SS:西原柚希
「ナイスシュート! 柚希!」
声援に応え、柚希は手を上げた。ここはうちの学校の体育館の二階席。土曜日だが、俺と千春、星野、露崎は柚希の応援に来ていた。
結局、西原はあれからバスケ部を辞めることはなく、今はレギュラーとして頑張っている。そんな柚希のバスケをしている姿を俺は見たことが無かった。せっかくうちの高校で公式戦があると言うことで、今日はみんなで見に来たのだ。
初めて見た柚希のバスケ部での姿はいつもの姿とはまるで違っていた。真剣なまなざしでコートを走り続け、献身的なプレイを続ける。背は高くないが、後ろでボールを回し、ときには自分も切れ込んでシュートを打っていた。
「かっこいいでしょ、柚希」
千春が言う。
「そうだな」
「でも、好きになっちゃダメだからね!」
そう言って組んだ腕に体を押しつけてくる。これは意識するなと言う方が無理だろ。
「千春、こういう場ではあんまりイチャイチャは……」
「何よ。彼女だし、いいでしょ?」
「西原から丸見えだぞ」
「そ、そっか……」
千春が腕を放した。西原が俺をどう思っているかは分からないが、真剣にプレイしているのに俺たちがイチャイチャしてたらまずいだろう。
それからは真剣に西原を応援した。
試合が終わり、俺たちは一階に下りて、西原のところに行く。
「あ、柚希!」
千春が声を掛けると、水を飲んでいた柚希が近づいてきた。
「ありがとう、みんな、来てくれて」
「柚希、かっこよかったよ」
「うんうん!」
「すごかった!」
女子達が声を掛ける。
「ありがとう。それで、黒瀬はウチのこと、どう思った?」
西原が俺を見る。
「なんか普段と違ったな。お前、かっこいいんだな」
「いやあ、そうかな?」
「ああ。すごいよ」
「ありがとう。じゃあ、ご褒美くれる?」
「は?」
ご褒美って何だよ。
「千春、ちょっとだけ黒瀬、貸してくれない?」
「え?」
「すぐ済むから」
「う、うん……」
俺は西原に連れられて体育館の裏に回った。
「こんなところに連れてきて何だよ」
「わかんない? ここ、体育館裏だよ?」
「だからって……まさか」
「そのまさかだよ。今まで黒瀬にはウチのかっこいいところ、見せられてなかったからね。でも、今日でウチの魅力、よくわかったでしょ?」
「あ、ああ。でも――」
「だから、これでダメだったら諦めがつくからさ。言わせてもらえないかな?」
「そ、そうか」
まあ、これでスッキリするなら仕方ないだろう。
「黒瀬、ウチと付き合ってください!」
そう言って西原は右手を前に出してきた。
だが、俺はそれを握るわけにはいかない。
「ごめん。俺には千春がいるから」
「……だよね。わかってたけど、抑えられなくて。だから、今日いいところ見せて、それで告白してもダメだったら仕方ないって思ってたんだ」
「そ、そうか」
「うん! これですっきりした! じゃあ、行くね」
西原は走り去っていった。
露崎の告白も断ったから、いつものことではある。だけど、なんか西原の告白を断るのは罪悪感あるんだよな……
西原は一条蓮司のハーレムにいたときもむくわれることもなく、ずっと最後まで残っていた。そして、俺のところに来たのだが、ここでもたいして俺と絡んでいるわけでもない。なんか不憫だ。
だけど、俺には断る以外の選択肢はなかった。俺には千春がいるのだ。一人に愛されればそれでいい。これで西原は写真部の部室から去るかも知れないが、仕方ないことだ。
俺は千春たちの元へと戻った。
「晴真、帰ろうか」
「そうだな」
千春と星野、露崎は西原が俺に何を言ったのかは聞いてこなかった。たぶん、わかっているのだろう。西原が告白して俺が断ったことを。
俺たちは関係無い話をして、その日は帰った。
◇◇◇
翌日の昼休み。写真部の部室はいつもと同じメンバーがいつもと同じようにいた。
ん? 西原も普通にいるんだけど……みんなと笑って盛り上がっている。
あいつ、失恋のショックとかないのかよ。
「晴真、どうかした?」
俺が渋い顔をしていることに千春が気がついた。
「いや、なんでもない」
さすがに西原が振られたのに何ともないのが気にくわないとか言えないしな。
「あ、柚希でしょ」
星野が俺に言ってきた。
「西原が何だよ」
「昨日、黒瀬に振られたのに何事もなかったかのようにここにいるから」
「なんでわかるんだよ」
「言ったでしょ、元ハーレム筆頭には男心はお見通しだって」
こいつ、マジで恐いな。
「あー、そういうことか。晴真は柚希のことよく知らないからね」
千春が言う。どういうことだ?
