第18話 子供のわがまま?



メルトステラ家一行がやってきて1日が経った。

怖いぐらいのスピード感であっという間に婚約まで決まってしまった。


未だに思う、いいんだろうか?と。まだ年端もいかない10歳の少年少女が婚約する。小説や漫画、ゲームでは聞いたり見たりするが実際身をもって体験すると不思議というかなんというか……現実感がないんだよな……


それに、見た目は年端もいかない少年だが俺は前世?の記憶がバッチリある。20歳そこそこの年齢だったがそれでも、20歳そこそこまではそれなりにしっかり生きてきたのだ。彼女は1度もできなかったが……。

そんな人間にいくら美少女とはいえ10歳の子と婚約となると現実感がないのも無理は無いという事を分かってもらいたい。何度も言うが俺はロリコンではない。その上で、前世は彼女の1人も作れず20年そこそこ生きてきた人間にいきなり婚約なんて混乱して当然なんだ。


とはいえ、決まってしまったものは仕方ない。パーティーメンバーとして距離感に気をつけるしかないなと腹を括りつつ 、朝稽古を始める。




軽く木刀を振って身体を温める。すると、見計らったように執事長のランディーが姿を現す。向こうも身体を温めて準備万全らしい。


「坊っちゃま、おはようございます。今日も一手お手合わせ願えますか?」


「おはよう、ランディー。もちろんだ、全力できてくれよ?」


「もちろんです、今の私だと全力を出しても1度捉えることすら難しいでしょうが。」


「相変わらず隙のない構えをしながらよく言うよ。勘弁してくれ」


ここ数日は毎朝ランディーと手合わせしている。おかげで感が鈍ったりすることも無く、またステータスが急に上がった弊害で身体の制御が効かないという事もない。

ただ、それでもランディーは強い。今の自分だと勝つには時間がかかる、力任せでは不意をつかれてあっさり負けそうだしな。いいスパーリング相手だ。


しばらくスパーリングが続いたが決着がついた。もちろん、俺の勝ち。全1たるものそんな簡単に勝ちを譲ることは出来ないんだ。


息を整えたランディーが声をかけてくる。


「流石です、坊っちゃま。ステータスが上がる前も凄かったですが今ステータスが伸びたお陰でさらに磐石になられておられますね。」


そんな風に褒めてもらえるのは素直に嬉しいもんだ。


「ありがと、ランディー。とはいえ、まだまだ力押しな面も大きい。ステータスで身体能力が上がるとどうしてもバランスが崩れやすいから付き合って貰えて正直助かるよ。」


「坊っちゃま程の使い手でもそうですか、自分がお役に立てているなら何よりでございます。」


そういうと軽く一礼するランディー。相変わらず渋カッコいいイケおじ代表みたいなランディーだ。様になっているなんてもんじゃないな。


「ところで坊っちゃま、セラ様の事はお聞きしてますか?」


「セラ?何の話?」


「実はセラ様が帰らない、ここにいると言ってまして……」


うーん、何とも子供らしい訴えだ。同年代の友達と離れたくなくてここに住むと駄々を捏ねてるのだ。年相応に可愛らしい子供の部分もあるんだなと微笑んでいるとランディーが話を続ける。


「その理由がですね…ノワから離れると何もかも置いてかれる。パーティーメンバーから外される事にもなる。それだけは絶対にダメ、守られるだけの立場なんてもう沢山だと……」


「……ハハハ、ナルホドネ……」


……うん、子供らしい特有のやつかと思ったけど違った。

一昨日に無理をしてレベリングした影響だろう。

近日中に帰ることが決まっているセラがいたので、急ピッチで下級職のレベルを上げていたのだ。学園に入る事になる12歳までは、本来一人で経験を積むフェーズ。だか、今回はリアル。それのお陰で入学前に仲間を作ることが出来た。それも2人も。

そうと決まれば、時間も厄介度も高い下級職カンストに心血を注いでメインジョブ、そして後は中級職にすぐに転職できるようにと必死にレベリングをしたのだが、あれを見て逆に危機感を持たせてしまったみたいだ。


まぁそう思うのも当然だよな、あんな勢いでレベリングしたらそりゃ置いてかれると思うのも普通だ。そして、事実俺はリアルダンアラが楽しすぎて止めれる気がしない。だから、その指摘は割と図星なのだ。


「まぁ、そういった理由からセラ様は帰らないと仰ってますね……」


「うちはまぁ……その辺うちの両親はセラの好きなように〜って言いそうだよな……あとはセラ達メルトステラ家だけど……」


「公爵夫人は婚約者と仲睦まじいのはいい事だわ、それに強くなれるのならそれよりいい事はないとの、と。それに対し、公爵閣下は頭を抱えておられ、元閣下の方は号泣されてました。」


なるほど、昨日見た光景がフラッシュバックしてくるな。まぁあんな感じだろう。


「了解した、まぁまた何かあったら教えてくれ。」


そんなやり取りをしつつ、2人で屋敷へと戻った。そろそろ、朝の支度の準備をメイドや執事が始める頃合いだ。ランディーも執事長として指示を飛ばさないといけない。


「それでは坊っちゃま、今日はこの辺りで。」


「分かった、また明日な。」


そういうと足早にランディーは更衣室へと向かっていった。


それにしてもセラがこのまま留まるのか……

本来なら学園が始まる前は入れるダンジョンに制限がある。当然だ、10歳はまだ子供。

そして、そんな子供が急に力を得たら調子に乗ってしまうのも無理はない。そんな状態で挑むダンジョン程怖いものは無い。どれだけ分かっていてもモンスターに襲われるのは怖いしステータスがあるとはいえある程度痛い。


そして、戦闘不能状態になった時子供はどうなるか。パニックを起こす。

戦闘不能状態なのにモンスターを刺激して襲われる、そういう事もあるのだ。

だから、そういう危険を避ける。または、そういう危険があった時にすぐに対応出来るようにと精々下級までしか学園前は許されない。

だが、その縛りを越す方法がない訳では無い。それを駆使すれば入学前に更に力をつける事も出来る。


「……セラが帰るならのんびり過ごそうかと考えたんだけどその必要はないみたいだし、やってみますか冒険者。」


そう呟くと俺はセラとシロを探すのだった。

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