第26話 二人の女神と南の島
夏休みが始まり、数日が過ぎた。
約束の日。俺は雪乃から指定された空港のVIPラウンジの入口で、完全に気圧されていた。場違いにも程がある。
「よう、奏多。そんなとこ突っ立ってると邪魔だぞ」
背後からかけられた声に振り返ると、そこには俺と同じくらい場違いな格好の玲がいた。黒のタンクトップにカーゴパンツというラフな格好で、大きなボストンバッグを肩にかけている。
「うるせえ。それより、マジで来ちまったけど、どうなってんだよこれ」
「アタシに言うな。お前の提案だろうが」
俺たちがヒソヒソと話していると、ラウンジの奥から、涼やかな声が聞こえた。
「奏多さん、篠崎さん。お待ちしておりましたわ」
声の主はもちろん、雪乃だった。白いワンピースに麦わら帽子という、清楚なお嬢様スタイル。その隣には専属の執事である桐生さんが控えている。
桐生さんに導かれるまま、俺たちは専用ゲートを抜け、ハリウッド映画でしか見たことのないような純白のプライベートジェットに乗り込んだ。
「おい、マジかよ……」
玲が呆然と呟く。
まるで高級ラウンジをそのまま切り取ったかのような豪華すぎる機内に、俺たちはただ圧倒されるばかりだった。
やがて機体は滑るように離陸する。
数時間のフライトの後、俺たちは常夏の島へと降り立った。
目の前に広がるのは、どこまでも青い海と、豊かな自然に白い砂浜、そして豪華なガラス張りのヴィラ。
俺たちの波乱に満ちた夏休みは、こうして始まった。
◇
ヴィラに荷物を置き、雪乃の「まずはビーチに行きましょう」という鶴の一声で、俺たちは水着に着替えることになった。
数分後。
俺が一人プライベートビーチで途方に暮れていると、ヴィラの方から雪乃が現れた。
俺は息を呑んだ。
彼女が着ていたのは、装飾の一切ない、真っ白なワンピースタイプの水着。だが、その禁欲的とすら言えるデザインが、逆に彼女の非現実的なプロポーションを聖域のように際立たせていた。
南国の強い日差しを浴びて、雪のように白い肌は、内側から光を放つように輝き、ほとんど透き通っているようにさえ見える。
潮風に濡羽色の髪が揺れるたび、その圧倒的なまでの透明感に、俺は呼吸の仕方さえ忘れそうだった。
その光景は、もはや名画に描かれた女神そのものだった。
「どうかなさいましたか? 奏多さん」
「あ、いや……。すごく、似合ってる」
俺がどうにかそれだけ言うと、彼女は満足そうに微笑んだ。
次の瞬間。
「お待たせー」
間延びした声と共に、もう一人の女神が姿を現した。
玲の姿を見て、俺は再び言葉を失った。
布面積がかなり少ない、黒のオフショルダーの水着。
そういえば、この前で玲が言っていた。趣味でバイクのレースにも出ている、と。その言葉を裏付けるように、ダボっとした服の下に隠されていた彼女の身体は、ただ豊かなだけではなかった。
引き締まったくびれから、滑らかな曲線を描いて広がる腰つき。健康的に日に焼けた、しなやかな太腿。薄っすらと縦に線の入った腹筋は、彼女がただのゲーマーではない、鍛え上げられたアスリートの肉体であることを示していた。
太陽を反射してへそピアスが光るたび、その野性的で生命力に満ちた肉体美に、俺は目を奪われずにはいられなかった。
(玲って、こんなにスタイル良かったのか……)
俺が呆然としていると、玲は俺の背中をばしん、と力いっぱい叩いた。
「何呆けてんだ、奏多。行くぞ!」
「いっ……! ていうかお前、意外と……」
「あ? なんか言ったか?」
ジロリと睨まれ、思わずこぼれかけた言葉を飲み込んで俺は慌てて首を横に振る。そのボーイッシュな言動と、あまりにも女性的な身体のギャップに、頭が混乱しそうだった。
天上の女神のような雪乃と、野生の戦乙女のような玲。
対極の魅力を放つ二人に挟まれ、俺は海に入る前から完全に溺れかけていた。
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