柘榴を待つ庭で ―赤く爆ぜる季節―

庭の隅に、一本の柘榴の木がある。

いつの年も、夏が終わる頃に小さな実をつける。

けれど今年は、どういうわけか爆ぜない。


朝ごとに覗いては「まだかな」と呟く。

白く硬い果皮のまま、時間だけが過ぎていく。

風に触れても、雨に打たれても、

まるで何かを待っているように動かない。


私はその木の下で、指先に触れる空気を感じながら思う。

焦らず、腐らず、熟すまで。

「待つ」ということは、意外と力のいることだ。


思えば去年の実は、まだ白いうちにもいでしまった。

そのままでは渋くて食べられたものじゃなかったけれど、

砂糖と一緒に煮詰めれば、ちゃんとジャムになった。

苦味も甘さも、まるごと瓶に詰めた味。

少し焦げた香りさえ、今となっては懐かしい。


そして今朝。

庭に出たら、ひとつの実がぱちんと音を立てて割れていた。

朝の光を受けて、中の赤い粒がきらきらと光っている。


慌てて保存袋を手に取り、

そっと実をもぎ、指先で果皮を割って中の粒をこぼす。

袋の底に、赤い宝石のような種がころころと転がった。

弾ける音が、なんだか心の中の緊張をほどくようだった。


グラニュー糖をひとさじ。

袋の口を閉じて、しゃかしゃかと振る。

透明の向こうで、赤い粒が踊る。

――まるで小さな宇宙のようだ。


冷蔵庫に入れて数時間。

取り出した袋の中では、酸味と甘味が静かに溶け合っていた。

スプーンですくって口に運ぶ。

少し冷たく、そしてやさしく酸っぱい。


その味を舌に残しながら思う。

待つことは、諦めることじゃない。

信じることなんだ。

季節が巡って、また実がなる日が来たら、

きっと私はまたこの袋を手にして、

同じように笑っているだろう。


――あとがき――


今年の秋、我が家の庭で本当に柘榴が爆ぜました。

「まだかな」と毎日覗いては、まるで約束を待つような気持ちで。

そして初めて味わった“振る柘榴”の甘酸っぱさは、

まるで季節そのものの味でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る