第15話 罪と罰、愛の逆転劇。満月《まんげつ》の夜の約束




国会議事堂を見下ろす、都内某所の古いカフェ。





約束の満月まんげつの夜から数日後。閉店後のカフェに、黒木圭介くろきけいすけは一人、待っていた。





(すべて揃った。あおいの残した情報。僕が回収した罠のツール。そして…僕のゆるしの決意)





**カチャリ**。扉が開く音。





そこに立っていたのは、身を隠していたはずの白石葵しらいしあおいだった。彼女は、罪を告白する覚悟を秘めた、硬い表情をしていた。





圭介けいすけ…」





「座れ、あおい。君を責めるために、ここに来たわけではない」





圭介けいすけは、彼女の正面に、三つの証拠を置いた。





一つは、あおいがハニートラップで得ようとした情報。二つ目は、あおいの家族の弱みを握る観星会かんせいかいの脅迫の証拠。三つ目は、観星会かんせいかいが仕掛けた罠のツールだ。





あおいは、それを見て、息を飲んだ。





「なぜ…なぜ、あなたがそれを…」





「君が裏切ったこと。そして、その裏切りが『愛する家族を守るため』であったことも、僕は知っている」





圭介けいすけは、立ち上がり、彼女の正面に、自らの左腕を差し出した。紋様は、微かに青い光を放っている。





「僕が未来を知るチートを持つ代償に刻まれた、この紋様が、君の未来の裏切りと、僕のトラウマのすべてを教えてくれた」





「その代償は、僕が一人で背負う。君が背負う必要はない」





**その言葉が、あおいの心にこびりついていた「裏切り者としての罪の意識」を、物理的に剥がし取るように作用した。**





あおいは、彼の言葉に顔を伏せ、嗚咽おえつを漏らした。彼女の身体から、過去の裏切りと罪悪感の重荷が、一気に噴き出した。





「ごめんなさい…私は、あなたを裏切り、国を売る道具に……!」





「違う」





圭介けいすけは、その震える身体を、そっと抱きしめた。





(愛の成就は、核計画の阻止より、遥かに難しいことだった)





**その瞬間、彼の脳裏で何百回と繰り返された、血まみれのあおいの幻影が、跡形もなく消え去った。彼の身体を覆っていた、絶望に由来する冷たい緊張の糸が、一斉に断ち切られた。**





「君は、僕への愛のために、**観星会かんせいかいへの忠誠を裏切った。**君の最後の行動は、この国と、僕の運命を救う、最大の貢献だ」





彼は、彼女の髪を優しく撫でた。





「君の罪は、この瞬間に終わった。**君は、僕のトラウマを解放する、唯一の光だ**」





あおいの身体から、過去の絶望が抜け、「愛の赦し」という温かい感情が満ちた。彼女は、彼の背中に、強く腕を回した。





圭介けいすけ…私、あなたのために、すべてを賭ける…!」





**「あなたの知略ちりゃくは、私が守る。情報局次席として、あなたの命を狙うすべての敵から、私たちが夫婦で、この国を救う!」**





**その言葉で、二人は、単なる恋人ではなく、「愛と国を救う運命共同体」としての、新たな誓いを結んだ。**





**その瞬間、彼女の瞳に、圭介けいすけの左腕の紋様が放つ、青い光が映り込んだ。**





(くそ。この愛のエネルギーは、僕のチートでも、イーロンいーろんの計算でも、絶対に予測不可能だった…!)





紋様は、愛の成就という「運命の書き換え」に応え、あおいの魂から剥がれ落ちた「調和の欠片のエネルギー」を吸収し、一瞬、強く輝いた。





彼は、夜空に浮かぶ満月を見上げ、深く息を吐いた。





(ありがとう、このカフェ。君たち二度目の人生は、この場所から始まる)





**その満月は、二度目の人生で初めて見る、混じりけのない、清らかな希望の色をしていた。**

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る