第16話 部室

 昼休み。


「晴真、行こうか」


 立ち上がった千春が声を掛けてきた。一緒にお昼を食べようい、ということだ。


「そうだな……って、お前も来るのか?」


 千春の隣には星野梨奈。


「だって……いまさら蓮司君の隣で食べるの、変でしょ?」


「だったら、誰か他のやつも居るだろ。仲いい女子とか居ないのか?」


「だから千春」


 まあ、そうなるか。

 千春が少し困ったように笑って俺に聞いてくる。


「晴真、ダメだった? 梨奈が私と食べたいって言うから、晴真なら大丈夫だと思うよって言ったんだけど」


「別にいいけどさ。でも、どこに行くんだ?」


 俺のいつもの場所、校舎裏を千春はあまり気に入ってくれなかった。違う場所を探すって言ってたけど。


「うん、写真部の部室」


「写真部? そんな部活に入ってたのか?」


「私じゃ無いよ。美空ちゃん」


 一条の妹か。

 話を聞くと、写真部はほぼ美空ちゃん一人で活動しているらしく、千春が頼んで場所を貸してもらったらしい。


 俺たちは部活棟の中にある写真部の部室に向かった。

 部室の前で、美空ちゃんが待っていて、鍵を開けてくれる。


「自由に使って構いませんけど、中の備品には触らないでくださいね」


「うん、美空ちゃん、ありがとう!」


「いえ、私としても千春さんと梨奈さんが兄と違う場所で食事してくれるのは助かりますので」


 そういうことかよ。あくまで兄中心の思考だ


「それにしても……男子が来るとは聞いてませんでしたけど?」


 俺を見て美空ちゃんが言う。千春が慌てて俺を紹介しはじめた。


「紹介するね、黒瀬晴真君。私を救ってくれた人なんだ」


「……黒瀬だ。よろしく」


 後輩女子に挨拶なんてしたことないから、とりあえず握手しようと右手を差し出す。

 だが、美空ちゃんはそれを無視して言った。


「千春さんが兄から離れたのは、この人のせいですか?」


「え!? ま、まあ……そういう感じかな」


「ふうん……兄とは全然違うタイプですね」


 俺をじろじろ見ながら言う。


「な、なんだよ」


「冴えない感じです」


「うるせえ」


「口も悪いし、なんかオタクっぽいです」


「オタクで悪かったな」


「兄よりこの人を選ぶ理由は理解できませんが……まあ、どうせ勝ち目も無かったんですし、いいんじゃないですかね」


 丁寧な口調なのに、言ってることは辛辣だな。確かに千春はハーレムでの序列は下がりまくってたけど。


「アハハ、そういうのじゃないんだけどね」


「でも、梨奈さんまでハーレムを離れるなんてどうしたんです? 兄の本命だと思ってましたけど」


「まあ、そうだったね。自分で言うのも何だけど、お兄さんに好かれてたかなあ」


「それなのにここに来てるっていうのは、やっぱり私の考察が正しかったみたいですね。梨奈さん、兄のこと、そんなに好きじゃ無かったでしょ?」


「え? そ、そんなことないよ!?」


 あからさまに動揺する星野。


「私は分かってましたよ。だから兄には『梨奈さんだけはやめておけ』って、いつも言ってたんです」


「そ、そうなんだ……美空ちゃん、いつも私に当たり強かったもんね」


「はい。黒瀬先輩も気を付けてくださいね。梨奈さんは千春さんに勝ちたいだけですから」


 美空ちゃんもそれに気がついていたのか。


「今は違うから! 千春と仲良くしたいだけだよ」


「そうですか。でも、もう私には関係無いことですので、ご自由にしてください。では、私は兄のところに行きますので、失礼します」


 美空ちゃんは丁寧にお辞儀をして部室を出て行った。


「……美空ちゃんにバレてたんだ」


 星野が苦笑する。


「頭がいい子だからねえ」


「さすが学年一位」


「学年一位?」


「うん、兄妹そろってだよ」


 なるほど、やっぱり似た者兄妹ってことか。

 いやでも、一条は星野の気持ちに全く気づいてなかったし……恋愛に関しては、美空ちゃんの方が一枚上手だろうな。

 実の兄に恋してるのはどうかと思うけど。


「さ、食べようか。晴真、はい、お弁当」


「ありがとう」


 俺はお弁当を受け取った。


「千春って、黒瀬のお弁当、毎日作るつもり?」


 星野が聞く。


「うん、そうだよ」


「すご! 私なら一日でも無理。愛の力だねえ」


「そんなんじゃなくて、恩返しだから」


「でも、お金は払ってるからな」


 俺の母には”学校で弁当が買えるようになった”と嘘をつき、昼食代をもらっている。母も負担が減って、喜んでいた。


「で、今日はしないの?」


「何を?」


「『お手』ってやつ」


「え!? 梨奈が居るところじゃ出来ないよ」


「昨日は見せつけてたのに?」


「あれは演技だから! 言ったでしょ?」


「でも、ほんとはしたいんじゃないの?」


「そ、そんなことないし……」


 そう言いながら千春が俺をチラッと見る。


「やらないからな」


「えー! なんで!?」


「俺だって恥ずかしいし」


「あー、ごめん。やっぱりお邪魔だった?」


 星野が横目でからかうように言った。


「違う、別に星野は居ていいぞ」


 むしろ、星野がいてくれた方が冷静でいられる。

 千春と二人でこんな密室に居たら、何をしでかすか、自分が分からなくなってきていた。


「そう? でも、私のことは気にしないで、好きなだけイチャイチャしてね」


「うるせえ」


「アハハ!」


 星野は明るく笑った。なるほどな。本当はカラッとしたいいやつなんだ。


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