そう思ったら西原本人が俺に言ってきた。
「ごめん、黒瀬。別にショックがないってことは無いんだよ? 昨日は泣いたし」
「そ、そうか」
「でも、予想通りの失恋だからさ。あくまで区切り付けるための」
「区切りって、だったらなんでここにいるんだよ」
「え? ダメだった?」
「ダメじゃないけどさ……」
「そうだよね。最初は不思議に思うよね」
千春が言う。
「柚希って、蓮司にも何度も告白して何度もフラれてるんだよ」
「え、そうなのか?」
「うん、そうだよ」
西原はあっけらかんと答えた。
「それでもずっとハーレムにいたのか」
「うん、居ていいってことだったし。だから……黒瀬にもまた告白するから」
「はあ?」
「何か行けそうって思ったら、またするね」
「アホか! 告白ってそんな気軽なもんじゃないだろ! これだからハーレム女子は……」
「柚希、蓮司君にはそれで良かったけど、黒瀬は違うから」
星野が小さい声で西原に言っているが、聞こえてるぞ。
「そうなの?」
「うん。純愛主義者とかで、告白も神聖なものって思っちゃってるからさ」
「じゃあ、もしかして嫌われちゃう?」
「そうそう。だから、黒瀬を落とすには好きか好きじゃないか分からない感じで思わせぶりにやっていった方がいいんだよ」
「なるほど……勉強になります!」
「梨奈……何言ってるのかな?」
「ち、千春! 冗談だからね。アハハ」
「もう……この際だから、改めてみんなに言っておきます!」
千春が急に立ち上がって仁王立ちした。
「晴真は私の彼氏だから! 誰にも渡しません! 以上!」
まあ、いつも言ってる言葉だな。
露崎と美空ちゃんはそれを聞いても涼しい顔だ。
そして、西原も言った。
「ウチは告白してスッキリしたから大丈夫だよ、千春」
「そっか。ならいいけど」
「うん! これからは黒瀬の親友としてここにいるから。好きとかじゃないからね!」
「……さっき、梨奈が言ったこと、実践してない?」
「違うよ、全然違うよ」
「まったく……」
千春があきれていたのでさすがに俺も言っておく。
「俺からも一言。俺は千春が好きだ。そしてハーレム女子が嫌いだ。それは変わらないからな」
「うん! ウチは好きとかじゃないから! だから、ここにいるね」
西原が言う。
「私もそうですよ。気になる人は居ますが、それは黒瀬先輩だとは言ったことはないはずです。だから、ここに居ます」
美空ちゃんも言った。
「私は嫌いって言ってくれる人が好きだから。だから、ここに居るね」
露崎も言った。
「というわけで、ハーレム続行だね」
星野が言う。
「ハーレムじゃない!!!」
俺の叫びはこいつらには届かないようだ。
(SS:西原柚希 完)
―――――――
これにて完結とさせていただきます。
本作は久しぶりに多くの方に読んでいただいた作品となり、大変感謝しています。
ありがとうございました!
続いて新作「ハルカ・ハルシネーション・ラブ」の公開を開始しました!
https://kakuyomu.jp/works/822139839182138656
こちらは一対一のラブコメです。カクヨムコンの期間までの少し短めの作品です。
その後は長編を出す予定です。
新作もよろしくお願いします。
※追記:カクヨムコン用の長編です
車屋竜太郎は今日もフラれる
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