第6話:詩人、炎上からの逆転(悲劇率30%)

炎上から一週間、小説投稿カフェ「ストーリー・ハート」は閑古鳥が鳴いていた。


「お客さん、全然来ないわね……」


タケシ店長がため息をつく。シェイクスピアは隅のテーブルで、スマホの炎上コメントを眺めていた。


「重い詩人作家」「恋愛を詩扱いする男」


「我の詩が、こうも誤解されるとは……」


ユキが慰めるように言った。


「でも、謝罪動画は好評よ。『素直で好感が持てる』『応援したい』って声もあるし。あなたみたいな人が謝る姿、キュン死しちゃうかも♡ 私だけが知ってる素直なシェイクスピアさん♡」


確かに、謝罪動画のコメント欄には温かい言葉が並んでいた。


「詩人さん、頑張って!」「次は軽いラブコメお願いします♡」「実は内容は当たってたと思う」



そんな中、一人の女性客がカフェに入ってきた。30代前半の女性、佐藤美咲。目が赤く腫れていて、明らかに泣いた後だった。


「あの……詩人作家の方ですよね?」


シェイクスピアは身を縮めた。


「申し訳ない……我の言葉で不快な思いを……」


「いえ、実は……」


美咲が声を震わせながら続けた。


「テレビを見て、どうしても相談したくて」


シェイクスピアはその真剣さに驚いた。


「何があったのじゃ?」


美咲が涙ながらに話し始めた。


「5年付き合った彼と……昨日、別れました。でも、まだ諦められないんです」



シェイクスピアは今度は慎重に、詩的表現を控えめにして答えた。


「まず……何があったのか、詳しく聞かせてくれ」


美咲は涙を拭きながら話した。


「彼は医師なんです。激務で、最近全然会えなくて……私が『もっと時間を作って』って言ったら、『君には理解できない』って言われました」


「それで?」


「『医者の仕事の重さを分かってない』『患者の命がかかってるのに』って言われて……確かにそうかもしれないけど、私だって寂しくて」


シェイクスピアは深く頷いた。


「君の気持ちも、彼の気持ちも、どちらも正しい」


「え?」


「彼は患者を救いたい。君は彼と一緒にいたい。どちらも愛ゆえじゃ」


美咲は涙が止まらなくなった。


「でも、もう遅いんです。昨日『別れよう』って……」


シェイクスピアは静かに立ち上がった。


「美咲よ、聞け。愛とは理解し合うこと。君は彼の仕事を理解しようとしたか? 彼は君の寂しさを理解しようとしたか?」


「それは……」


「今からでも遅くない。彼の病院に行け。そして言うのじゃ。『あなたの仕事を理解したい。患者さんを救うあなたを支えたい』と」


美咲が驚く。


「でも、迷惑じゃ……」


「愛する人を支えることが迷惑なはずがない。君の愛を、行動で示すのじゃ」


ユキは横で見守りながら、感動して涙ぐんでいた。


「シェイクスピアさん……素敵」



翌日の夜、美咲から涙声の電話がかかってきた。


「シェイクスピアさん……ありがとうございました」


「どうじゃった?」


「病院に行って、彼に言いました。『あなたの仕事を理解したい。患者さんを救うあなたを支えたい』って」


「それで?」


「彼……泣いたんです。『君にそんな風に言ってもらえるなんて』って。『僕も君の気持ちを理解しようとしなかった』って謝ってくれて」


シェイクスピアは胸が熱くなった。


「そうか……」


「今度、彼の仕事について詳しく教えてもらうことになりました。私も医療事務の勉強を始めて、少しでも彼の力になりたいって」


「素晴らしい……」


「本当にありがとうございました。あなたのおかげで、愛の本当の意味がわかりました」


電話を切った後、シェイクスピアは静かに涙を流していた。ユキとケンタも感動している。


「すごいわ……本当に愛し合ってるのね」


タケシも目を潤ませた。


「これが本当の恋愛相談ね……」



