第19話話し合いと今後の方針




冒険者ギルドに行くと決めた俺はまずシロに声を掛けた。

シロは数日は客人としてウチで過ごす予定だがその後はまだ決まってない。うちでメイドになるという話もあるが、それは本人次第。

まぁ、今後やろうとしてる事を考えれば稼ぎも問題ない為、メイドの話はなくなるだろうけどな。あとは、他所で宿を取るか、ウチで居候かの2択だな。まぁ、俺としてはパーティーメンバーという大義名分もあるし、呼び出すのも面倒なので居候でいてもらいたい。

そんな話をシロにぶつけると……


「いやいや、ノワくんが言う事も分かるけど……ただの平民の私が貴族の屋敷に居候って……」


「美味しいご飯に、温かいフカフカの寝床。綺麗で大きな風呂場に綺麗な衣類。」


「……そうだね、それがここだね。」


「それがない生活に今更戻れるんだろうか?」


「うぐぅ……」


「パサパサで冷たいご飯に、冷たい寝床。湯浴みも冷たい水で行わないといけない場合も多々ある。衣類も完全に汚れが落ちるまで清潔にはしきれない。」


「で、でも、それが普通だったし……」


「今日の晩御飯は高級肉のステーキだそうだ。食べ放題だぞ。」


「ふぬぅ……ズルい、ズルいよ……ここの生活が手放せなくなる……」


「うちにいたら、これと同じレベルをずっと食べれるんだけどな。」


「で、でも迷惑になるし……それならせめてお返しとして働いたりしないと……」


「その辺は心配ない!しっかり俺のパーティーメンバーとして働いてもらうからな!」


「ひぇ……」


そう呟くと顔を真っ青にしてしばらく震えていた。前回のボス周回が衝撃過ぎたのだろう。でも、これからはそれが普通だからな。慣れてもらわないと。


「まぁそれによって得た物をウチに少し寄与すればここでの寝泊まり代ぐらいにはなるし、問題ないよ。」


「普通、伯爵家を宿扱いなんて出来ないの!」


そう悲鳴のような訴えも上がったが全て却下して無事、居候として学園行くまでの間ウチにいることになった。





さて、次はセラだ。シロも一緒に連れていく、今後の話をまとめないといけないからな。

あと、セラにはまずメルトステラ家に帰らずこっちにいるのか再度確認する意味合いもある。

セラが休んでる客間にノックをした。


「セラ?俺とシロだけど入ってもいいか?いくつか聞きたいことと今後の方針について相談がある。」


「ノワとシロ?どうぞ入ってきて大丈夫よ。」


許可を貰い、部屋へと入る。数日しか使っていないというのにフワッと女の子特有の甘くも爽やかな匂いが鼻腔を刺激した。

たった数日で同じ家なのに、なんでこうも良い匂いに変わってんだろうな?と疑問に思いつつも、部屋の窓際のテーブルでお茶を楽しむセラの元へと向かった。


「ゆっくり話すなら紅茶を準備させるけどどうする?」


「コーヒーがあるならコーヒーで、なければ紅茶で頼む。コーヒーも紅茶もそのままでいい。」


「シロはどうするの?」


「わ、私なんかが一緒にお茶なんて良くないですよ!」


「関係ないわ、むしろ慣れてもらわないと。今後、間違いなく長い付き合いになるんですもの。それに、シロはメイドでもなくパーティーメンバーでしょ?遠慮なんていらないわ、時には命を預ける間柄に遠慮なんてむしろ毒だわ。」


「あまりにも正論過ぎるよ…じゃあ、私は紅茶でミルクとお砂糖少しずつでお願いします。」


「かしこまりました。」


そういうと近くのメイドがテキパキと準備してすぐにブラックコーヒーを出してくれた。それに俺は驚く。


「……自分で言うのもなんですけど、セラってコーヒー飲まないですよね?なんでコーヒー置いてるんです?」


「ノワール様はお嬢様の旦那様になるお方、その方の好みのリサーチなどメイドには必須でございます。」


「……左様ですか。」


このセラについてる優秀なメイドさん、名前はミレイ。実はこのミレイさん、セラが王都へ向かう時も一緒に護衛兼メイドとして向かっていたんだが襲撃され他の護衛と一緒に無力化されていた。

その為、その後王都で1日療養し、メルトステラ家がアルベルージュ家へ向かうのを連絡が来て確認。ミレイさん以外は騎士なのでメルトステラ家へ帰ったがミレイさんはメイドの為一緒にこっちに来たのだという。うちでいうレイラと同じ感じだな。

あと、妙に好感度が高い。まぁ、自分達が守れなかったお嬢様を守った。それがやはり大きいみたいだ。


「それで、いくつか聞きたいんだけどセラはホントに領地に帰らずこっちで過ごすつもりか?」


「えぇ、シロもいるしね。ノワの場合なんでも出来るから私が居なくてもシロと2人でダンジョンに向かいそうなんだもん。」


「マジかよ……まぁそれはないとは言いきれん、というか間違いなくやるだろうな。暇だし、ダンジョン好きだし。お金になるし、経験にもなる。」


「普通そんな遊びに行くようなノリで行く場所じゃないんだけど。」


そうジト目でセラが見てくる。セラのジト目可愛いな。


「別に油断してるとかでもないぞ、しっかりと戦力と自分の力。挑むダンジョンの情報や知識。それをしっかりと考えた上で行動に移してる。だから、身構える必要が無い。」


そう、俺は知識も技術もしっかりある。その上、今はステータスが初期値でなく底上げされてる。

仲間の能力や判断力や性格もしっかりと判断している。それをしっかり加味した上での自信だ。

その辺を何も考えずに、根拠の無い自信で突撃するのは子供やちょっと調子に乗ってる中級者だけだ。


「なるほど、しっかり分析をした上での判断という事ね。」


「そういうことだ。根拠の無い自信を持つ奴は3流以下だ。そういう人間をダンジョンは決して許さない。」


そういうとセラもシロも表情を引き締める。


「……そう思うと私、ホントあの時助けて貰えなかったらどうなっていたか。」


そう呟くシロを撫でるセラ。尊い……写真に残して家宝にしたい。


「まぁそうだな、正直あれはかなり危険な状態だった。悪質だったな。」


「えぇ……シロの事傷付けて殺そうとしてたなんて、ホント絶対許さない!」


「でも、自分で言うのもなんですけどうちの一族は陰湿なところがあるので……敵対するとどうなるか……」


「あぁ、気にしなくていいよ。狐人族の特徴とジョブについて俺は詳しい。何も心配いらない。大船に乗った気持ちで任せてほしい。」


そういうと俺は1つ咳払いをして話を戻す。


「まぁそういう事情もあり、自分たちを守る為にもある程度強くなる必要がある。シロはまた何時ちょっかいかけられるかも分からないし、セラもまた襲撃者に狙われたって不思議じゃない。まだ、この時期はどのジョブについていようと基本強くないからな。」


「えぇ、そうね。」


「そうですね。」


2人から同意を取る。普通、下級職の人が上級職、中級職の人に勝つ事は無理に近い。ランクアップは元となるジョブのステータスとスキルを引き継ぐからな。それだけ差が生まれる。俺?俺は別枠だ、知識と技術があるからな。伊達に全1じゃない。


「という事で、今のまま下級ダンジョン潜り続けてもランクアップも狙えない。中級ダンジョンに行く必要がある。」


「でも、学園入学まで下級ダンジョンしか許可されないって聞いてるわ。」


「私もそう聞きました。」


2人とも首を傾げる。

まぁ、ここまでするというか、中級ダンジョンに挑戦出来るまでレベル上げる事はボス周回しないと難しいからこの世界だと入学前まで下級職って人ばっかりだからな。

時たま、親や権力、金の力で上位ギルドやパーティーを雇いパワーレベリングして中級や上級に行く貴族の子供もいるらしいが……まぁその手の連中ってのは俺から言わせてみれば全員漏れなく弱い。俺がパーティーでの連携を意識させた訓練をしたのもその為だ。俺一人で解決してたらレベルが上がってもセラもシロも強くなれない。

経験のない高レベルなんてカモでしかないからな、しかも驕りやすいし。


と、まぁ脱線したが中級や上級に行く方法は多少存在する。だが、親や金の力を使って得ても意味がない。自分の力で勝ち取らないとな。

という事で2人に説明する。


「方法はいくつかあるんだけど、家や親の力、権力や金でその方法を得ても気持ち良くない。後ろめたい気持ちが出てしまうし、自分達で勝ち取ったんだという気持ちも減ってしまう。何より誰かしらに貸しを作る事に繋がる、それは避けたい。」


「そうね……でもどうするの?」


「簡単な話だよ、正式に冒険者としてパーティー登録してランクを上げればいい。1番の正攻法だ。」


「な、なるほど!確かにそれだと大手を振ってダンジョンにもいけますし、自分達の力だけ勝ち取ったと誇れそうです!」


「でも、なかなか難しいと聞くわ。特に中級下位解放はDランク、中級の中位はCランク、上位はBランクが必要になる。何処まで目指すか知らないけどランク上げるのも大変と聞くし、大丈夫なの?」


「あぁ、問題ない。俺たちはスタートはEランク。そこで昇格試験のお題で下級ダンジョンの指定された素材を持ち込む事でクリアとなる。それぐらいなら楽勝だ。」


「まぁ今の私達ならそうだろうけど……」


「中級ダンジョンに入れるようになったらランクアップの為のアイテムを回収、それを各自使って中級職に。ある程度レベル上げて慣れてきてからCランクを目指して行動する。それを繰り返して、最低でも学園入学前に中級ダンジョン複数クリアで上級ダンジョンの解放、上級職まで目指すぞ。」


「うへぇ……ノワくんとんでもない事言ってるよ……そんな人間聞いたことないよ……」


「金や権力を使ってのパワーレベリングで上級職になってくる人間はいるって聞くけど……私達だけの力でそれが出来たなら間違いなく偉業の1つになるわね……」


「こんなんで偉業になったら困っちまうな……別に上級職や中級職なんかただの通過点だ、その上級職についてるやつも大した職にはついてないだろうしな。下級職から丁寧に育てないと強いジョブは育たない。これがお約束だ。そして、そんなに強いジョブを育てるんだから、その分必要なジョブ数も増える。その辺の奴らの4~5倍は経験値が必要だろうな。」


それを伝えると2人とも青い顔でピクピクとしている。


「まぁビビらせるような事を言ったけど、そこまで大した量じゃない。前回はセラがメルトステラに帰ると思ったから無理矢理レベリングしたに過ぎない。それが今回は入学までの期間しっかりと丁寧に出来る、それに他の連中の元々の量が圧倒的に少ない。だから、安心してしっかりとダンジョンを楽しもう!」


「……ホントに大丈夫なのかしらね。」


「不安です……」


「大丈夫だって、本当なら2年も時間あれば上級職の上や更にその上なんかも頑張れば就けちゃうんだけど2人が大変な思いしそうだからね、ゆっくりやるよ。」


「上級職の上?更にその上?そんなに上のジョブがあるの……?しかもたった2年で……?」


「ワタシハナニモキイテマセン」


「そりゃ余裕だよ、2年もあれば。冒険者ランクSだって夢じゃない。」


そう、ここが俺の感じるギャップだ。ゲームだとここの2年の時間経過なんてダイジェスト風であっという間だった。精々、下級職2個程カンストに出来るかな?ぐらいなのだ。まぁチュートリアルみたいな扱いだからな、現実世界でいうと15分程で終わるレベル。学園編からが本編と言っても過言じゃない。


だが、リアルではそうじゃない。毎日ダンジョンに行こうと思えばいけて周回出来る。自由に転職出来る。リアルでの戦闘はいつも以上の集中力が必要だったり、痛みや怪我を負うリスク、HPとは別に体力が必要など色々勝手が違う事もある。ただ、それを差し引いても時間によるアドバンテージが大きい。まるで精神と時のなんちゃら状態に近い。

だからこそ、セラやシロに多少合わせてのんびりやっても問題ないと判断した。何より、ゲームだと比較的楽だった連携プレイ、それをリアルでやるのは結構難しい。そっちに力も入れたい。まぁゲームより早く、強くなれる事が確定してるからこその余裕な訳だが。


そして、何よりも俺は切羽詰まるよりもこの世界を楽しみ尽くしたい!ダンジョンや周回も楽しいがこの世界はそれだけじゃない事を俺はよーく知っているからな。



閑話休題



それからも少し話し合ったが結果として、入学やでしっかりと冒険者として活動する事に決まった。また、連携プレイにしっかり力を入れる事も目的とした。

そうと決まれば即行動という事で、午後からアルベルージュ領内にある冒険者ギルド支部に行くことが決まった。

エンシェントウルフの素材買取もしてもらわないといけないし、他にもタンクと斥候が欲しいからな。入学前に育てる事が出来るのが分かったんだから早く欲しいというのが本音だな。


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