第26話 自意識過剰

「まあ、冗談はおいといて」


「冗談だったのかよ」


「うん。でも、私がハーレムを抜けたがっているのは本当かな。私、自分を好きになる男子が嫌いだから」


 星野もなんか言ってたな。露崎は追われるより追いたいタイプだって。


「私は自分が嫌いなの。うわべだけで、中身は空っぽだし。だから、そんな私を好きになる男子も嫌い。でも、なぜかモテちゃって……一年の中頃には全ての男子に絶望してた」


 ストーカーもされてるって話もあったな。


「そんなとき、一条君と出会ったの。彼は私を追いかけるようなことは全くなくて、いつも紳士的だった。だから、自然に彼の元に行くようになった。周りに女子も多いから行きやすいし」


「でも、お前が来たらギスギスしたんじゃないか?」


 ただでさえ人気の一条。そこに一番人気の露崎澪音が現れたら――他の女子からすれば黒船襲来だ。


「うん、最初はね。梨奈はにらんでくるし、千春は暗い顔してるし、柚希ゆずきは話しかけてもくれないし」


 柚希? 知らないやつだな。


「でも、私が一条君にベタベタしないから、そのうち安心されて、みんなとは仲良く話してたんだ。同じ好きな人の話するのは楽しかったし。でも、それを誰かさんにぶち壊されたけどね」


「誰だよ、そいつ」


「さあねえ」


 とぼけたのに、とぼけかえされたか。


「梨奈が居なくなってから、一条君が私に迫ってくるようになっちゃって、すっかり居心地が悪くなっちゃった。だから、もうハーレムは抜けたいの。でも、抜けたら、また男子に追い回されるかもしれない。それが恐いのよね」


「なるほどな」


 確かに、露崎がフリーになったら男子が殺到するのは目に見えている。せっかく、露崎は美少女なのに、そのせいでいろいろ不便な目に遭うなんて理不尽に思えてきた。


「だったら、彼氏でも作ったらどうだ?」


「うん、それが一番いいと思う。でも、私は自分を好きになるような人はダメだから。自分を嫌いになってくれるような人を好きになるのよね」


「そんなやつはなかなか居ないだろうな」


「それが居たのよ。だから、その人を彼氏にしようかと思って」


「へー、そんな珍しいやつが居るんだな」


「うん、そうなのよね。私にいつも『嫌い』って言ってくるの」


 学年一の美少女である露崎にそんなこと言うやつ、見たこと無いな。

 俺以外には。……ん?


「まさか……俺じゃ無いよな?」


「ん? 自意識過剰くんかな?」


「ち、違うわ! 一応聞いてみただけだ」


 危ねえ、致命傷ですんだか。


「ところで、黒瀬君。彼女は居るの?」


「はあ?」


「千春とは付き合ってるのかしら?」


「付き合ってないって言ってるだろ」


「ほんとに?」


「ほんとだ」


「そっか……じゃあ、私と付き合って」


 軽い調子で露崎澪音は俺に言った。とても告白とは思えない。


「……どこかに行くのか?」


「そんなボケはいらないわ」


「いや、さっき自意識過剰って言ったろ!」


「この間、言われたことのお返しよ」


 そういえば、自販機の前で言ったか。


「いや、俺を彼氏にしてどうするんだよ。偽装彼氏か?」


「本物よ」


「じゃあ、なおさらだ。第一、俺のことをお前が好きなわけないだろ」


「……あんな恐い目に遭っているところを助けてくれたのに?」


「それは……」


「偶然が何度も続いて、君と出会ってるんだけど。これって運命じゃない?」


「アホか……」


「嫌い嫌いって言われる度に私の胸がときめいてるの、気がつかなかった?」


「そんなの気がつくかよ」


「さっき、助けられたとき『あー、運命の人だ』って思って、クラッってなっちゃったのよ?」


「それが倒れた理由かよ」


「うん、だから、私と付き合って。黒瀬君……大好きです」


 露崎澪音はまっすぐに俺を見つめてきた。




 俺もまっすぐに見つめて言った。


「だが、断る」


「えっ!? なんでよ!」


「何度も言ってるはず。俺はお前が嫌いだと」


「そんなのレトリックでしょ。本当は好きなんでしょ?」


「いや、本音で嫌いだよ。ハーレムに入るようなやつは嫌いなんだ」


「千春だって入ってたじゃない!」


「もう抜けてるよ。一条にだってちゃんと説明してるし」


「わかった……じゃあ、私もハーレム抜けるから。そうしたら付き合ってよね?」


「嫌だって」


「でも、もう『ハーレムに入ってるから』って言い訳はできないからね!」


 そう言って、露崎澪音は立ち上がり、怒ったように立ち去っていった。


 まあ、それはそうか。

 学年一の美少女が俺なんかに振られたんだからな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る