第8話 アルベルージュ家にて


さて、アルベルージュ家の屋敷に無事着いたので父と母に報告。そして、セラの事も紹介した。


「アルベルト伯爵、クラリッサ伯爵夫人。本日はお世話になります、メルトステラ家セラフィナと申します。」


おぉ、流石公爵令嬢。挨拶の場などは10歳とは思えないほどキリッとしてるな〜。


「君がセラフィナ嬢だね。こうしてちゃんと話すのは初めてだね。ご存知の通り、僕がアルベルト、こちらが妻のクラリッサだよ。」


「初めまして、セラフィナ様。私がクラリッサと申します。本日はごゆるりとお過ごしください。出来る限りの歓待はさせていただきますね。」


「そんな!私はノワに…あっ、えっと、ノワール様に助けられた身…それなのに歓待などとてもとても…」


あ、自爆した上で完全に公爵令嬢モードは終わった。女の子モードだ。さっきまでのキリッとした表情は何処へ…

あれ、なんかレイラがジト目でこっちを見てくるんだけどなんでだろう?


「…ほほぉ…セラフィナ嬢?」


「………えっと…」


「こら、アルベルト?セラフィナ様が困ってらっしゃるでしょ?ノワちゃんはカッコよくて可愛いんだからこうなるのも仕方ないじゃない!ねぇ〜、セラフィナ様?」


「あっあっ、た、確かにノワ君はカッコよくて可愛いですけど…って、あぅ……」


「そういう君もからかってるじゃないか、クラリッサ。」


あぁ、もう完全に両親のスイッチ入っちゃってるよ…流石に止めてあげないと可哀想か?


「お父様、お母様その辺に…」


「あらあら、ノワちゃんが止めに入るなんて…」


「……ところで、レイラから聞いたのですが、僕が女の子を1人や2人引っ掛けてくるだろうとかなんとか言ってたと聞きましたが…」


「いやぁ…そんな引っ掛けるなんて言い方してないよ?ねぇ、クラリッサ?」


「えぇ、そ、そうね?そんな事は言ってないわ。」


「……人間誰しも間違いはあるのですよ、お父様、お母様。」


「…はい、言いました。あの子なら1人や2人引っ掛けて帰ってきても不思議じゃないと言いました。」


「言ってんじゃねぇか!もう知らない!セラ、行くよ?」


「あ、えっ、ちょっと待ってノワ!」


そういうとセラを応接室から外へ連れ出していく。あ、せっかくならこの後軽く近場の初級ダンジョンでも回ろうかな?

そんな事を考えていると声をかけられる。その相手は執事長のランディー。年齢は50代ぐらい、身長は180cmほどはあるだろうか?髪は黒髪でオールバック、ただ身体はピシッと引き締まっており、シックな執事服も相まってまさに出来る男といった出で立ちだ。


「ノワール様、セラフィナ様。今から外に出られるのですか?」


「あぁ、ランディーか。そのつもりだ、ついでに簡単なダンジョンにでも出向いて身体を動かそうと思っていた所だ。」


そういうとセラはびっくりした様な顔をして戸惑いながらも話す。


「えぇ、今日いきなりダンジョン向かっちゃうの?危なくないかな…」


「大丈夫だ、セラ。君の事は俺が絶対守るから。最初は様子を見るだけでもいい、慣れるに越したことはないからね。」


「あぅ…絶対守るってそんな簡単に言っちゃダメだよ…もう…」


「坊っちゃまは相変わらず人たらしですね〜」


「そんな事ないと思うけど…あぁ、そうだ。使ってない剣などあったりしないか?あと、セラ用の杖か魔本なんかもあると助かる。」


「かしこまりました、すぐに準備を…ただ、坊っちゃまに1つお願いしたい事があります。」


「どうした?」


「これから1戦、私と手合わせ願えないでしょうか?」



ほぅ…手合わせか!まだ、ステータスは全く育っていない。そんな中での対人訓練はかなり良い刺激になりそうだ。ほっとくと腕は鈍る一方だろうしな。


「それは構わないが…まだレベルも上がっておらず大した力もないぞ?それでもいいのか?」


「ご冗談を、レイラから聞きましたよ。覚職前に上級職3人を相手取って余裕綽々の様子だったと。」


「あいつ…余計な事を…」


「それ程の技量をお持ちの坊っちゃまが、今後どれほど強くなっていくのか見たいのです。」


「…わかった。すぐに準備してくれ。セラ、ごめんな。ちょっとだけ時間貰うな。」


「それは大丈夫。だけど…さっきのランディーさんって確か…」


「あぁ、一撃粉砕の2つ名を持つ元冒険者ランディーだよ。」


そう、ランディーは元凄腕冒険者。モンクや武術系を多く習得している。今は上級職武王に就いている。レベルもカンストに近い85前後だったはず。今のこの世界ではトップクラスの実力だな。


