第2話 混乱の中で

「ま、まさか俺(わたし)たち……入れ替わって──!?」

階段の踊り場。

転がり落ちた二人は、床にへたり込みながらお互いを凝視していた。

そこには、“自分の顔”があった。

「いや、いやいやいや! なんでお前が俺の顔してんの!?」

「こっちのセリフよ!! ていうか、なんで私の声こんな低いの!?」

「知らねぇよ! ってか俺の身体で女言葉やめてくんねぇ!?」

「そんな突然言われても知らないわよ!」

立ち上がろうとして、ふたり同時によろけ——見事にぶつかる。

ドサッ。

「うわっ、バランス取りづらっ!」

「重心どこ!?」

「ねぇ、夢じゃないよね……」

「夢なら、俺の顔でお前が泣きそうになってる時点で悪夢だわ!」

近くの学生たちが遠巻きに見てざわつく。

「え、神谷先輩が藤崎さんと階段で転がってた!?」

「ラブコメかよ!?」

美緒(中身:神谷)が叫ぶ。

「いや、これは事故だから!」

陸(中身:美緒)も慌てて立ち上がる。

「そう、これは事故よ!」

「だから女言葉やめろって!」

しばらくして、人目を避けて大学裏の自販機前。

二人は缶コーヒーを前に座り込んでいた。

「……つまり、藤崎美緒(中身:神谷)と、神谷陸(中身:藤崎)ってことか」

「わかってても言葉にすると混乱するね……」

「てかお前、俺の顔で女言葉マジでやめてくれ」

「そんな急に治せるわけないじゃない!」

その後、互いのスマホを交換しながら中身を確認する。

「通知、多すぎ。友達多すぎ。人生、毎日お祭りモード?」

「逆にお前、アプリが漫画とSNSしかないんだけど!? “ひかきゅんしか勝たん”って何!?」

「推しの話は国家機密よ」

「国家って何!?」

言い合いながらも、ふと沈黙。

お互い、自分を客観的に見て初めて気づく。

「……とりあえず帰ろうぜ。どっちの家で暮らすか決めねぇと」

「そうね……」

陸(中身:美緒)が立ち上がる。

「とりあえず、俺んち行くぞ」

中身陸が、中身美緒の手を引いて歩き出した。

しばらく歩くと、二人は立ち止まる。

「……え?」

「……何?」

ドアプレートに刻まれた文字。

《202号室 神谷陸》

《203号室 藤崎美緒》

沈黙。

そして——

「…………隣っ!?」

「いや近すぎるだろぉぉぉぉ!?」

アパート中に響き渡る二人の絶叫。

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