第4話 芝生が青い
風呂上がりの部屋の中。
神谷(中身・美緒)はテーブルにつっぷしていた。
「も、もう最悪! ひかきゅん以外に見られるとか……もうお嫁に行けないー!」
「いや、そんなつもりで目を開けたわけじゃないって!」
美緒(中身・神谷)は両手を上げて必死に弁解する。
「見てない。マジで見てない。ほんと悪かった」
「うそ! 絶対チラ見したでしょ!」
「してねぇ! てか、俺の身体で“ひかきゅん”って泣きじゃくるのやめてくれよ!」
「だ、だって! ひかきゅん以外に見られるとか屈辱なんだもん!」
「ひかきゅんって二次元だろ!? 会わねぇじゃん現実で!」
「心の中では毎日会ってるの!」
「どんな恋愛観だよ……」
言い合いの熱が引くと、神谷(中身・美緒)は力尽きたように座り込んだ。
「……はぁ、もう疲れた」
「お前な……。まあ、そりゃそうか」
その様子を見て、美緒(中身・神谷)がぽつりと口を開く。
「なぁ、俺のスマホ、どこ置いた?」
「え、あそこ。机の上」
「サンキュ」
神谷(中身・美緒)はスマホを手に取ると、画面をスッと操作した。
少し真剣な表情――先ほどまでの騒がしさが嘘のように静まり返る。
「……何してんの?」
「今日、友達の誕生日なんだ。LINEにおめでとうって送っとかねぇと」
そう言って短くメッセージを打ち込み、軽くスタンプを添える。
「ほら、こういうの大事だから」
その口調は軽いけれど、指先の動きには迷いがなかった。
(あれ……)
美緒(中身・神谷)は思わず見入ってしまう。
スポーツもできて、クラスでも人気者。
何もしなくても“陽キャ”で、自然にキラキラしてる――ずっとそう思ってた。
でも今、少しだけ違う気がした。
ちゃんと誰かを気にかけて、繋がりを大切にしてる。
その積み重ねが、あの眩しさを作ってたんだ。
(ただ光ってるだけの人じゃないんだ……)
湯気の名残が消えた部屋で、静かにそんなことを思った。
――ピコン。
二人の間に、通知音が鳴る。
「ん? 誰から?」
「……あ、友達から返信きた。“ありがとう! 今日のラブシーン最高でした”だって」
「ラブシーン?」
「……は?」
神谷(中身・美緒)はスマホをのぞき込んだ。
画面には、昼間、階段で二人がぶつかって転がり落ちたときの写真が送られてきた。
タイミング悪く――まるでキスしそうに見える構図だった。
「ちょっ、なんで撮ってんだよあいつら!!」
「ていうか、これ……拡散されてないよね!?」
「うわ、やめろ!“藤崎に迫る神谷”ってなんだよ!?」
「“やめて私はひかきゅん一筋なのにー!”」
「だから俺の顔で“ひかきゅん”って言うのもやめてくれー!!」
夜の静寂を破るように、二人の叫び声が響いた。
――入れ替わり生活、二日目の夜はまだ長い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます