少年少女よバニーを撃て

雨水卯月

第1話

ああ、お母さん。

どうして私は今、バニー姿の叔父を見ているのでしょう。



ゆっくりと電車からの車窓が流れていく。鈴木 愛羽(あいは)は、大きなカバンを胸に抱え、流れる景色を見た。


今日、彼女は初めて叔父に会う。

不安と期待が入り混じった感情は複雑に絡み合う。

まだ中学生の彼女は、それをなんと表現して良いかわからなかった。


駅には迎えが来るはずだった。

しかし、愛羽は叔父の顔も電話番号すら知らない。

どうやって迎えと判断すればよいのだろう。そもそも本当に迎えは来るのだろうか。


駅の改札を出ると、多くの人々が忙しそうに行き交っている。誰も愛羽のことなど見向きもしない。忙しそうに歩く人はそれぞれ、携帯を見たり、時計を気にして歩いたり、耳にイヤホンをかけ、音楽を聴いている。愛羽に興味などみじんもなく、過ぎ去っていく。


愛羽は思わず、ぎゅうっとかばんを握りしめる。


「愛羽さん?鈴木愛羽さん、だね」


かばんから顔を上げると、スマートな恰好をした大人の男性が居る。

愛羽に笑顔を向け、彼女からの答えを待っている。


「は、はい」

「君のお母さんから、写真を見せてもらったんだ。叔父の都築 馨(かおる)です。」


そう言って、携帯から母とのやり取り、そして愛羽の写真を見せる。

彼は「初めまして」と手を差し出した。

よかった、ちゃんとした“大人”だ。しかも好意的。そして、紳士的。


来る途中、ずっと緊張していた愛羽の心がほぐれる。

しかし、気を緩めるのはすこし早かった。

何と言っても、あの母の弟なのだ。まともであるはずがなかった。


彼の家は小綺麗なマンションの一階だった。

「一階だと、セキュリティ上、怖いって言う人もいるけど、ここは柵も高いし、何より庭があってね。とっても素敵なんだ!見てみるかい?」


彼は、とても感じがいい。

感じがいいと思っていた。

バニーちゃんでさえなければ。


家に入った途端、馨は一瞬でバニーになった。

……どうやって?さっきまであんなスマートな紳士だったのに?


「あ、あの、その恰好で外に?」


思わず、愛羽は心配になった。この格好で庭に?通報されるぜ?と。


「まさか!そんな変態みたいなことしないよ!」


今、まさに変態みたいなことされてますよね?


あれ?常識ってなんだっけ?


愛羽の脳みそはショートした。

バニーの耳がゆらゆら揺れているのを見ながら。

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