【11月16日配信】 重さの変わる文鎮
「はいどうも!曰く付き収集クラブへようこそ!
前回の動画、みんなお気に入りの枕書き込んでてビックリしたわ!今度寝具売り場で探してみるわ!
というわけでコメント返しからいくぜ!
『枕カバーって頭の形に黄ばんだりするよね』わかる!俺もお気に入りの枕カバーに頭の跡がある!
『想像以上に小さい声で草』そりゃ寝転がって耳押し当てないと聞こえないわってなった!
『黒剥がしまだ?』この人だけじゃないけど、めっちゃ催促するやん!
『自分も蕎麦殻とかストローの硬い枕好き』いいよね!柔らかすぎて頭が沈むと却って肩が凝ったりする人もいるらしいね!」
井出は枕に関するコメントを粗方拾うと、本題に入った。
「はい!今回はこれ!デデン!『文鎮』!」
文鎮が入った木箱を持ち上げると、いつも通りカメラの前でぐるりと回す。
「この文鎮は、近所の古道具屋で『ジャンク品』って札が貼られてのよ。そんで、文鎮でジャンクって何よ?って店長に聞いたら、店に持ち込んだ人曰く
『昔、中国で重要な書簡を紛失した役人が、その責任を問われて皇帝から処刑されたらしい。
これはその役人が使っていた文鎮で、紙の上に置くと「同じ失敗をするな」って言わんばかりに、重くなる』
っていう代物らしい。要するに『妙な曰くがついてて、怪しいからジャンク扱い』にしたんだってさ。そんな面白い物、買うに決まってるよね!」
井出は笑いながら箱から文鎮を取り出す。
それは龍の形で、少し光沢のある黒色をしていた。
「おお…見た目より結構ズッシリしてる!しかも、こう、龍ってのがまた雰囲気あるね!男子は龍好きだから!みんな、龍が巻き付いた剣のキーホルダー一個は持ってたよね!」
話しながらコピー用紙の束をテーブル出し、上に文鎮を置くと、重みで少し沈み込んだ。
「……で、重くなるって、どうやって判断するんだ?キッチン秤なんて持ってないぞ?」
田口は「あんなに料理するのに持ってないのか」と意外に思った。
井出は束から1枚紙を引っ張ると難なく抜ける。
「抜けたな。……こんなんじゃ処刑されてしまう!」
2枚、3枚と抜いていき、何枚目かで井出は不意に手を止める。
「ちょっと重くなった気がする。」
ズリズリと左右に動かしながら引っ張り抜いて、紙を見ると井出はドヤ顔をした。
「あー、これ分かったわ。」
そう呟くと文鎮を持ち上げて裏返し、近くに置いてあったクリップを数個近づけるとピタリと貼り付いた。
「何だっけあれ、なんとか鉄鉱?がなんか落雷とかで磁力帯びるってやつ。あれなんじゃないか?」
井出が「ちょっと失礼。」と言ってスマホを操作する。
「あったあった!磁鉄鉱だ!それが天然磁石になるんだよ!色とかちょっと光沢ある感じからしてもこれが正解だろ!」
興奮しながら周りの金属に貼り付ける。自重を支えるほどの磁力は無いが、小物はしっかり貼り付く。
「あれかな?昔の中国で〜ってのを信じるとしたら、こう、机の金属に張り付いたりしてたんかな?」
「と、いうわけで今回の文鎮は天然磁石っぽいです!あの店長、もしかして分かってて売りつけやがったな!面白いからいいけど!ちなみに、天然磁石ってレアっぽいぞ!じゃあ、また次回も見てくれよな!」
田口は、カメラに向けて手を振る井出を締めにしてカメラを止めた。
「うー……ん?」
田口は首を傾げながらパソコンを睨みつけ、少し巻き戻しては再生を繰り返している。
それに気付いた井出が「どうしたんだ?今回も何も無いだろ?」と言って横から覗き込む。
何度も見返していたのは、井出が文鎮から紙を左右に動かしながら引き抜いているシーンだった。
「ちょっと重くなった気がする。」
その言葉の前後、文鎮の上に手のような形をした黒いモヤがうっすらと掛かっている。それはまるで、文鎮を押さえているようにも見えた。
「……いやいやいやいや!なんか影が映り込んだだけだろ!実際にこいつは磁石だったし!」
クリップや鍵を文鎮に貼り付けて見せる。
確かに文鎮自体が磁石なのは間違いない。
しかし、そこまでの磁力があるのかは少し疑問が残る。
カラ……カラ……
背後の棚の方から、いつかの足音が聞こえた気がした。
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