第2話 ゼロからの始まり
翔太が退院してから、一ヶ月が経った。
彼は実家に戻って、リハビリを続けていた。身体は順調に回復していたけれど、記憶は戻らなかった。
私は、翔太に会いに行くことを決めた。友達として。
「こんにちは」
ドアを開けた翔太は、驚いたような顔をした。
「あ、病院で会った...」
「美咲です。様子を見に来ました」
「ありがとう。上がって」
部屋は、私が知っている翔太の部屋だった。でも、彼は私のことを知らない。この違和感が、胸を締め付けた。
「記憶、戻りました?」
「いや、まだ。医者も、いつ戻るかわからないって」
翔太は寂しそうに笑った。
「両親が色々教えてくれるんだけど、全然ピンとこなくて。自分の人生なのに、他人事みたいな感じ」
その気持ち、想像できなかった。でも、辛いんだろうと思った。
「大変だね」
「うん。でも、こうして会いに来てくれる友達がいるって、嬉しい」
友達。その言葉が、痛かった。
それから、私は週に一度、翔太に会いに行くようになった。
最初は、何を話していいかわからなかった。思い出話はできない。今の話をするしかない。
「仕事、どう?」
「まだ復帰できてないんだ。もう少しリハビリが必要で」
「そっか。焦らなくていいよ」
「ありがとう。美咲は優しいね」
そんな会話を重ねるうちに、少しずつ、翔太との距離が縮まっていった気がした。
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