第31話 差し込む一筋の光と、噂の暗雲



 ロイ・ラトレイとのやり取りを通じて、ルシアーナは“侯爵夫人”として初めて“外の世界”の空気を感じた気がした。クロウフォード家の名がある以上、それは絶大な影響力を持つ。うまく活用すれば、黒狼に対する抑止力にもなり得るかもしれない。

 一方で、こうした来客を許してしまうと、黒狼のような勢力から目を付けられるリスクもあるかもしれない。組織としては、「クロウフォード家が勝手に別の取引を進めている」という事実を快く思わないだろう。

 ルシアーナが廊下を戻ると、使用人たちのひそひそ話が耳に入ってきた。


 「奥様……意外に社交に慣れていらっしゃる様子だな。見掛けは清楚だが、ただ者じゃないかも」

 「あまり深入りしないほうがいい。旦那様の逆鱗に触れるからな……」


 彼女は聞こえないふりをして通り過ぎる。屋敷の中ではまだまだ“部外者”扱いだが、少なくともロイの来訪を冷静に処理できたのは一歩前進だ。

 (ヴィクトルが戻ってきたとき、どんな顔をするかしら。でも、わたしは最低限の応対をしただけ。責められる筋合いはないわ)


 そう心中で言い聞かせながら青の部屋へ戻るが、その途中、不意にアイザック執事が現れて声をかけてきた。

 「失礼ですが、奥様……先ほどの来客対応、大変お見事でした。旦那様が留守の間、こうしたお客様がいらっしゃることもあるかと思います。もし差し支えなければ、応接の際にお出しする茶器やお菓子の手配など、いくつか決め事を共有しておきたいのですが……」

 「ええ、もちろん。むしろ助かります。わたしはこの屋敷の流儀を何も知りませんので」


 ルシアーナが柔らかく微笑むと、アイザックの表情がほんの少し和らいだ。もしかすると、彼もまた“使えるなら使いたい”という思いがあるのかもしれない。

 「では、後ほど食堂にてお打ち合わせさせていただきましょう。お時間は……そうですね、午後の休憩にでも」

 「かしこまりました」

 こうして、ルシアーナは少しずつ、この別邸の“運営”に関わる隙を見つけ始める。ヴィクトルの留守中にできることは限られているが、それでもじっとしているよりは前進だ。



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