ



「各位、方陣展開準備、初動で行くわよ」



 団長が狙っているであろう作戦を、その行動から読み取り動く


 部隊の皆がそれぞれのポジションに展開していく


 団長はこちらを一瞬確認すると満足げに笑い



「全軍―――!!!」



 総勢107名の兵士が武器を構える




「突撃ぃぃぃぃ!!!!」


「「「「「「「「「「「ガルド=イグノア様の加護よ!」」」」」」」」」」」」」


 前衛に居た聖騎士が全員同時に武器の先端に神の炎を宿し、エレメントが溜めていた力を一気に解き放つ


 加護によりステータスの急上昇した聖騎士たちが、己の持てる最大スキルを詰め込んだ


 目にも留まらぬ速さの41のチャージアタック


 そこに後方部隊が最速でガルド=イグノア様の加護による神聖を帯びた火炎弾を放つ


 真っ赤な軌道を宙に刻む54の流星群


 爆発的な火力を内包する95の攻撃が


 魔王に同時に着弾しようと迫っていく



 無策で当たればいかな神話級存在であろうとも致命傷は確実の1手



(あれだけ攻撃を誘ったのだから、どこかで確実にカウンタースキルを発動し1手ですべてをひっくり返しに来るはずよ!)



 魔王の狙いは誰もがわかっていた


 カウンタースキルは攻撃したものを破滅へと追いやる効果のものが多い


 強力な一撃とは常に諸刃の剣


 最大出力の攻撃を放った直後に完璧なカウンタースキルを叩き込まれたら、全員が致命傷を負うだろう


 つまり、1手ですべてが終わる



(だからこそ――)



 上空に布陣した12名は、だれもが瞬きすることなく魔王を見続ける


 そして、魔王の目線が、足先の筋肉が、指先の形が、重心が、ほんの、ほんのわずかに動こうとした



(ここ!!!!)



 12人は魔王の行動の起こりを誰もが見逃さず完璧の捕らえる




「「「「「「「「「「「「十二星座陣・神光封印陣」」」」」」」」」」」」



 この上なく完璧なタイミングで魔王に、十二芒星の光の柱が降り注ぎ、魔王の初動を完璧に止めた



 そして次の瞬間


 聖騎士最大出力の、神をも負傷させる致命の一撃が同時に着弾した









 ズゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン











 余りの破壊力に煙に包まれる一帯


 巨大な魔王の体を全て覆う煙によって、ダメージの具合はわからない


 前衛たちは加護によってフレンドリーファイヤーは無効化したものの、魔王からの反撃があれば致命傷は必至


 即座に煙から距離をとり、布陣を整える


 下がる前衛と入れ替わるように、後方部隊から風魔法が送られ、煙を急速に晴らしていく



 そして煙が晴れていくと


 魔王のあの青白い肌が徐々に見えてきて


 最大の攻撃によってボロボロになってるはずの魔王の皮膚は


 どこまでもきれいに整っていて


 その顔は――


「矮小なる者とは言え、勝利の美酒がうまく感じる程度には骨があるようだな」


 ――楽しい遊びを発見した子供のように破顔していた





「っ総員散会!!」



 団長から鋭い号令がかかる


 魔王に対し完全優位の布陣を取っていたが、放棄する選択を選んだらしい


 しかし、その判断は少し――



「遅いな」



 魔王がつぶやいた瞬間、第二中隊とその後ろに布陣していた第七中隊が跡形もなく消し飛んだ



「......は?」



 聖騎士が誇る封印陣はいつの間にか掻き消えている


 余りの事態に頭が現状を理解することを拒む



「総員、加護を全開にせよ!!」



 団長が声を張り上げるが、その声に反応できるものは誰もいない



「セラス・ルミナァァァァァド!!!!」



 団長が私の名を全力で叫ぶ


 その言葉にハッとし、正気を取り戻す



(そうだ!私は何をしている!?私の役目は戦況の変化における全体指揮!!)



