第2話 混乱の中で
「ま、まさか俺(わたし)たち……入れ替わって──!?」
階段の踊り場。
転がり落ちた二人は、床にへたり込みながらお互いを凝視していた。
そこには、“自分の顔”があった。
「いや、いやいやいや! なんでお前が俺の顔してんの!?」
「こっちのセリフよ!! ていうか、なんで私の声こんな低いの!?」
「知らねぇよ! ってか俺の身体で女言葉やめてくんねぇ!?」
「そんな突然言われても知らないわよ!」
立ち上がろうとして、ふたり同時によろけ——見事にぶつかる。
ドサッ。
「うわっ、バランス取りづらっ!」
「重心どこ!?」
「ねぇ、夢じゃないよね……」
「夢なら、俺の顔でお前が泣きそうになってる時点で悪夢だわ!」
近くの学生たちが遠巻きに見てざわつく。
「え、神谷先輩が藤崎さんと階段で転がってた!?」
「ラブコメかよ!?」
美緒(中身:神谷)が叫ぶ。
「いや、これは事故だから!」
陸(中身:美緒)も慌てて立ち上がる。
「そう、これは事故よ!」
「だから女言葉やめろって!」
*
しばらくして、人目を避けて大学裏の自販機前。
二人は缶コーヒーを前に座り込んでいた。
「……つまり、藤崎美緒(中身:神谷)と、神谷陸(中身:藤崎)ってことか」
「わかってても言葉にすると混乱するね……」
「てかお前、俺の顔で女言葉マジでやめてくれ」
「そんな急に治せるわけないじゃない!」
その後、互いのスマホを交換しながら中身を確認する。
「通知、多すぎ。友達多すぎ。人生、毎日お祭りモード?」
「逆にお前、アプリが漫画とSNSしかないんだけど!? “ひかきゅんしか勝たん”って何!?」
「推しの話は国家機密よ」
「国家って何!?」
言い合いながらも、ふと沈黙。
お互い、自分を客観的に見て初めて気づく。
「……とりあえず帰ろうぜ。どっちの家で暮らすか決めねぇと」
「そうね……」
陸(中身:美緒)が立ち上がる。
「とりあえず、俺んち行くぞ」
中身陸が、中身美緒の手を引いて歩き出した。
しばらく歩くと、二人は立ち止まる。
「……え?」
「……何?」
ドアプレートに刻まれた文字。
《202号室 神谷陸》
《203号室 藤崎美緒》
沈黙。
そして——
「…………隣っ!?」
「いや近すぎるだろぉぉぉぉ!?」
アパート中に響き渡る二人の絶叫。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます