第5話 翌朝のキャンパス
――翌朝。
大学のキャンパスは、いつもより少しだけざわついていた。
神谷(中身・美緒)は、教室に入った瞬間に違和感を覚える。
「……ん? なんか視線、刺さってない?」
数人の友人がスマホを見せながらニヤついている。
「おい神谷、昨日の階段のやつ、すげーじゃん」
「は!? ちょっ……待って、それ、みんな見てるの?」
「グループ内で回ってるだけだよ、多分な」
「“多分”って……」
神谷(中身・美緒)は顔を真っ赤にして弁明する。
「あれは事故! 転んだだけだから!」
――その声に、数メートル先の席で
美緒(中身・神谷)が立ち上がった。
「本当に、何もないから! 事故だよ、事故!」
その場が一瞬、静まり返る。
普段おとなしい藤崎美緒が声を上げたことに、
周りの学生たちは少し驚いたようだった。
そして、誰かがぽつりと漏らす。
「……なんで藤崎さんのほうから否定すんの?」
その一言が、場の空気を微妙に変えた。
笑いではなく、なんとなく“気まずい間”が流れる。
神谷(中身・美緒)は慌てて手を振った。
「いやいや、ほんと違うって! ただの事故だから!」
「そうそう! 階段! 勢いで、こう――転んだだけ!」
二人して必死に説明するが、
そのテンパり具合が逆に“怪しい”と取られたのか、
周囲には苦笑が広がった。
「ま、まあ……若いっていいな」
教授の声が聞こえ、場の空気はようやく和らぐ。
講義が始まっても、神谷(中身・美緒)の心臓は妙に落ち着かなかった。
(なんでこんな目に……)
視線を横に向けると、
美緒(中身・神谷)はノートを取りながら、
無言でペンを握りしめていた。
(――迷惑、かけてんな)
そう思いながらも、何も言えなかった。
“陽”と“陰”。
もともと交わるはずのなかった二人の世界が、
少しずつ、奇妙に混ざり始めていた。
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