「スキル!!強制コマンド!!全軍!加護全開!!」



 私の持つ血族スキル、強制コマンドによって私の支配下にある全ての兵士が私の命令に強制的に従う

 初代の勇者様は”命令させろ”と発音していたらしいが、正式名はこちらだ



 直後、全員が再生の炎を身体から噴き上がらせる


 消し飛んだ中隊の面々も森の中で復活している気配を感じる


 ガルド=イグノア様の再生の炎は死後に自動発動することもある


 しかし、ガルド=イグノア様の目の届く範囲は限られており、強い加護を持つものが同時に死んだ場合、死者復活の加護が発動する確率が著しく下がる


 確実に発動させるには事前に復活を願っていなければならない


 今は全員が攻撃に全振りしていた直後だから、復活を願う暇はなかったのだが、強制発動によって、何とか間に合ったらしい



(ガルド様に感謝を!......問題はここから!)



 部隊が混乱している可能性を考慮して私はまだ強制コマンドを解除しない


「第六は犠牲の加護を維持したまま後方に移動!第三これを援護!第四は魔王の視線を遮るように遊撃開始!第五は落下した二と七を救護、エレメントを復活させたのち戦線に復帰!第八は団長の援護!第十は私につづけぇぇぇぇ!」」


 聖騎士団が一斉に動く。


 魔王は強大だ、だが、まだ負けていない


 確かに軍では負けた、だがしかし、個では負けていない



(我らが希望、ガルバード・ヴォルフ団長は、神をも超える!!)



 魔王は愉快そうにしながらも、飛び回るかく乱部隊が煩わしいようで、まるで虫でも払うかのように大きく腕を振っている


 その速度は巨体に相応しく緩慢に感じる



(結界を破壊した、神速の一撃は何らかのスキル!?あの愚鈍な魔王の能力は腕力と生命力に全振りされていて、それを補うためのスキルがいくつかある......?)



 目の前の情報が真実であれば負ける事はない


 加護を発動した聖騎士であれば当たることはないし、再度あのスキルで消し飛ばされたとしても復活が可能



(加護による障害を受けてでも、ここで魔王を滅ぼす!)



 次々に指示を飛ばしていると、こちらに向かって真っすぐ飛んでくる4つの影


 灰の平原に偵察に出ていたディオン達だ



(よかった、皆生きてる)



「報告!灰の平原に敵影無し!」



 全員が生還したことから予想は出来ていたがそれでも言葉にして聞くと嬉しさが募る


 どうやら魔王の行動に合わせて灰の平原を狙われるという最悪の事態は避けられたらしい



「それはよかった」


「で、これはどんな状況だ」


「あり得ない化け物、一瞬で2個中隊を滅ぼすスキルと、全員の最大出力同時着弾攻撃を食らってもかすり傷一つない」


「はぁ!?なんだそりゃ!?ありえぇねだろ、ぜってーなんかのスキルが――」


「ない、12結界で起こりを潰した」



 私もこの目で見ていなければ絶対に信じられない状況に、ディオンと第三席のルークが言葉を失う


「はいはい、状況共有はこの辺でおしまい、これ以上セラスの脳みそ使わせないの」


 それを見て第四席のエリナが明るく声をかける


「そんなぶっ飛んだ状況でもあきらめてないってことは、団長に加護が集まるの待ってんでしょ、良いよ、あたし等にも命令出してこき使って、加護集めるための自爆でも何でもやってやるからさ」


 エリナの言葉に合わせるようにいつも無口な第五席グレンが漆黒の甲冑を炎で包み飛び出していく



「あ!おい!グレン!抜け駆けすんじゃねぇ!!」



 それをみたディオン達が慌てて後を追いかけていく



 私はその背中を見送る


 そう、今は団長に加護を集めるための戦闘を行っている


 ガルド=イグノア様の加護は一定ラインを超えると、全ステータスを1段階引き上げてくださる効果がある


 しかしただ待ってれば加護が集まるというわけではない


 ガルド様の権能は炎、勇気、そして犠牲


 それら三つの要素が満ちれば満ちるほど強い加護を与えてくださるのだ


 私達の命の燃焼が、神の力になり、神はそのお返しに強力な加護を授けてくださるというわけだ


 その為、兵士たちは勇気をもって魔王に挑み、そして仲間を庇うためい、仲間の攻撃を通すために、その身を犠牲にしていく


 勿論復活が前提の犠牲だが、時折、復活を願っていたとしても奇跡が起きず、文字通り犠牲になることがある


 この匙加減は神のみぞ知る


 だから私たちは、いつ終わるとも知れぬ復活に希望を託しながら、その身と心を犠牲にするのだ



 過去の戦でも私の強制コマンドによって犠牲を強いられ、そのまま消えてしまった仲間がいる



 今日の戦いではそんなことが起きないよう、私は神に祈りながら、仲間を犠牲に、団長へ加護を集めるための采配を振るうのだった








「ふむ、やはり力を抑えて駆逐は無理か、であれば」






 あと少しで団長に加護が溜まる


 そんなタイミングで魔王は理解ができない発言をしだした



(力を抑える?何を言ってるの?)



