ゾンビを愛す人間なんていない。
たけぽん
ゾンビを愛す人間なんていない。
短編小説 『ゾンビを愛す人間なんていない』
※この物語はフィクションです。
本文
僕はゾンビだ。
いや、正確にはただの腐男子だ。の、はずだったのに・・・。
僕には付き合っている恋人がいる。可愛くて気配りができる1個下の素敵な女の子だ。最近も水族館でデートをした。笑ってる顔も愛おしい。しかし僕がBL好きであることは隠している。一般的に腐男子を好きになる人などいないからだ。もう付き合って3ヶ月なのに未だに言えていない。今日も僕は本屋に行く。もちろんBL漫画を買うためだ。毎回BL漫画コーナーに行くのは少し緊張する。知り合いに見つかったらたまったものじゃない。漫画を選んでいる時、不意に視線を感じた。少しビクビクしながら周りを見たが誰もいない。僕は胸をなでおろした。きっと気のせいだろう。この日は1冊だけ買った。レジでお会計をしている時、この店員さんはどんな気持ちでやっているのか、と不意に考えてしまう。きっと自意識過剰にすぎないのだろうけど。
次の日、学校の昼休み中スマホをいじっているとクラスの陽キャに話しかけられた。顔をあげると陽キャのスマホの画面を見せられた。
「これ、お前だろ?」
心臓が止まるかと思った。そこには本屋のBL漫画コーナーでニヤニヤしながら選んでいる僕がうつっていた。やはり昨日の視線は気のせいなんかではなかったのだ。
「な、なんで・・・」
情けないことに弱々しい声しか出なかった。何やってるんだよ自分は。自分の情けなさに少しイライラするが今はそれどころではない。誰にも言わなかった秘密がバレてしまったのだ。
「ぶはは。やっぱりお前かよ。お前腐ってるんだな。ゾンビじゃねーか。」
陽キャに笑われた。最悪だ。おまけにゾンビという最低なあだ名までつけられた。これから僕の人生はどうなることやら。
次の日学校に行くと周りの人が何やらコソコソ話をしている。
「うわっ、アイツが噂のゾンビだ。」
どうやら昨日のことがもう学年全体にまで広まったらしい。こんな陰キャのことなのに、ゾンビというワードがみんなの興味を引いたのだろう。
「ゾンビの気分はどうだ〜?」
あの陽キャがニヤニヤして言ってきた。
「どうしてこんなことをするんだ。」
少し語気を強めて言った。
「別に。特に意味なんかねーよ。面白いもの見たさだ。」
陽キャが吐き捨てるように言った。この日から日に日に僕を見てヒソヒソ話をする声が増えてきた。それと比例するように孤独感が深まった。前読んだ本でゾンビは群れなく、孤独だと書いてあった。まるで今の僕は本当にゾンビになってしまったのかもしれない。
腐男子バレ事件から1週間後の下校中、僕は恋人と一緒に帰っていた。今日はやけに会話がぎこちない。
「ねぇ、話があるの。」
恋人の家の近くまできて言われた。この時点で薄々察しはついていた。恋人は躊躇いがちに少し俯いてから話し出した。
「私と別れてほしい。ゾンビと付き合ってるなんて知らなかった。」
恋人はもう目を合わせてくれなかった。下唇を噛み肩を震わせていた。下の学年にまで広まってしまったのか。
「なんでそんなこと知ってるの?」
僕の声はきっと震えてたはずだ。しかしきかずにはいられなかった。
「クラスの子が言ってた。今噂されてるゾンビってあんたの彼氏だよねって。」
ゾンビの噂はあっという間に広まったみたいだ。やはりあの陽キャの人脈は恐ろしい。それからどうなったかは覚えていない。しかし恋人……いや、元恋人に軽蔑されたのと正式に別れたのは確かだ。これで完全に1人だ。僕を助けてくれる人など存在しない。帰路では思考を停止していた。この時間はいつも誰もいないせいか、恐ろしく静かだ。そのせいか胸が徐々に腐っていくように痛んだ。あの陽キャの僕をバカにするような笑いが頭の中で響いた。誰かに助けを求める気力などもうない。足取りは重く、歩き方も覚束なかった。まるでゾンビだ。自嘲気味に笑った。もうどうでもよかったんだ。僕は誰にも届かぬくらい、しかしそこにはたしかな憎しみをこめて呟いた。
「あぁ、やっぱり、腐男子を、腐ってる人を、ゾンビを愛す人間なんていない。」
ゾンビを愛す人間なんていない。 たけぽん @Takepon_102
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