その日の夜、シェイクスピアは動画投稿をした。タイトル:『#詩人作家、初ハッピー報告』


「皆の者、報告がある。ついに我のラブコメが的中した!」


動画が反響を呼んだ。


「おお、当たったのか!」「詩人さん、やるじゃん♡」「次は私も相談したい」



その後、美咲の話が口コミで広がり、カフェに次々と相談者が訪れるようになった。


「美咲さんから聞きました。本当に愛について教えてくれるって」「私たちも相談させてください」


シェイクスピアは一人一人の話を真剣に聞き、心からのアドバイスを送った。大学生カップルの仲直り、片思いの成就、夫婦関係の修復……どの相談も、美咲のケースのように深い愛の理解に基づいたものだった。



一週間後、美咲が彼と一緒にカフェを訪れた。


「シェイクスピアさん、紹介します。私の恋人の健太郎です」


医師の健太郎は深々と頭を下げた。


「美咲から話を聞きました。僕たちを救ってくださって、ありがとうございます」


「君たちが愛し合っていたからじゃ。我はただ、それを思い出させただけ」


美咲は涙ぐみながら言った。


「今度、私たちの結婚式に来てください。あなたがいなかったら、今の私たちはありませんでした」


シェイクスピアは胸が熱くなった。


「喜んで参加させていただく」



その夜、美咲からの感謝のメッセージが届いた。


『シェイクスピアさん、本当にありがとうございました。あなたに教えてもらった「愛とは理解し合うこと」を忘れずに、彼と幸せになります。あなたのような方に出会えて、私は幸せです』


口コミが爆発的に広がった。


「詩人作家、本当に愛を理解してる」「美咲さんのカップル、本当に幸せそう」「#詩人作家の愛の相談」


シェイクスピアの評判は回復し、カフェは連日満席になった。


「本物の恋愛相談ができる」「愛について深く考えさせられる」



その夜、シェイクスピアは一人で考えていた。


「なぜ急に当たるようになったのじゃ?」


ユキが答えた。


「詩的表現をやめて、相手の気持ちに寄り添うようになったからよ。悲劇じゃなくて、ハッピーを書くようになった。あなたみたいな人が書くと、キュン死レベル♡」


「ハッピーを書く……」


シェイクスピアは何かを悟った。


「そうか……詩の極意は『人の心を知る』。ラブコメも同じ。相手の心を知り、自分の心を知る……」


「それよ!」


シェイクスピアは羽根ペンを開いて宣言した。


「よし! これからは『心の喜劇』で行くぞ! 悲劇ではなく喜劇、それがラブコメの極意じゃ!」



翌日、美咲の友達が2人連れてきた。


「シェイクスピアさん、友達も相談してほしいって!」


シェイクスピアは胸を張った。


「任せよ! 連鎖は加速する。5組から、やがて50組、500組へ……」


ユキは感動していた。


「美咲さんたちを見てると、本当の愛って素晴らしいのね。私も……いつかそんな愛に出会えるかな」


シェイクスピアはユキを見つめた。


「君はもう十分愛に満ちておる。君の優しさが、我を支えてくれているではないか」


ユキは頰を赤らめた。


「シェイクスピアさん……」


ケンタが茶々を入れた。


「おお、いい雰囲気じゃん!」


二人は慌てて離れた。シェイクスピアの作家人生に、ついに転機が訪れたのだった。



その夜、シェイクスピアは一人静かにつぶやいた。


「愛とは理解し合うこと……美咲と健太郎が教えてくれた。我もまた、愛を学び続けねばならぬ。そして、ユキよ……君との愛も、いつか理解し合えるのだろうか」


(第6話 終わり。次話へ続く。)




🎭 次話予告

第7話「連鎖、加速する(悲劇率20%)」

口コミで評判が広がり、連日満席のシェイクスピア。今度は別れたカップルの復縁相談が舞い込む。さらに、美咲の友達2組が来店し、連鎖は加速!

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