将来の妻だからと隣に居座るヤンデレが【人生二周目】と言い張るのは、すべて嘘で単なる演技かもしれない……【現在改稿中】

まちかぜ レオン

一章 主人公は稀代の懐疑主義者である

プロローグ 将来の妻(人生二周目?)との「ボーイ・ミーツ・ガール」

 自称タイムリーパー・・・・・・・・・と出会ったのは、高校二年生の春、クラス結成初日のことだった。


 昼休み、高校の屋上。強い風が吹き付けており、伸びてきた前髪がひらひらと揺れている。


 目の前には俺を呼び出した美少女が立っている。スカートがはためき、長く伸びた黒髪は扇状的に揺れている。


雄志郎ゆうしろうくん、私は将来の妻なの」


 なぜ呼び出したかを問うて、帰ってきたら最初の言葉は。


 まるで意味のわからないものだった。


 目の前で意味不明なことを言い出したのは、高校二年生のクラス替えで同級生になった、一ノ瀬いちのせ香奈かなである。


 面識のないまったくの初対面であり、未来の夫になった覚えはひとつもないというのに。


 いったい、どういうことなのか。





 * * *





 一ノ瀬香奈は、完璧なプロポーションを誇る。百人とすれ違えば、おそらく全員が振り返る。芸能人顔負けのビジュである。


 すらりと伸びる黒髪は清楚さを醸し出している。

 

 ワイシャツのボタンを張り裂けんばかりの巨乳と、そこからうっすらと透ける、黒い柄のブラジャーのかたち。


 多くの男子の興奮を誘う「あざとさ」すら兼ね備えている。一般的にみて、嫌いになる要素がない。


 そのうえ、並の女の子にはない、暗いオーラもある。


 ぱっちりとした瞳の奥には、ヤンデレを思わせる闇を抱えている。


 当然、クラス結成初日の時点で、クラスの美人グループ【ビッグ・スリー】の代表格だ、と男子の中では密かに囁かれている。


 ホームルーム前の時間に、初対面の一ノ瀬はなぜか俺に話しかけてきた。


 ――雄志郎くんに、大事な話があるの。ホームルームの後、屋上まで来てくれる?


 ――誰かと人違いをしてるんじゃ……。


 ――人違いじゃないの。あなた、稲葉くんじゃなきゃダメなの。


 言われるがままにノコノコと、入ることがグレーとされる屋上まで、やってきたわけだ。




 じっと見つめられ、ドキドキが止まらない。


 しかし、言っていることは意味不明。


 だって……。


「将来の、妻……?」

「字義通りの意味。私たちは結ばれる運命にあるの」

「なにいってるんです」

「わからない? 私、人生二周目なの」


 人生二周目で、将来の妻だと自称する女の子が、めちゃくちゃかわいいときている。いいシチュエーションだ。


 でも、あまりにも「電波系」すぎるし、どう考えても怪しすぎる。


 小説や漫画、アニメの世界ならこういうボーイ・ミーツ・ガールもあるかもしれない。


 残念ながら、ここは現実リアルだ。


 人生二周目の美少女が、一般的な高校生の前に颯爽と現れるなんて、非現実的だ。


「詳しく教えてくれ」

「えぇ。しかと聞いて」


 えっへん、と握った拳を胸にポンと当てる。ムニュッ、と自慢の巨乳がたわんだ。


 一ノ瀬の話をまとめると、以下のようなものだ。


 一ノ瀬によれば、俺たちふたりはこれから仲を深め、恋人同士になるらしい。


 俺は一ノ瀬に強いアプローチをかけて、結果としてふたりは付き合うようになったそうだ。


 恋人の縁は切れるどころか強まるばかりで、高校卒業後は同じ大学に進学。


 大学卒業後に結婚し、幸せな夫婦生活を送ったそうだ。


 ここまでの話を聞く限り、香奈が語る「未来の俺」はまったくいまの俺と結び付かない。


 かわいくてロケットおっぱい、なんなら影のある、なんていう、誰もが思い描く「理想の美少女」と付き合い、結婚する。


 そんなこと、夢のまた夢。


 別世界に存在していたである「もうひとりの俺」は、いったいどんな勇気を振り絞ったんだ……?


「一見ハッピーエンドに見えるが、そうじゃないんだよな」


 一ノ瀬はうんうん、と強く頷いた。


「私は選択を誤った。私も雄志郎も命を落としたの」


 一ノ瀬は頷く。


 びゅう、と風が吹いた。一ノ瀬はスカートをおさえた。


 風が止んでから、一ノ瀬は話を続けた。


 話をまとめると「意識を失い、気づいたときには、高校二年生の始業式、その一週間前に時が戻っていた」とのこと。


「なんとか一週間で状況を把握し、雄志郎くんに会う準備を重ねてきたんだ」


 淡々と語る一ノ瀬の話を、俺は黙って頷き、聞いていた。


「大変だったんだな……」


 はぁ、と一ノ瀬はため息を漏らす。


「幸せの絶頂で死ぬなんてね、もうたくさんなの」


 一ノ瀬はハンカチを取り出した。目のなかが涙で満たされている。


 そして、涙は頬をつたっていた。


 涙を浮かべる一ノ瀬を見ると、胸が苦しくなる。


 本当に大変だったのかもしれないな、一ノ瀬は――というように。


「二度目の人生は、雄志郎くんとの時間をもっと大事にしたい。選択を間違えたくないの」


 はっきりと告げた。一ノ瀬の決意表明は、本気そのものだった。


「一ノ瀬さん……」

「突然こんな話をされて、戸惑うのも当然だよね。いくらでも疑っていいの。だって雄志郎くんは――極端な懐疑主義者だもんね」


 ほぅ、と思わず唸った。指摘されたのは意外だった。


「よくご存知で」

「だって、未来の妻だもん」


 ふふーん、と一ノ瀬は鼻歌を歌っている。


「それはそうか……」


 俺は思索の海へと潜っていく。


 これまでの人生、物事を疑ってかかってきた。


 お人よしな両親は、悪意ある親戚に金をむしり取られ、酷い思いをした。


 人に優しいことは美徳かもしれないが、騙され利用される場合に限っては、ただの「カモ」。


 幼い頃から世の中を冷めた目で見るようになった。最近よく聞く「冷笑主義」に、体の芯まで染まっていくのに、抗えなかった。


 人というものは、息を吐くように嘘をつき、騙しにかかる――そう、肝に銘じた。


 ミステリー小説にどっぷりハマったのも、自然な流れだった。


 犯人や容疑者はたくさんの嘘をつく。それを見抜くのは楽しい。  


 人の薄汚れた本性を暴くのは、いい気晴らしである!


 ……そんな性根の悪さをしているから、当然男女ともに友人が少ない日々を過ごしてきた。


 机に突っ伏し、帰りのホームルームが終わればそそくさと帰る。


 ありふれた、ぼっちの帰宅部の生活そのものだった。


 中身が懐疑主義者かどうかなんて、些細な問題である。


「すべてを疑う。そう生きていくことしかできなかったんだね……」


 気まずそうだった。悪いことを聞いたんじゃないか……とでもいうような顔。


「生きるのが下手なんだよ、俺は」


 だが、他にどうすれば良かったというのか?


 俺はまだ、よくわかっていない。


「人を信じられないのは、つらい。すべて疑ってたら、味方は自分だけ。もしかしたら、その自分すら味方じゃないかもしれない」


 俺は黙っていた。一ノ瀬の言うことは、もっともだった。


「だからさ」


 手を後ろで組んで、一ノ瀬はくるりと俺に背を向ける。


 半身だけこちらを向きなおす。


 一ノ瀬は斜め上を見て、顎を軽く突き出す。


 その表情は挑発的で、意味深で。


 選りすぐられた、極めて美しい一枚の写真と呼べるような凄みがあった。


「私が雄志郎くんが信じられる人、第一号になるの。いいでしょう? 未来から戻ってきた、相性抜群の妻なんだよ?」

「すべてが俺にとって、好都合だな……」


 世の中、うまくいくことばかりではない。


 ただでうまい思いができるほど、できた話はない。


 ……でも。


 今回ばかりは、一ノ瀬香奈という人を、信じてもいいのかもしれない。


 正直、【人生二周目】なんて疑わしい。浮世離れした話だ。


 だからといって、荒唐無稽な嘘をついてまで、あの美少女が俺にアプローチをかけるだろうか?


 否、である。


 人生二周目と思い込んでいる一般女子高生、それこそ意味不明だ。訳がわからない。


 やはり、さしあたりはこの電波美少女と、交流してみようか。


 素性はともかく、なかなか面白そうな子だ。


 それになにより……かわいい。


 俺はかなり疑り深い性格である。


 しかし、本能に忠実な「男子高校生」でもあるのだ。


「じゃあ、よろしくね。雄志郎くん」

「よろしくな、一ノ瀬」


 手を差し出して、彼女は待っていた。


「ほら、よろしくの握手」


 一ノ瀬の手は、思ったより小さくて、けれどほんのりあたたかった。


「あ、ごつごつして大きいね、雄志郎くんの手」


 異性の手に触れるのは、あまり経験がない。


 そうやって囁かれると、平常心ではいられない。


「離していいよ。限界でしょ? ふふふっ」

「からかわないでくれ」

「反応がかわいいのがいけないんだよ?」


 小悪魔の微笑みだ。あざとい。


 こんな見え見えの媚びに、ふだんなら引っかからないんだろうけど。


 ……だめだ、かわいすぎる。


 もう理性はやられていた。ただ話して、手を握られただけなのに、完全に、だ。


「じゃあ、放課後はデートだね」

「デート? 付き合ってもないのに、か」

「だって未来で結婚までするんだしさ、いまはただのクラスメイトでも、彼氏同然でしょ?」

「無茶苦茶じゃないか……」


 俺と結婚する未来まで見えている一ノ瀬にとっては、俺と恋人のようにデートするのは自然なんだろう。


 一ノ瀬と初対面の俺からしたら、すごくいろんな段階をすっ飛ばしている感じがしてならない。


 これでいいのか、と。流されてるな、という感覚。


「もしかして、当たり前の人間関係を基準にしてる?」

「かもしれないな」

「私に流されてみてよ。人生二周目、将来の妻が相手なんだよ? 段階をすっ飛ばした関係に、ずぶずぶに溺れてみなよ?」


 体を傾け、唇に指をあて、上目遣いで見つめられる。


「……わかった。デートに行こう」

「やったー! めっちゃ楽しみ〜」


 俺は極度の懐疑主義者である。


 だが、かわいい女の子には案外チョロいらしい。




 * * *




【あとがき】


 新作です!


 ちょっと変わった主人公と、二周目ヒロインのタイムリープ(?)ラブコメです。


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