友達の定義

西東キリム

第1話 階段の裏切り

 僕は小林裕太。今年中学生になった13歳だ。幼稚園からの幼馴染で、家が隣同士の竹中彰は、いつも通り僕の隣でスマホを弄っていた。


 ​一学期が終わり、夏休みが明けて二学期が始まった。慣れない環境で探り合っていた一学期と違い、クラス中がぬるい和気あいあいとした雰囲気に包まれている。


 ​僕は、昔から女子と遊ぶことが多かった。幼稚園の頃から、外で男子と追いかけっこして遊ぶよりも、室内で女子とぬいぐるみや人形遊びをするのが好きだったこともあってか、それは中学生になった今でも変わらず、男子といるより女子と話している方が気楽だった。それが、まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。


 ​そして今、僕は重力から解放されたようなフワッとした浮遊感の中にいた。


 ​それは移動教室が終わり、彰や仲の良い女子を含めた数人と一緒に、自分たちの教室に戻っている時だった。


 ​僕が階段を降りようとした一歩目、背中に鈍い衝撃が走った。ドンッという衝撃と同時に息が詰まる。

​ 浮遊感は一瞬で終わり、僕は「ガタン、ガタン」と、まるで重たい荷物のように階段の下まで転がっていった。アスファルトとは違う、固いタイルの冷たさと、体中の軋むような痛みに顔がゆがむ。


 ​混乱と痛みに耐えて上を見上げると、同じクラスの井上康成が階段の踊り場でニヤニヤしているのが見えた。


​「おいおい、気をつけないとあぶねえぞ」


 ​康成がニヤケヅラのまま声をかけてくる。その視線は、僕に向けられていたが、ちらちらと僕と一緒にいた女子たちにも向けられているように見えた。


 ​周りの友達が心配してざわめきながら駆け寄ってきたが、僕はすぐに立ち上がった。皆の視線が、僕の醜態に集まるのが怖くて、反射的に「大丈夫」と声を出していた。体中の痛みよりも、今この場で標的として目立っていることの方が僕には怖かったのだ。


 ​僕は痛みに耐え、なんとか立ち上がったところで、康成が僕に近づいてきた。その顔が近づき、僕の耳元で湿った息と共に吐き捨てるように言った。


​「あんま調子に乗ってんじゃねえぞ、裕太」


 ​僕には何が何だかわからなかった。痛みに耐え、散らばった教科書を拾い上げていると、彰がまだ階段の踊り場に立っているのが見えた。


 ​彰に助けを求めようとした瞬間、彰はまるで僕を見ていなかったかのように、目線をすっと横に反らした。


 ​彰は僕に声をかけることも、心配そうな顔をすることもなかった。ただ、急に用事を思い出したかのように、教室の方に向かって足早に去っていってしまった。

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