 神話級を傷付けられる攻撃をノーガードで受けてもダメージが通らない程の力を、かすれば精鋭がはじけ飛ぶ力を発揮しておいて、いったい何を言っているのか、理解ができない



「―――これをどう乗り切るか、見せてみよ」



 魔王の両手に稲妻がほとばしる


 それはこの地を見捨て、去ったといわれるアストラ=ヴェリタス神の星の力を彷彿とさせるもので


 稲妻のはずなのに、夜空に煌々と輝く一等星や、それこそ太陽のように白く輝いていて



(綺麗……)



 そのあまりにも美しい死の体現に


 それまで考えていた思考も戦術も何もかも忘れてしまい



「帯電爆破ぁっ!」






 その言葉を聞いたのが先か


 白そのものに染まり、なにも感じられなくなった自分を認識できなくなったのが先か







 私は死んだ
























「――――――――っっ!」





 はずだった



 全身の血が逆流する






「ぉぇぇぇぇぇ」






 口から、耳から、目から、体のありとあらゆる場所から何もかもを吐き出している気分になる




「ぁ...ぁ...」



 私は...





 ......




 いったい......





「安心してセラス、皆のダメージは、私が引き受けるからさ」






 戦の前に明るく声をかけてくれたミレイユの声が脳裏によみがえる


 それを認識した瞬間私の意識は一気に覚醒する




「ミレイユ!?!?」




 今の声は間違いなくミレイユの声だった


 あたりを見渡すと、すべての聖騎士が


 さっきまでの私と同じ状況にあった




 死んだのだ






 全員






 光に飲まれて余すところなく消えたのだ



「ミレイユ!?ミレイユ!?」



 私はその中にミレイユの姿が無いかを必死に探す



 私はミレイユに何を命令していたのだったか



 私はミレイユに一体―――



 その瞬間記憶がフラッシュバックする



 ―――部隊が混乱している可能性を考慮して私はまだ強制コマンドを解除しない


「第六は犠牲の加護を維持したまま後方に移動!第三これを援護!第四は魔王の視線を遮るように遊撃開始!第五は落下した二と七を救護、エレメントを復活させたのち戦線に復帰!第八は団長の援護!第十は私につづけぇぇぇぇ!」」


 聖騎士団が一斉に動く―――



 そうだ、私はあの時、ミレイユの固有スキル犠牲の加護を維持しろって命令を出して


 犠牲の加護は、仲間の負傷を全て自分に移す犠牲系スキルで


 ガルド様の加護とすごく相性がいいからって


 私にも役に立てることがあるんだって


 いつも誰より後ろに居るのに、だれよりボロボロになって


 笑ってて......



「嘘でしょ、ミレイユ!? ミレイユ!?居るんでしょ!?復活してるのよね!?ねぇってば!返事しなさいよ!」



 本当は頭ではわかってる


 ミレイユはもういないのだと


 死んだのだと


 だって、ミレイユが生きていれば


 今この瞬間にも私のコマンドのせいで強制的に犠牲の加護が発動して


 聖騎士の皆が復活してるはずなんだから......



「あぁぁ、あぁぁぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」




 私はまたやってしまった


 また強制で犠牲を強いて


 また親しい友人を、仲間を......








