第4話:ロミオとジュリエットを再演してみた(悲劇率50%)

「朗読会をやりたい」


シェイクスピアが突然言い出したのは、第3話のアプリ惨敗から三日後のことだった。


「我が代表作『ロミオとジュリエット』を現代風にアレンジして披露する。恋愛の本質を伝えるのじゃ」


ケンタは頭を抱えながら言った。


「また悲劇を……」


「違う! 今度はハッピーエンド(誰も死なず笑顔で)じゃ!」


タケシ店長が乗り気になった。


「面白そう! カフェでミニセミナーとして開催しましょう。ユキさん、監修してよ」


ユキはニヤリと笑いながら答えた。


「え、私? シェイクスピアさんのセミナー、絶対見たいわ! でも、他の女性参加者が来たら……ちょっと心配」


シェイクスピアが首をかしげる。


「心配? なぜじゃ?」


ケンタがクスクス笑いながら言った。


「ユキさん、完全に独占欲出てる」


ユキは頰を赤らめながら反論した。


「独占欲じゃないわよ! ただ、監修者として責任感じてるだけよ」


こうして、シェイクスピアの初セミナーが決定した。ユキの視線が異常に熱い。



当日、カフェには10人ほどの参加者が集まっていた。20-30代の恋愛悩みを持つ人たちだった。シェイクスピアがダブルス姿で登場すると、参加者がざわついた。


「TikTokで見たUFO詩人の人だ!」


「我が名はウィリアム・シェイクスピア! 本日は、恋愛の真髄を語ろう!」


参加者は困惑しつつも、スマホで撮影を始めた。


「ロミオとジュリエットは知っておるな?」


「はい、悲劇ですよね」


女性参加者が答える。


「その通り! だが、あれは悲劇ではない。愛の戦略書じゃ!」


シェイクスピアが熱弁を開始した。


「まず、ロミオの出会い戦術。舞踏会に潜入し、敵の娘ジュリエットと接触。これは『敵陣突破の計』じゃ」


参加者はポカンとした表情を見せる。


「敵陣って……」


「実はな」


シェイクスピアが声を潜めた。


「ロミオは最初、別の女性ロザラインに恋していたのじゃ。だが舞踏会でジュリエットを見た瞬間、『あ、こっちの方がいい』と乗り換えた」


「え、浮気?」


女性参加者が驚く。


「そうじゃ! しかも出会って数時間で結婚を決めた。現代なら完全にヤバい男じゃ」


ユキが横からツッコミを入れた。


「シェイクスピアさん、自分の作品をディスってます……」


「事実じゃからな! 我も書いていて『この男、軽すぎる』と思った」



「最後に、Romeo takes poison(ロミオは毒を飲む)……」


「あ、ここで死ぬパターンだ」


シェイクスピアが苦笑いしながら続けた。


「実はな、この毒のシーンも適当じゃった。ロミオが薬屋で毒を買うシーンがあるじゃろ? あの薬屋、『法律で毒は売れないけど、君が死にそうだから特別に』と言って売る。完全に違法じゃ」


参加者が爆笑した。


「薬事法違反!」


「そして、ジュリエットが飲んだのは仮死状態になる薬。現代なら『睡眠薬飲みすぎました』レベル。病院に運ばれて終わり」


「確かに!」


「だから現代風アレンジでは……」


シェイクスピアが考え込む。


「ロミオはリポビタンDを飲んで『ファイト!一発!』で元気になり、ジュリエットは昼寝から目覚める。めでたしめでたし!」


「リポビタンD?!」


全員がツッコミを入れた。


「そうじゃ! 『ファイト!一発!』で愛も復活! 誰も死なん! 完璧じゃ!」


参加者が爆笑する。


「CMみたい!」「タウリン1000mgで恋愛力アップ?」


女性参加者がクスクス笑いながら言った。


「栄養ドリンクで解決って、なんか現実的で面白い」


ユキは横で見守りながらムッとした表情を見せた。


「あの子、シェイクスピアさんに興味持ってる……ちょっと心配」



休憩時間になった。シェイクスピアがコーヒーを淹れようとして、「To be or not to be...」と無意識に独り言を呟きながらコーヒーメーカーのボタンを押した。しかし、水を入れ忘れていた。


ブシューッ! 空焚き状態で蒸気が噴出した。


「あああ!」


シェイクスピアが慌てふためく。


「大丈夫ですか?」


参加者が駆け寄ってきた。


「すまぬ……詩に夢中で水を入れるのを忘れて……」


ユキが慌てて電源を切った。


「もう、ボーッとしすぎ! 現代の機械は詩じゃ動かないのよ」


参加者たちが笑った。


「リアルなドジっ子……」「UFO詩人、意外と親しみやすい」「看病してくれる人、優しいですね」


ユキは頰を赤らめながら答えた。


「べ、別に彼女じゃないわよ! ただ、私が一番シェイクスピアさんのこと理解してるだけ」



後半は質問タイムになった。


「先生、片思いの人にどうアプローチすればいいですか?」


20代女性の質問だった。シェイクスピアは真剣に考え込んだ。


「実はな……ロミオも最初は片思いじゃった。ロザラインという女性に」


「え?」


「彼女は修道女になると決めていて、ロミオの愛を受け入れなかった。現代で言えば『恋愛に興味ない』タイプじゃな」


女性が身を乗り出した。


「それで?」


「ロミオは諦めて、新しい出会いを求めた。そこでジュリエットと出会った。つまり……」


シェイクスピアが優しく微笑む。


「無理に振り向かせようとせず、自分を大切にしてくれる人を見つけることも大切じゃ」


女性は目を潤ませながら答えた。


「そうか……無理しなくていいんですね」


ユキは後ろで見守りながらハッとした。


「シェイクスピアさん……優しい」



「先生、遠距離恋愛を続けるコツは?」


男性の質問だった。シェイクスピアは少し寂しそうな表情を見せた。


「実は……我も遠距離恋愛をしていた」


「え?」


全員が驚く。


「アン・ハサウェイという女性と。我がロンドンで劇作家をしている間、彼女は故郷で子育てをしていた」


ユキが興味深そうに聞いた。


「どうやって愛を保ったんですか?」


「手紙じゃ。毎日のように書いた。『君への愛は、星よりも永遠』『離れていても、心は一つ』……今思えば恥ずかしい詩ばかりじゃったが」


男性が感動した表情を見せる。


「愛の言葉を伝え続けたんですね」


「そうじゃ。現代ならLINEで毎日『おはよう』『おやすみ』を送る。それだけで十分じゃ。愛は言葉で育つものじゃからな」


ユキは頰を赤らめながらつぶやいた。


「素敵……」


セミナーが終了すると、参加者たちは温かい表情で帰っていった。


「最初は変わった人だと思ったけど、本当に恋愛を理解してる」「『自分を大切にしてくれる人を見つける』って言葉、心に響いた」「毎日『おはよう』『おやすみ』を送るだけでいいって、シンプルで素敵」「リポビタンDの話は笑ったけど、要するに『元気でいることが一番』ってことよね」


片思いの女性が振り返った。


「先生、ありがとうございました。無理しないで、自分らしくいてみます」


遠距離の男性も言った。


「毎日連絡、頑張ります。愛は言葉で育つ……覚えておきます」


シェイクスピアは胸が熱くなった。


「我の体験が……誰かの役に立ったのか」


ユキはそんなシェイクスピアを見つめて、ドキドキしていた。


「本当に優しい人なのね……」



その夜、動画投稿をした。タイトル:『#シェイクスピアの恋愛セミナー』


「ロミオとジュリエットは戦略書じゃ。だが、毒は飲むな。栄養ドリンクで十分じゃ」


再生数:200。コメント:「リポビタンDで草」「ファイト一発で恋愛解決www」「タウリンで愛が復活は名言」


翌日、カフェに心温まるメールが届いた。


差出人:セミナー参加者(匿名女性)


『シェイクスピアさん、昨日は本当にありがとうございました。「自分を大切にしてくれる人を見つける」という言葉に救われました。片思いで苦しんでいましたが、無理をやめて自分らしくいることにしました。そうしたら、別の素敵な人と自然に話せるようになりました。先生の優しさが伝わってきて、とても癒されました』


ピロン♪ もう1件、匿名男性から:


『遠距離恋愛のアドバイス、ありがとうございました。毎日「おはよう」「おやすみ」を送るようにしたら、彼女から「最近優しくなったね」と言われました。愛は言葉で育つ……本当ですね。先生の実体験だからこそ、説得力がありました』


シェイクスピアは目を見開いた。


「ほう……我のセミナー、通じた者がおるのか? 2件も!」


タケシが覗き込んだ。


「理解者が増えてるじゃないですか。2件も!」


ユキはシェイクスピアを見つめて微笑んだ。


「あなたって、本当は誰よりも恋愛を理解してるのね。アン・ハサウェイさんとの話、とても素敵だった」


シェイクスピアは照れながら答えた。


「恥ずかしい過去じゃが……」


「恥ずかしくないわよ。愛する人への想いを言葉にできるって、素晴らしいことよ」


ユキが少し勇気を出して言った。


「私も……いつか誰かにそんな風に想われてみたいな」


シェイクスピアはドキッとした。


「ユキ……」


ケンタが茶々を入れた。


「おお、いい雰囲気じゃん!」


二人は慌てて離れた。



その夜、シェイクスピアは一人静かにつぶやいた。


「恋愛は戦略にあらず……心と心の対話なり。そして我も……新たな恋の予感を感じておる」


窓の外を見上げて、小さく微笑んだ。


「ユキよ……君もまた、我の心に詩を書いてくれるのか?」


(第4話 終わり。次話「TV炎上40%」へ続く。)




🎭 次話予告

第5話「トレンドの海で溺れる(悲劇率40%)」

セミナー動画がバズり、ローカルテレビ番組から生放送オファー! しかし詩的表現を連発して「重い作家」として大炎上。それでも、謝罪動画の後に意外な評価が……!?

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