乗り鉄の未来

奈良ひさぎ

乗り鉄の未来

 鉄道ファン界隈は他と違い、ジャンルどうしの棲み分けが驚くほどきっちりされていて、それゆえに乗り鉄や撮り鉄、模型鉄などそれぞれが違うジャンルにあまり関心を持たない。ゆえに、撮り鉄の問題、教訓が他ジャンルに生かされず、対岸の火事程度に認識される。これがいずれ鉄道ファンそのものの消滅、減少につながるのでは――という話を、以前書いた。


https://kakuyomu.jp/works/822139837373688607


 前回は鉄道ファンが消滅、あるいは減少することを私自身どう思っているのかという話を書き忘れていたが、私はそうなっても仕方ないし、現状の鉄道ファンたちは外部からそう思われても仕方ないような行動ばかりとっている、と諦めている。鉄道ファン自体、日本に鉄道が誕生した100年以上前から存在はしただろうが、当時とはおそらく人々の倫理観や常識が変わってしまった。


 昭和中期や後期においては、もっと乗車マナーが悪かったという話を聞く。あくまで現代の常識に照らし合わせれば、の話だが、空の弁当箱や空き瓶を走行中の列車の窓から投げ捨てる人が多かったという。保線作業員や乗務員、あるいは対向列車の乗客が負傷することもあったので、ゴミは座席の下に置くようマナーが説かれた。それがさらに、車内へのゴミ箱設置により乗客自らゴミ箱に捨てに行くよう新しいマナーが説かれた。今は車内にゴミ箱が設置されているのが新幹線くらいしかなくなってしまったが、要は長い時間をかけて人々の考えるマナーが変化してきたということで、日本人にはきちんと柔軟性があることの証左だと思う。今では車内に空の弁当箱や缶ビールの空き缶を放置する方がひんしゅくを買う。


 何が言いたいかというと、一般人のマナーは良い方へ変化し、鉄道ファンはよりひんしゅくを買いやすくなっている。非鉄道ファンにとっては撮り鉄と乗り鉄、模型鉄などの区別はどうでもよいので、「鉄道ファン」でひとくくりにして批判する。鉄道ファンそれぞれが見て見ぬふりをする限り、この問題は解決しないだろう。


 そんな鉄道ファンを取り巻く問題だが、撮り鉄が何かと取り上げられるイメージがある。しかし他の鉄道ファンに問題がないわけではない。たとえば乗り鉄であれば、廃止寸前の赤字路線に青春18きっぷを使って乗りに行ってしまえば、本来その路線を管理するJR各社に入るはずだった乗車賃は入らず、極端に言えばタダ乗りされたも同然であり、その路線の寿命は縮まることだろう。法を犯すことは何もしていないのだが、結果として鉄道業界に悪影響を及ぼしてしまう行動はままある。


 私も人のことは言えない。私は駅の位置情報を集めるアプリ「駅メモ」において、滋賀・兵庫・鳥取・岡山・徳島・香川・愛媛の7県で全ての駅を取得した経験がある。要はそれなりに旅をしていることになるが、この7県はいずれも2024年の秋冬以降、私が車で訪れたことで全駅制覇している。一部観光的な意味で鉄道に乗ること自体に意味がある路線に乗車したのが何回かあるが、それを除けば鉄道会社に運賃は支払っていないことになる。「駅メモ」はマイカーでの利用を禁止していないし、電車での利用を特に推奨しているわけでもない。何も問題はないのだが、鉄道運営上はよくない。


 そもそもなぜマイカーで旅行する人が多いのかというと、鉄道では不便な場所が多いからである。本数が少ない、単線非電化で距離の割に所要時間が長い、などの路線を利用して旅行するのは、それだけで縛りプレイになる。そんな路線に並行する道路が未整備、あるいは不便な場合もあるが、大抵の場合は高規格な高速道路がすぐそばに整備され、所要時間もうんと短縮されたことで、鉄道が競争に負けた結果であったりする。JR西日本が抱える爆弾ともいえる芸備線はその最たる例である。中国道が高規格なスーパー高速道路であるかどうかはさておき、高速道路が存在することの効果は大きい。


 鉄道会社は他の一般的な株式会社と同じく、利益を追求する営利団体である。国鉄が民営化してJR各社に分割された以上例外ではないし、都道府県が運営する鉄道も完全な慈善団体ではないはずだ。全国屈指の超ローカル赤字路線をいくつも抱え、京阪神や岡山広島エリアなどで稼いでなんとかカバーしているJR西日本さえも、慈善事業ではない。売れない路線は切っていかないと、会社自体が潰れてしまっては元も子もない。赤字路線の沿線住民はバカの一つ覚えのように路線存続を声高に主張するが、当の彼らは鉄道を利用せず、移動手段がマイカーであるというのはもはや周知の事実である。

 私はどこまでいっても地方都市レベルの都会までしか住んだことのない人間だから、沿線住民が車で移動する一択だと言えばそうなのだろうと素直に考える一方で、鉄道会社が赤字路線を切ってゆくのは企業運営として健全な行為だからどんどん進めるべきという考えも持っている。都会の路線できちんと稼いで、必要な場所に必要なだけきちんと投資ができる会社であってほしい。鉄道ファンが減り、地方の鉄道がだんだんと姿を消してゆく、そんな未来はもうすぐそこまで来ていて、それもまた致し方なしと考える私は、鉄道ファンの中で珍しい存在なのかもしれない。

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乗り鉄の未来 奈良ひさぎ @RyotoNara

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