第7話 また逝けなかったんだな

 結城ゆうき 心菜ここな

 幼稚園の頃からの付き合いで僕の幼馴染。

 どうして、今更こんなことを思い出すのか。

 簡単なことか。

 僕が死にかけてるから走馬灯みたいなものなんだろうな。


「りゅうくん一緒に帰ろ~」


「うん。帰ろっか」


 いつも一緒にいて目立たない僕にも分け隔てなく優しい笑顔を向けてくれる可愛い子だった。

 でも、そんな彼女は僕のせいで死んだ。

 僕が何もできなかったから、気が付かなかったから。

 あの子は今も僕のことを恨んでいるのかもしれない。

 いや、恨んでるに決まってる。

 だから、僕はできるだけ人を助けて、助けられるだけ助けて死んで天国であの子に会いたいんだ。

 今回はやっと会えそうだ。


 ◇


「結衣ちゃん! 龍斗の容体は!?」


「とりあえず、峠は越えたって。でも、いつ目を覚ますのかはわかんない」


 急いで病院に駆け付けた私は急いで結衣ちゃんに龍斗の容態を聞いた。

 病床の上で静かに寝息をたてる龍斗は本当に寝てるみたいで、でもいつ目覚めるのかわからない。

 結局悪い予感は当たってしまった。


「それで、犯人は?」


「もう取り押さえられたよ。事情に関してはわかり次第警察の方から連絡が来るはずだよ」


「全く、あそこまで言ったのに結局無茶したんだね。龍斗は」


「うん。本当に私たちの話を聞かないんだから」


 無茶をするなって言ったのに、結局龍斗は無茶をして刺された。

 病院に運ばれてすぐの時は心臓が止まっていたとも聞いた。

 かなりの重傷だ。


「起きるよね龍斗は」


「起きるでしょ。龍斗は私を助けてくれたときだって重症だったのに五体満足で目覚めたんだから」


「だよね。確かに龍斗がこのまま目を覚まさないって方が想像つかないかも」


 それほどの信頼を私たちは龍斗に向けている。

 絶対に目を覚ます。

 そう信じているはずなのに不安で仕方がない。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 病室の隅にはうずくまりながら泣いている天月さんが何度も謝罪の言葉を呟いていた。

 状況から察するに天月さんが襲われているところに龍斗が助けてくれたんだろうね。

 目の前でそんなグロッキーなことが起きたらこうもなるかな。


「天月さん大丈夫?」


「ごめんなさい、ごめんなさい、うちのせいで」


 かなり錯乱している様子で私の声が届いているのかどうかも怪しい。

 それほどまでに、今の彼女は取り乱していた。


「天月さん、とりあえず落ち着いて。事情は大体把握してるから」


「さ、細波先生?」


「うん。私だよ。いったん落ち着こう」


 話によれば、天月さんが救急車を呼んで龍斗に付き添ってくれていたらしい。

 犯行の現場を見ている唯一の証人であり、龍斗が命を懸けて守った人物。

 私も結衣ちゃんもこの子に怒りは抱いていない。

 天月さんが悪いとも思っていない。


「で、でも、うちのせいで不動くんが……」


「乃彩さんこの子は?」


「龍斗と同じクラスの天月凜々花さん。彼女が今回のストーカー被害にあっていた子だよ。この子が龍斗に相談して結果として私は龍斗にそのことを相談された」


「だから、さっきからこの子は自分を責めてるんだね。昔の乃彩さんみたいじゃん」


「それは言わないで」


 それを言われると耳が痛すぎる。

 確かにあの時の私もこんな感じにうずくまって泣くことしかできなかった気がする。

 言われてみれば、本当に似てるな。


「ま、乃彩さんの教え子みたいだし私は席を外すね。家族の前だと話しにくいことがありそうだし。龍斗が起きるか話が終わったら連絡して」


「わかった。ありがとね。結衣ちゃん」


「いえいえ。そんじゃね~」


 結衣ちゃんが気を使って病室から出てくれた。

 これでゆっくり話すことが出来そうだ。


「とりあえず、座りな天月さん」


「は……はい」


 天月さんを椅子に座らせて話を聞くことにする。

 龍斗が勝手にやったことに違いはないだろうけど、ここでちゃんと話を聞いてあげないと天月さんは自分を責めたままだ。

 それこそ、昔の私みたいに。


「じゃあ、何があったのか聞いてもいい?」


「うちを庇って不動くんが……刺されて」


「それだけじゃないんじゃない? それだけだとそこまで動揺したり落ち込んだりしないでしょ」


「うちが不動くんを勝手に巻き込んで……そのせいで」


 なるほど。

 巻き込んだというか、相談したってことなのかな?

 それよりもっと直接的な行動をしたのかもしれないけど、そこら辺は多分関係ない。

 相談した時点で龍斗はこの子を何としても助けるつもりだったと思うから。


「そっか。多分だけど、天月さんはそこまで悪くないよ。龍斗は巻き込まれなくてもどのみち天月さんを助けてたと思うから」


「……勝手な言いようだな。まったく」


「だって、龍斗はそういう人でしょ。おはよ」


「おはよう。寝起きから騒がしくておちおち寝てられん」


 普段通りの龍斗の様子に私は安堵しながら龍斗を見るのだった。


 ◇


「そんで、今どういう状況?」


「刺されて入院中。といっても入院して一日も経ってないんだけどね」


 それから乃彩は俺の身にあったことを話してくれた。

 曰く病院に運ばれた直後は心臓が止まっていたことなど。

 そんなことがあったのか。


「僕はまた逝けなかったのか」


「何か言った? 龍斗」


「何も言ってねぇよ。それよりも天月さんと二人にしてもらってもいいか?」


「もちろん。私は席を外しておくから話が終わったら連絡して」


「わかった。姉さんにも僕が目覚めたこと伝えておいてくれ」


 乃彩は了解と言って病室を後にした。

 これでゆっくり話せるわけだけど……何を話せばいいのかわからんな。

 こんなに泣いている女の子に接する機会なんて今まで全くなかったから。

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