「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ」






 パシン





 正気を失いかけた私の頬を誰かがはたく




「...え――?」




 それは顔を蒼白にしながらも、それでも目から闘志を消していない団長だった



「セラス・ルミナード、同じ戦場で二度も君をしかりつけるのは、新兵の頃以来だな」


「ガルバード......団長?」


「セラス、しっかりするんだ、君が役目を放棄することは、私が――犠牲になった仲間が許さない」


「団長......」


「セラス、私に強制コマンドを使うんだ。私にすべてをかけて、奴を斬れと、命じてくれ」


「何故......」


「情けないことに私も、満足に私の身体を扱えそうにない、だから君の力を借りたいんだ」


「加護を使えば...」


「治すことには使わない、この空間に満ちる炎と、勇気と!……犠牲の加護は!すべて!!!」



 団長が、冷めた目をこちらに向けている魔王に剣を向けて叫ぶ




「あいつを斬るのに使う!!!」




 その溢れんばかりの闘志は、背中を向いてる私にも痛いほど伝わってきた



「やるぞ!私と、君と!ミレイユとで!あいつを!魔王を斬る!!」



 ミレイユと一緒に


 その言葉で私の心に再び戦う勇気がわいてきた



「っ強制コマンド!ガルバード・ヴォルフ!貴方のすべてをかけて、あの魔王を一撃の元葬り去りなさい!!」


「了解したぁぁぁぁぁ!!!」



 強制コマンドが発動した瞬間、団長から光の線が迸る


 炎が圧縮され、全てを燃やし尽くす一筋の光となっているのだ




 今の団長は、間違いく神を超えた


 神話を殺す存在だ


 あの悪夢を終わらせられる勇者だ






「グオオオオオオオッッ!!」





 あまりに強大な加護によって狂気に支配されそうになりながらも、コマンドによりかろうじて自我を保つ団長が、雄たけびと共に天高く跳躍する。



 大剣に、全ての光が集まり、神をも殺す力が具現化されていく


 団長がもつ聖騎士王より賜りし【守護者の大剣】から巨大に伸びる光剣


 巨大な魔王を斬るためにだけこの世に顕現した巨大な断罪の剣




「聖騎士の名において貴様を斬る――」






  団長の声が、戦場に響く。






「――【聖騎―――断罪】ッッ!!」







 巨大な光剣は、地平線の彼方まで続くと思われるほどの光の奔流となり






「グオオオオオオオオオオオオオォォォッッ」






 巨大な魔王を真っ二つに切り裂いた



















「う......うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」



 それは誰が上げた雄たけびか


 その軌跡を目の当たりにした全て者が目から涙を流しながら


 ボロボロの身体をたたき起こして、天に手を突き上げ


 その偉大過ぎる偉業をたたえた






「見事ッ!!!」




 そう、魔王ですらその偉業をたたえたのだ






「――え?」





 バチバチバチッ!



 すると真っ二つに斬られた魔王の断面から稲妻が迸る


 それはお互いを求めあうかのように、もう片割れから発せられた稲妻と結ばれ


 その距離がだんだん近くなり


 ピタリと


 何事もなかったかのように魔王の体がつながった



「誇るがよい、余の長き勝利の歴史においてはじめての事であるぞ!2日連続で人間に斬られるのはな!!」



 魔王が、満足げに笑う。



「なぜだ......なぜ死なない!あれは、神をも殺す一撃だった!!」


「神殺し"程度"の一撃で、滅ぶわけなかろうが」


「え......?」


「ん?知らぬのか?英雄級が決して神話級を斬れぬように、神話級"程度"の実力では、創成級は切れぬのよ」


「そ、うせい、きゅ?」


「ん?本当に知らぬのか、神話級が至高と思っておるのか?愚かな、神話級など、神話の世界に行けばつまりそれは、雑兵とかわらぬということではないか」


「神が...雑兵?」


「当たり前であろう、神と戦うのは神なのだから、というか貴様らが崇めてる神はそれこそ本物の神が作り出した雑兵が、さらに作った更なる雑兵が用意した雑用係の様なものなのだぞ?雑用係を斬る力を手に入れていったい何が――」



「あはははははははははははははははは」



 壊れた


 私の目の前で


 私の愛する人が


 私の最愛の人が


 この世で最も敬愛する人が


 誰よりも尊敬する人が




 どうしようもないくらい惨めなすがたで壊れた





 その事実が


 私にとっては魔王の発言よりも怖くて、認めてはならないモノだった






「聖騎士団員全軍起きろぉぉぉぉぉ」






 もうスキルを使う力なんて残ってないから


 私は喉が裂ける程、全力で叫ぶ



「動けるものは!団長と共に後退!団長こそが、この世界の希望!団長だけは、絶対に死なせてはならない!!動けないものは肉壁になれ!まだ心折れておらぬものはぁぁぁ!!!」



 もう何が何だかわからないけど


 私は本能が赴くままに武器を手に走り出す



「私と共に死ねえええええええええええええ」


「グハハハ、よかろう!その心意気に免じて最後は本気で――」







「ロード!やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!」







 声の方に目をやると、別の魔王がこちらに来ていた

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