第7話 負の時間に消えた天才

 星羅は、震える手で魔導式を組み立てながら、『星屑の砂時計』から現れるモンスター達の動きに集中する。

 仲間たちのモンスターへの攻撃の動きは鋭く、確かな手応えを感じていた。

「いましかない、急いで!」

 星羅は叫ぶと、目の前に現れた結界を解析しながら最適な退路を計算する。

 リィナが風の魔法を最大限に放ち、追手たちの視界と動きを混乱させた。ノアの結界は綿密に張り巡らされ、敵の魔導を弾き返す。そしてグリモワールの攻撃で、次々と敵の侵攻を遅らせていた。

 しかしその時、星羅はその危険な状況の中で、計算が乱れ始める。

「どうして……?」

 彼女はつぶやいた。『アルカスの法則』が、あまりに複雑なため、『星屑の砂時計』の計算は不能の状態に陥る。

 絶望とともに、時間の流れさえも歪み始めた。

 その瞬間だった。ゴーレムが静かに緊急信号をキャッチする。シグルド先生の秘められたプログラムによる緊急通信だった。

 先生の声は遠く、しかし確かだった。

「星羅、人間的な信頼で答えを導きだすんだ」

 その言葉で、彼女の心にひと筋の光がたちこめる。

 星羅は、仲間たちの眼差しを思い出した。そして、古文書に潜んでいた、人間と魔導の融合から生まれ、未知のパラメータを補完して問題そのものを安定化させる物理式が頭をよぎったのだ。

 彼女は、暴走する『星屑の砂時計』をじっと見つめながら、信頼の係数を導入した応用魔導物理学の複合術式を展開した。


KIrust Estab =1 += a+B. NATD


 星羅が指をならした次の瞬間、システムが揺らぎ始め、モンスターも次第に動きが止まりはじめる。

 これにより、砂時計は静かな安定へと向かい出した。

 そして、皆が逃げ去ったあと、遠隔のゴーレムを通じて、シグルド先生のメッセージが届く。

「すまない、アルカス。私はお前を救えなかった」

 重い病を抱え、時間の流れを止めようとしたアルカスには、もう限界が来ていた。

 アルカスはゴーレムにもたれかかるようにして静かに倒れ、微笑みながら闇へと消えていった。

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