異世界日本〜日本人が死ぬと転生をするので異世界に日本がある

透瞳佑月

一話

 僕らオタクは喜ぶもんなんだよ。異世界転生だーってね。そんですぐ現実見るワケ。

 なぜなら異世界に転生するなんて特別なことでもなんでもないからだ。

 転生した先の世界で、僕が目を覚ました場所、住んでいるこの島国は、神話で描かれるほど昔からありとあらゆる時代の日本人が沢山転生してくるため「日本」と呼ばれている。

 笑えよ。

 転生者は魔術を使えない。

 なぜなら異世界で人間という種族は魔術を使えないからだ。

 まてまて、ちゃんと転生者にもファンタジーでカッコいいことは出来るよ?

 異世界で超常現象を起こす人間には三種類ある。

 恩寵者ギフテッド

 特殊な異能を先天的に扱える才能を持ったやつのこと。

 契約者テスタメント

 魔術を使うならこれだ。魔術を使えるエルフと契約を結び魔術を操ったり、人狼と契約して魔獣に変身出来るようになったり、魂を共有した存在になることで契約した他種族と同じ超常現象を操れるようになったやつのこと。

 覚醒者ブレイバー

 魂にやいばを飼っている化け物。


 そう、化け物だ。侍と呼ばれるこの人達は。

 幼い頃からの壮絶な修行や、狂気に至るほど強い想いなど、人間離れした精神力を持つことでようやく手に入れられる力、覚醒者ブレイバーを、彼等は生まれ変わった直後に引き出してしまえる。

「オタク」と呼ばれる、特定の時代から転生してきた僕らは全員が恩寵者ギフテッドではある。僕も雷を操るギフトを持って生まれた「オタク」だ。

 それでも、オタクは異世界で調子に乗らない。この世界には侍がいると、すぐに知ることになるからだ。


「おいコンセント、スマホの充電しとけって言ったろ」

「コンセントじゃねえ。いいかげん電気料金払ってくださいよ。電子レンジもエアコンもテレビも全部僕の電気じゃないですか。電圧調整がどれだけ大変だと思ってんですか」

「仕方ねえだろ。冒険者ギルドに割のいい仕事がねーんだから」

「冒険者ギルドなんかねえよ。なんでどいつもこいつも異世界転生した先で異世界転生の漫画にハマるんだ」

「あーあ。俺も魔王討伐した後スローライフしてえよ。俺を追放したパーティがグチャグチャになる様をハーレムに囲まれながら最高の笑顔で眺めてえ」

「魔王が居ないのがこの世界の一番の問題ですよね。何をモチベーションに生きていけばいいのか」

「敵を外に求めるなとおる。勇者レベル99は次の魔王レベル100になるんだよ。常に自分の心の闇を睨んでいろ」

「真一さんは家計簿をもっと睨んでください」

「家計簿を睨んだってしょうがねえよ。マイナスを減らしてもプラスがねえんだから」

「やっぱ解決機関って名前が分かりづらいんじゃないですか?普通に便利屋でいいでしょう」

「公的な感じがした方がお客様も安心するだろ」

「名前のセンスがオタクとサムライ丸出しな時点で胡散くささしか無いですよ」

「ていうか、パソコンに電気流してないけどメールは確認したのか」

「ていうか、電気料金は給料に含まれるんだろうな」

「仕事があったら払ってやるって」

「from:リーファ。title:金返せと来てます。よくまあ、離婚した奥さんに平気で金借りられますね。尊敬しますよ」

「そもそも結婚してねえ。婚姻届けを提出しただけだ。」

「法的にはそれを結婚と言います」

「向こうも日本に帰化したかっただけだしな。とにかく無視しろ無視」

「いやです。あ、『うちの店の客が、「娘が家出してもう一ヶ月帰ってこない。失踪届は出したけど警察からはなにも連絡が無くて心配だ」と困っていたので解決機関を紹介しました』だそうです。今日の夜七時に仕事が終わったらこっちに来ると。依頼主の連絡先もあります」

「ほらな?だからメール確認しろって言ったんだ俺は」

「無視しろって言いましたよね……」

「ごめんくださーい」

「キタキタキタ、いらっしゃいませー!透。お茶出せお茶」

「はい」

 いやーようこそいらっしゃいました、と真一さんがドアを開けて迎えるのを聞きながらお茶を用意する。

「すいませんね汚くて。どうぞお座りください」

 真一の後に続いて入ってきたのは身長が三メートルはある、金色の王冠の様な角に赤い目、黒い蝙蝠の様な翼を背中に生やした、おじさんだった。

 まあ、異世界には色んな人種がいるからね。

「ようこそいらっしゃいました。解決機関の上杉真一と申します」

「中野透です」

「よろしくお願いいたします。魔王のサタンと申します」





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