第4話 公爵家のご令嬢



ふぅ、と一息つく。相手の動きやスキル、練度などは分かっていたし、負ける訳ないと思っていた。実際に、ゲーム通りの動きとモーションだった。ただ、それでも想像以上に疲れた。

やってきたのがVRじゃないゲームだったら動きが分かっていたとしても自分の身体が着いてこず負けてただろうな……VRだったから現実と乖離が少なくて良かったものの……生身だとやっぱり疲れたな。これは鍛えていくしかないかな?


そんな風に今後の課題を立てていると「あのぉ……」と後ろから声がかかる。

すると、そこには先程助けて美少女がいた。やっべぇ、戦闘での課題を見つけて課題立てるのに必死で忘れてた……


「おっと、すみません。少し考え事をしてまして……お怪我はございませんか、お嬢さん。」


「え、あっ、はい。この度は助けて頂きありがとうございました!」


「いえ、通りがかりに助けたに過ぎません。大したことではありませんよ。」


「いえ、そんな事……それに間違いであれば申し訳ないのですがまだ覚職されておられませんよね?それなのにあんなに勇敢に……それどころかあっさりと打ち倒してしまうなんて……」


「あぁ、慣れているだけですよ。あれぐらい楽なものです。」


「な、慣れて……!?あれぐらい楽!?どんな訓練を積まれているのかしら……」


「?どうしました?」


「いえ、なんでもありません!申し遅れました、私はセラフィナ。セラフィナ・メルトステラと申します。お名前を伺ってもよろしいですか?」


「セラフィナ様ですね、私はノワール。ノワール・アルベルージュと申します。」


そう言って手を差し出して握手する。


「アルベルージュ家のお方だったのですね!そんな堅苦しくお話にならないで下さい、命の恩人なのですから。」


「ですが、セラフィナ様は公爵家のご令嬢ですよね?そういう訳には……」


「そんなもの、命あってのものです!貴方がいなければ、私は売られ殺されていたでしょう。メルトステラ家は私を溺愛してますからね!そんな私をお救い下さったノワール様はメルトステラ家にとっての英雄ですから。」


「そんな大袈裟な……」


「いいえ、大袈裟ではございませんよ。恐らく、近いうちにお礼の形で何かしら公爵家から贈られるでしょうし、貴方がいる限りメルトステラ家は最大限アルベルージュ家を援助することになるでしょう。」



ほほぅ、なるほど。それは初耳だ。ゲームでは、ここで助けたとしてもそういったイベントはなかった。精々、襲撃者の賞金ぐらいだったはずだが……今回助けたのは公爵家のご令嬢。そんな人間や家が下らない報酬を渡す事あるはずないか。リアルならではだな。


「あぁ、そうだ。ノワール様、私のことはセラとお呼びください。親しい者は皆そう呼ぶのです。」


きょ、距離感近!?いきなり距離感近!?けど、それも当然か。いきなりピンチの所に颯爽と助けに入ったらこうなるのも無理ないよな……これもリアル効果だな。こういうリアルだからこその差異がこれから度々増えてくかもな。良くも悪くもって面もありそうだ。


「わ、分かりました。セラ様。」


「セラ様じゃないです!セラ、ですよ!」


「わ、分かりましたよセラ。では、私の事はノワとお呼びください。」


「ノワ、ですね!あ、けど敬語もやめてください!私も辞めますから!それに、私じゃなくて俺でいいですよ?戦ってる最中、口に出ていましたし。」


「あはは、聞かれてたか〜、分かったよ、セラ。」


こうして話しているうちにレイラが警備隊と治癒術師を連れて戻ってくる。


「ただいま戻りました、ノワール様。警備隊がこの後、縛って連れていくとの事です。」


「そうか、苦労かけたな。」


「いえ、滅相もありません。……そちらのお方は?」


「あぁ、紹介する。襲われていた馬車に乗っていたメルトステラ家のセラフィナ様だ。」


「メイドさん、警備隊と治癒術師達を連れてきてくれてありがとう。私はセラフィナ・メルトステラ。セラと呼んでくれると嬉しいわ。」


「メルトステラ家のご令嬢でしたか。承りました、セラ様。初めまして、私はノワール様の世話を任されているレイラと申します。お見知り置きを。」


「レイラね、分かったわ。ありがとう。」


「そういえば、セラは今日この後どうするんだ?お付きの護衛もみんなやられてる様子だし、馬車もダメそうだし……」


「そうなのよね…ここは護衛達は治癒術師達に任せて私は覚職に向かわないといけないしね……馬車は最悪王都で買うか、借りる事になりそうね。でも、王都へ向かう方法が……」


「なら、セラもうちの馬車に乗っていくといい。目的地も一緒だし、それに帰りも困っているなら、メルトステラ家の使いの迎えが来るまでアルベルージュ家でゆっくり休んでくれても構わないよ。アルベルージュ家から王都は近いからな、メルトステラまで帰るのも大変だろ?

それに王都の宿にいたら、またいつ襲撃されるかも分からないからな。」


「そ、そんな!そこまでお世話になる訳には……」


「大丈夫だよ、それにまだ怖いだろ?一緒にいた方が不安も減ると思うんだけどどうかな?」


「うぅ……わ、分かりました。では、ノワよろしくね?レイラさんも」


「お任せ下さい、セラ様。それと、私のことはレイラで構いません。」


「そう?分かったわ、レイラ。」


そういうと話は纏まり、再び冒険者ギルドへと馬車を走らせる事になったのだった。

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