第25話 手合わせ


予約投稿出来てなくて遅れてしまいました。すみません。



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冒険者ギルド地下訓練所。本来のゲームでは特殊な種族や人種を選ばない限り、基本的にはここで初級ダンジョン前にチュートリアルが行われる。

身体の使い方から武器での攻撃の仕方、魔法の狙い方などを教官である先輩冒険者から手解きを受ける事が出来る。


VRゲームなんだから直感的に武器を振ったりすればいいんじゃないかと思われがちだが案外そうじゃない。

例えば初級ダンジョンに出てくるウルフでもバカじゃない、振り回すだけの攻撃は躱されたり、連携して後ろから攻撃してこようとするんだ。ただの一般人が武器を持ってるからと言って狼、いやこの際野良犬でもいい。それが3匹同時に殺意を持って攻撃されそうになって勝てるだろうか?無理だろう。仮に無理じゃなくてもそれが連続で続く状態なら?勝ち続けるのは難しいだろう。

VRゲームでステータスという恩寵と痛みを感じない状態だとしても最初はなかなか難しい。

だから、ここのチュートリアルは初心者には必須ポイントだったりする。結構、細かくも使いやすい上級者御用達のテクニックを紹介してたりもするのだ。

まぁ、俺の場合はセラもシロもスパルタ気味に指導したからその辺はバッチリだけどな。



さて、そんな場所でグレイさんと手合わせする事になった訳だ。

竜人族は特殊な称号を産まれた時から持っている。それのお陰で、STR、VIT、AGIの能力が軒並み高い。具体的に言うとそれらの数値を何をしなくても1.5倍にしちゃうんだな〜。SPも使わずノーリスクで1.5倍。勇者ですらSPで上げて2倍なのに、生まれながらに特定のステータスとはいえ1.5倍は強すぎる。まぁ、勇者の場合全部のステータスが2倍ってのが破格なんだけどね。

代わりに、竜人族のジョブは結構制限されがちだ。元が強い分ジョブの幅が広くないのがデメリットといえばデメリットなんだけど…1番上や最上級職が強過ぎて大したデメリットになってないんだよな…


ちなみに、グレイさんは上級職ドラゴンハイランダー。ハイランダーと言うだけあって場所や武器種を選ばず何処でも力を発揮出来るというジョブだ。斥候やアタッカーを担える強力なジョブ。それに竜人族は種族特性に状態異常が効きにくかったり、火や風、土といった属性にも強い。唯一氷などに少し弱いが耐性の方が多い。そんな種族が斥候やアタッカーを担えるんだから強さは分かってもらえるだろう。まぁ、俺は別のジョブに就いてもらうつもりだけどな!



閑話休題



手合わせのため、お互い木剣と手合わせ用の防具を装備する。


「さて、2人とも準備はいいかな?今回の立ち会いは私がやらせてもらうよ。」


「分かりました、ヴェルナーさん。グレイさんよろしくお願いします。」


「…戦うってのによろしくお願いします、なんて娘と同じ歳の子に言われたらやりにくくて仕方ないぜ…」


「…じゃあ辞めるか?」


「馬鹿言うな、これだけは譲れねぇよ、竜人族としてな。」


「よし、では両者準備はいいな。はじめ!」



ヴェルナーさんの合図で手合わせはスタートした。スタートと同時にグレイさんが凄い勢いで突っ込んでくる。まぁ、ステータス差があると思ってるだろうからな…けど、今の俺は〈最弱勇者の逆襲〉でステータスが上がってる。更にその上で勇者のパッシブでステータスは2倍になってる。

いくら、STRとVIT、AGIが上がっていようが上級職ぐらいならこっちの方がステータスは既に高い。

ただでさえ、初期ステータスで上級職を圧倒してたんだ。そんな俺が今更苦戦もしない。


「いくぜ、〈竜閃撃〉!」


「〈剣舞・止水〉、〈ブレイバースラッシュ〉!」


「のわぁぁぁぁぁ!!!!!」


バゴォォォォォン!!!という音と共にグレイさんが訓練所の壁に打ち付けられる、そしてそのままバタンと床に倒れた。

……やり過ぎただろうか。上級職でもレベルが高そうだったし、竜人族だからVITにもそれなりに高いはずだから大丈夫だとは思うけど一撃でノックアウトしちまった…。

それを見たヴェルナーさんが慌てた様子で宣言する。


「しょ、勝負あり。勝者ノワール!」


ヴェルナーさんとアノンさんは若干引いたような感じでこっちを見てるし、セラはジト目、シロとルナはポカーンとしてるし、ラピスはオヤジさんがぶっ飛ばされてるのに凄いのだ!凄いのだ!ってぴょんぴょんしてる…形だけでも心配してあげて欲しい…

あ、シロが正気に戻ってグレイさんを回復してあげてる。気を失っただけみたいだ、よかったよかった。


グレイさんの〈竜閃撃〉、あれは竜人族の上級職で使い勝手良くて速さと火力もある優秀なスキル。なんだが、それを真正面から使うとある程度対人戦をしているプレイヤーからするとカウンターの餌にしかならない。


スキル補正がある攻撃は火力や速さが増す代わりにモーションに入る硬直や直線的な行動、フェイントを混ぜ込む事の難しさなどがあるのでモンスター相手と違い多用できない。パッシブ系や感知系、能力上げる系はまた別なんだけど攻撃スキルは振りどころが難しいんだ。なので、俺はその〈竜閃撃〉をカウンタースキル〈剣舞・止水〉で相手を硬直させ、無防備な所を〈ブレイバースラッシュ〉をぶち込んだ訳だが…無防備状態だからクリティカルが入ったんだろうな。無防備状態になると50%の確率でクリティカル判定になるからな…。

そんな訳であっさり手合わせに勝った俺は医務室に運ばれるグレイさんに付き添うことにするのだった。



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「…アノン、彼の動きしっかりと捉えられたかい?」


「はい、一応…」


「彼が出したスキルは下級職の剣舞のスキルのうちの1つ。〈剣舞・止水〉だったよね?」


「はい、間違いないかと…」


「僕も何度も見た事がある、味方のやつも対人戦をする事になった相手のものも。だけど、そのどれよりも洗練されていて最早別物に見えたんだけど…」


「私も同様の感想を抱きました。スキルレベルとはまた違う、別種の何かなのか…いや、そう思わせるレベルの技量という事でしょうね…」


「それに…彼ステータスの恩恵を得て上級職とステータスでも差がないように感じたんだけどどう?」


「…恐らくそれも間違いないかと。」


「彼が最初についてたジョブのせいかな?特殊ジョブっぽいし。見た事ない物だったからね…」


「〈最弱勇者〉ですね。」


「うん、あれは初めて見たけどLv1固定みたいだし、その分何かしらの恩恵を得てると見るべきかなって思うよ。まぁ、調べようがないし、調べる気もないんだけどね!」


「調べて、変に機嫌を損ねるのは嫌ですもんね。」


「あぁ、もう既にこの辺りの冒険者で彼に勝てる人は居ないんじゃないかな?グレイをあんな簡単に倒すんだから。」


「えぇ、100人居ても10秒持たなそうです。」


「ホント、とんでもない傑物が生まれたみたいだね…これから間違いなく彼は偉業を打ち立て続けるだろう。それも今のトップギルドを差し置くレベルで。」


そういうとヴェルナーとアノンも救護室へとゆっくりと歩いていった。

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