第4話

 俺の人生はこれで終わりなのか? こんなふざけたババァの電話一本で、これからも続いていくはずだった俺の人生全てが消滅するのか?

 そんなこと、到底納得いくはずがない。どうせ捕まるなら、どうせ処分されるなら、一層のことこのゴミだけでも処理しておくべきか……。

 俺は耐え難い怒りを抱きながらも、一度上げた腰を再び下ろした。

 いや、俺がこのゴミを処理したとしても、その責任が家族に流れていくだけだ。ただでさえ、高校受験の失敗で、免罪印を手に入れられなかった出来損ないなのに、これ以上迷惑をかける訳にはいかない。それに、連行された未成年者の親には成績ランクに応じた補償金が支給される。

 成績ランクに期待はできないけど、十五年も生きているからそれなりの金額にはなるだろう。母さん、父さん、姉さん……不甲斐ない出来損ないでごめんなさい。それでも、もう一度会えるなら、謝罪と今日まで育ててくれた感謝を伝えたい。

 そんな伝わることのない積年の感謝を募らせていると、軽い挨拶と共に警察が到着した。

「はい、こんにちはー。次はどんな子を捕まえたんだ?」

「あ、刑事さん。こいつですよ、万引き小僧」

 相変わらずのにやけ顔で対応するそのババァは、簡単な状況説明に合わせて俺から奪った学生証を手渡した。

「あらら、南中か。こりゃまた、中途半端な。まぁ、収監は確定みたいなもんだけど、一応署で話を聞くからついて来なさい」

「あの、俺まだ万引きはしてません」

「はいはい。話しは署で聞くから」

「……はい」

 その警官は、にこやかな表情のまま、あっさりと俺の希望を断ち切った。

「あ、それと刑事さん。今年、息子が就職するんだ。今月の働きで、あたしの評価も少し上げといとくれんかい?」

「ん? そうだなぁ……まぁ、上に伝えてはみるよ」

「へへ、頼んだよ~」

 性根の腐りきったその態度を見れば、ババァの醜い生き様が手に取るようにわかる。しかし、だからと言って俺にできることは何もない。終始俯いたままでコンビニを後にすると、警察官の後ろについてパトカーへ乗り込んだ……。

「ったく、通報如きで評価が上がる訳ねぇだろ、クソババァが」

 乗り込むや否やそう言い放った彼は、丸で別人格が目覚めたようだった。

「俺は低レベルなゴミのお守りなんぞするために警察になったんじゃねぇってのによ」

 自分のことを棚に上げるようで忍びないが、その見事なまでの豹変っぷりには驚きを隠せなかった。結局、その延々と語られる愚痴は、警察署に辿り着くまで続けられた。

 そんな様子を見せられると、今や処分を待つだけの身でありながら、一体なんのために自分が生きているのかすら見失いそうになった。

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