「坊っちゃま、準備の方が整いました。坊っちゃまの手合わせする際の武器は木刀で良かったですか?」


「あぁ、大丈夫だ。じゃあ、始めるとするか。」



その言葉と同時に俺は木刀を構えて一気に戦闘モードへ。ランディーの方も拳を構える。

だが…動かない。ランディーはスキを探している様子でなかなか打ち込んでこない。ステータスで圧勝してるんだからある程度ゴリ押しでもフォロー出来るのにな。


「来ないならこちらから行くが構わないか?」


「…いやはや、ここまでスキがなく打ち込めない等とは想像出来ていませんでした。」


「それは光栄だ!」


そういうと軽く前へ距離を詰め、木刀を振り下ろしていく。フワっと軽く前へステップを踏み木刀を力感なく振り下ろす事で距離感を狂わせるプレイスキルだ。

力強く、素早く間合いの内側に入る技じゃない

。だけど、対人だと案外これが引っ掛かる。

大きなズレはない、だがほんの少しの距離が変わるだけでカウンターは決まらず、こっちの攻撃は当たる。避けようと大きく下がれば、また距離を詰めてもいいし、こちらに大してのカウンターはないのでダメージもない。

これに対し、ランディーは木刀を払う事を優先する。それ以上のアクションは起こせない。ここから更に攻め立てる。


「今度はこんなのもどうだ?」


「ハハハ、ホントに理不尽なまでに完成された技量。お強いですな、坊っちゃま。」


「軽くいなしているのに何をいってんだ。」


いや、ホントただの上級職だっていうのに嫌になるね。襲撃者連中とは格が違う。戦闘経験の差なのか、センスなのかは分からない。だが、今のランディーの技量は間違いなく達人のそれ。恐らく、俺以外のランカー達が今の俺と同じ条件で戦っても勝てる人は少ないだろう。遠距離メインの人間は間違いなく負けるし、近接のスペシャリストでも手こずるはずだ。まぁ上位ランカーとなると話は別だけどな。


そんな風に思いながらも振り下ろしをメインにしていた剣を今度は突きや切り上げなども混じえる。間合いが変わりリズムも変わる。これは、崩す為の動き。

そして、数回繰り返した後に力強いステップで一気に距離を詰める。はっきり言って本来なら無防備なほどステータスに差がある両者。そして、距離を詰めれば詰めるほどその差は大きくのしかかる。だからこそ、踏み込む事はしてこなかった。

だが、1本取るには踏み込むしか道はない。

俺は、決める為に力強く、自分の精一杯の速さで飛び込み上段から剣を振り下ろすフェイントをいれて身体を回す。狙いは逆袈裟だ。


「そこだ!」


「勝負を焦りましたね、坊っちゃま!甘いですぞ!」


振り下ろすフェイントから逆袈裟に繋げる為に身体を回す、その無防備に見える瞬間を的確に狙ってランディーの拳が襲いに来る。だが…


「な!」


「読めていれば防ぐ事も流す事も簡単だ、そしてそのまま相手の力を利用する事もまた簡単ってね。」


「くっ…」


そう、ランディーは油断もなく的確に隙をつこうとしてきていた。それに誘いを掛けて殴ってきたところを剣で流し、その殴られた力をそのまま身体を回す速さと剣速に当てた。自分のステータスだとどんだけ早く動いてもランディーを捉えることは不可能だったからな。今のステータス的に余裕で対処出来てしまう。


「これで1本だ。どうだった?」


「完膚なきまでに負けてしまいましたね…お見事です、坊っちゃま。」


「そんなことないさ、あれしかまともな勝ち筋がなかったとも言える。ステータスに差があり過ぎるとやはり選択肢は狭まってしまうな。」


「本来であれば勝負が成立する事すらないのですよ、坊っちゃま…」


「2人ともお疲れ様…ノワが強い事も知ってたけどランディーさんもやっぱりとっても強いのね、びっくりしちゃった…」


「そう?じゃあ、セラを守るパーティーのナイトとしては合格かな?」


「も、もう!また、そんな事言って!」


「まぁ坊っちゃまの実力があればこの辺りのダンジョンだと危険はなさそうですな。ただ、油断だけはなされぬようお気をつけて」


「ありがとう、ランディー。じゃあ、準備してもらった剣と杖は借りていくな。」


「かしこまりました。」


「よし、セラ、行こう!」


「わかったわ、ありがとう、ランディーさん。」


そうして、俺達2人はダンジョンへと歩みを進めた。


_____________________


次回からやっとタイトルになっているダンジョンへと向かいます。

明日は2話連続更新の予定。

2人の初のダンジョン攻略をお楽しみに!

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