九条雪乃は推し活したい!〜クラスの完璧クール令嬢美少女が俺のゲーム実況の「全コメ赤スパ」古参ファンだった件について〜

駄作ハル

第一幕 同接1の神様

第1話 九条雪乃との出会い

「――このまま、好きにしちゃっていいんだよ、奏多」


 甘く、潤んだ声が俺の耳を溶かす。

 すぐ目の前、俺のベッドの上で潤んだ瞳をした九条雪乃が試すような悪戯な微笑をたたえて俺を見上げていた。


 素肌に直接羽織った俺のワイシャツは大きく乱れ、形の良い二つの膨らみがそのすべてを零してしまいそうに揺れている。

 ズボンを履いていないのか、掛け布団との隙間からは、普段は決して見せないなめらかな白い太腿があらわになっていた。


 学校で見せる、氷のようにクールな表情はどこにもない。上気した頬、少しだけ潤んだ唇、そして俺の名前を呼ぶ、熱っぽい吐息。


 部屋に満ちる甘いシャンプーの香りが、焼き切れそうな俺の理性をさらに麻痺させていく。


 ――数ヶ月前の俺にこの光景を見せても、きっと脳が処理を拒否して気絶するだけだろう。

 

 そう。すべての始まりは、浮いた話など無縁だった俺の日常に、運命のいたずらが舞い降りたあのクラス替えの日に遡る。


 ◇


 新学期の教室は、新しいクラスへの期待と友人関係がリセットされる不安がごちゃ混ぜになった独特の熱気に満ちている。


 俺、月城奏多はそんな喧騒をどこか他人事のように感じながら、教室の後ろで窓枠に背を預けていた。

 

 別に高校生活に絶望しているわけじゃない。

 ただ、ラノベや漫画みたいに劇的な出会いや事件が待っているなんてことも到底思えない、ごく普通の生徒。それが俺だ。


「奏多、お前どこだった?」


 人混みをかき分けて声をかけてきたのは、中学からの腐れ縁、佐々木祐介だ。


「まだ見てねえよ。どうせどこでも一緒だろ」

 

「ばーか、隣の席にどの女子が来るか、それが一番重要だろうが!  俺の青春は席替えで決まるんだよ!」


 そう言って再び人混みに消えていく祐介。

 あいつの青春は随分と安っぽいもんだ。

 

 まあ、俺の青春だってそもそも始まってる気配すらないわけだが。

 

 やがて人波が引けた頃、俺は自分の名前を探しに掲示された座席表へと向かった。


「月城奏多……っと、ここか」


 俺の席は、窓際の後ろから二番目。うん、悪くない。

 日当たり良好、授業中に居眠りしてもバレにくい特等席だ。

 

 しかし、俺は隣の席の名前に目を疑った。


「――九条さんが来たぞ!」


 誰かの声に教室の空気が変わる。

 俺は心臓が跳ねるのを感じながら、ゆっくりと振り返った。

 

 九条雪乃。

 雪のように白い肌に、腰まで届こうかという艶やかな濡羽色のロングヘア。

 彼女が歩を進めるたびに、絹糸のように滑らかな髪がさらりと揺れた。

 光さえ吸い込んでしまいそうな深い黒が、窓から差し込む陽光を弾いている。

 

 その黒髪に縁取られた肌は雪のように白く、まるで精巧な彫像のように端整な顔立ちをしていた。

 

 見る者を惹きつけてやまないその造形の中でひときわ強い印象を放つのは、感情の色を一切映さない涼やかな瞳だった。

 静かに教室内を見渡すその凛々しい瞳は、すべてを見透かしているかのように澄み切っている。


 すらりと伸びた手足、豊かな胸元、しなやかなウエストライン。

 女子用のブレザーとチェック柄のスカートというありふれた制服が、彼女の非現実的なまでのプロポーションを際立たせていた。


 その立ち居振る舞い一つひとつに、育ちの良さを感じさせる気品が漂っている。


 それは、単に美しいという言葉では表現しきれない、一種の完成された芸術品のようで周囲を寄せ付けないほどの冷たいオーラを纏っていた。


 おまけに実家は、名前を聞けば誰でも知っているような大企業のご令嬢。ニュースでよく見る「九条グループ」の、正真正銘のお姫様というわけだ。


 まさに、天が二物も三物も与えた完璧超人。

 俺たち一般生徒からは、畏敬を込めて『絶対零度の女神様』と呼ばれている。

 

 彼女は静かな足取りで俺の隣の席に座ると、誰に会釈するでもなく、すっと背筋を伸ばして教科書を開いた。

 俺のことなんて存在しないかのように一顧だにしない。

 

 ……だよな。住む世界が違う。関わることなんて、卒業するまでに一度だってない。

 それでいい。それがいい。

 

 憂鬱なことに新学期初日から授業は始まり、俺は『絶対零度の女神様』の完璧超人ぶりを隣の席という特等席で一日中見せつけられることになった。

 

 数学では全生徒が頭を抱える難問をスラスラと解き、英語では海外育ちの噂に違わぬネイティブ顔負けの流暢な発音で教科書を読み上げる。

 その完璧さに、隣にいるだけの俺まで何だか胃が痛くなってくる。


 放課後、クラスの女子たちが恐る恐るといった感じで彼女に声をかけた。

 

「あの、九条さん。これからカラオケ行くんだけど、よかったら一緒にどうかな……?」

 

「お誘いありがとうございます。ですが、この後お稽古ごとがございますので」

 

 断りの言葉は丁寧だが、その声には一切の感情が乗っていない。女子たちは「そ、そっか……」と苦笑いして去っていった。

 ほらな、やっぱり誰も寄せ付けない。

 

 あれだけの完璧超人が、普段どんなことを考えているんだろうか。俺とは違う世界で、何を思って生きているんだろう。

 そんなことを考えても、俺なんかが話しかけることなどできるはずもなく、祐介と一緒に教室を後にした。



――――――――

あとがき


手に取ってくださり誠にありがとうございます!

本作は激甘ラブコメとなっております!

GAウェブ小説コンテストにも応募しておりますので、ぜひ★★★やコメントなどで応援していただけると嬉しいです!


既に全編執筆済のため、完結確約・完結まで毎日投稿いたします! 本日は一挙10話更新しますのでブックマークしてお待ちください!

最後までお付き合いいただけると幸いです!

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