いろいろな読み方ができる素敵なショートストーリーだと思います。
例えばですが、雄太のお母さんの立場で読むと、彼女の「恐れ」と「愛情」の境界がとても繊細に見えてきて、心が苦しくなります。
彼女は息子を守ろうとしていたけれど、その優しさがかえって雄太の成長のチャンスを奪い、心の優しい彼を縛ってしまっていた、しかし、相撲という“神聖な場”を通じて、雄太が自分の力をどう使うかを理解し、息子のことも自分のことも信じられるようになっていく親子の物語である、とも読むことができますし、
雄太を中心に読むなら、からかわれても怒らず、誰かを思いやる雄太は、本当に強い心を持っている少年だが、母のことを思うあまりその力を発揮できずにいたが、
その強さが「相撲」という神聖な場で解き放たれ、彼が自分そのものを受け入れていく過程であるとも読むことができると思います。
いずれにしても、本当に素敵な物語だと思います。
また、初美の視点を通して、優しさは弱さではなく、真の勇気であることが私たち読者に伝わると思います。
村田さんの言葉や、まわしを締める場面には精神的な成長の姿があり、人の強さと優しさの意味を改めて考えさせられる物語であると感じました。
全世代に読んでほしいです。
武道を齧ったことがある人ならば、その「闘う技術」という力と向き合ったことがあると思います(向き合ったことがないのに齧った人がいるとしたら、その人は武道をやっているのではなくただの乱暴を振るっているだけです)。
そんな「力」は、強いがゆえに、その扱い方を正しく見極め、それを我欲に負けて振るわぬように律する、成熟した精神性を持つことが求められます。
このお話は、そんな「力」を持った優しい子のお話です。
小学生にして、早くも己の持つ「力」と向き合い、そしてそれを恐れるようになっているというのが、なんともいじらしいものを感じます。
このくらいのわんぱくなガキンチョ男児なら、有り余るエネルギーのままにその力を乱雑に振るい、誰かれ構わず傷つけてしまうことも多いというのに、「恐れ、躊躇う」という精神を持っているというだけでも立派なものです。
しかし、その力を過度に恐れるあまり、何事にも消極的で、力を持つことが大きな重荷になってしまっているというのも実にかわいそうです。
これは、誰かがその「力」を肯定し、正しく向き合わせてあげる必要があります。
勿論、向き合った後のことは当人次第。
でも、そのきっかけは誰が与えても良いし、些細なものでもよいのです。
これは、そんな「力」と向き合うための勇気を、とあるきっかけによって得られるお話です。
力との向き合い方、そしてその精神性は、彼をどう変えていくのか。
是非、その目でお確かめください。
ほのぼのヒューマンドラマがお得意の幸まるさんが書いた「ふんどし小説」です。
よいお話でした。祐里さんのふんどし企画の小説を読んでいると、同じ相撲とまわしでも、それぞれずいぶん趣が違いますね。
本作は、身体が大きくて気の優しい雄太が、幼馴染の初美の勧めでちびっこ相撲の地方大会に臨むお話です。雄太は父親がDV夫だった影響で、自分がそうならないよう、いじめられても大人しくしていますが、一度だけ雄太に助けられたことのある初美は、実は雄太がとても強いことを知っており、歯がゆく思っていました。
それで、初美は、ちびっこ相撲出場を雄太に勧めますが。。
一歩踏み出す勇気が持てなかった雄太が、実際にまわしを締めることで、「すっ」と心が整って、迷いが消えるシーンがよかったです。
心の成長の物語、とても良い作品でした。
お勧めです。