【9月28日配信】 滑る湯呑み
「はいどうも!曰く付き収集クラブへようこそ!前回の生配信どうだった?俺もホントびっくりしたわ!今回からはまた平常運転に戻るからヨロシクな!じゃ、まずはコメント返しからいくぜ!
『カセットほんとに返したんですか?』返したよ!たかしもこれで満足したろ!
『現地行ったけど普通の家だった』それ!それね!ちょっと詳しく話聞きたいから今度メッセージ送るわ!
『またあそぼうね』おう!また遊ぼう!次はswitch持っていくわ!……え?たかし?」
生配信以降、視聴者が大幅に増加したが、今までと変わらず軽快なコメント返しから始まる。
「今回の曰く付きはコチラ!『滑る湯呑み』!」
タンッ!と勢いよく音を立ててカメラの前に緑に艶めく湯呑みを置いた様子を見て、田口は通販番組を思い出した。
「なんかさ、あったかい飲み物入れた状態で持つとツルッと滑るんだって。いや、洗剤が洗い流せてないんじゃないの?って思うよね。その辺は大丈夫!ちゃんと曰く付きだよ!…『ちゃんと曰く付き』って、言っててなんかおかしい気もするけど気にするな!」
井出がそう言って曰くを話し出す。
「この湯呑みは、誰が使ってもお茶をこぼすらしい。
手が滑る、肘が当たる、なぜか倒れる。みんな口をそろえて『滑った』って言うんだって。
最初の持ち主は料亭の女将で、太客の膝に熱い茶をぶちまけて大火傷。そこから大揉めして閉店。
そのあと古道具屋に回り、買った男は商談の席で取引先にこぼして大事な契約がパー。次の人は結婚の顔合わせで倒して破談。
それでも不思議と、湯呑みそのものは割れない。
最後に売った古道具屋の話では、夜になるとまるで次にこぼす相手を探してるみたいに『湯呑みの中の茶が揺れる』らしい……と、いうわけで!やるぜ検証!」
生成AIに考えてもらった怪談をまじめな顔で語り終えると急に立ち上がり、キッチンからヤカンを持ってきた。
「こちら!沸かしたての麦茶です!まだ残暑も厳しいってのにチンチ…じゃなくてアッツアツだぜ!」
ハイテンションで湯呑みにお茶をなみなみと注ぐ。
「今回はお茶の指定は温度だけだよな?また『抹茶じゃないとダメ』とかないよな?……一応、ぶちまけた時用の布巾とお茶がかかった時に冷やす用の氷嚢準備しました!」
そう言って、湯気が立つ湯呑みを手に取る。
「アッッッツ!え!?あっつい!湯呑みって熱いお茶入れてもこんなに熱くならないよね?え?……よく見ると湯呑みにしては作りが薄い?」
井出は湯呑みを落としそうになりながら話を続ける。
「これ…もしかして、みんな熱さにびっくりして手を離しちゃってただけ…とか?」
湯呑みを置いて氷嚢を撫でながら締めに入る。
「と、いうわけで!滑る湯呑みの正体は思ったより熱くなる薄い湯呑みでした!いや、これ、どうなんだ?まあいいか!じゃあ、また次回!バイバイ!」
「この湯呑み…どこで買ったんだ?」
田口は編集作業を進めながらキッチンにいる井出に聞いた。
「ん?最近見つけた古道具屋。駅裏の狭い路地にあったんだよ。」
「そうか。それに生成AIで作った話をくっつけた訳だな?」
「おう、いつもの感じでな。それに俺の演技を追加したって訳だ!アツアツを持つ演技上手かったろ?」
キッチンから得意げな顔を覗かせて笑う井出に手招きをする。
「いや、演技はどっちでもいいんだけど、ちょっとこれ見てくれ。」
田口はそう言って、締めの挨拶をする井出の手元に置かれた湯呑みをスロー再生しながら指差す。
「湯呑み、ちょっと動いてないか?」
ほんの数秒の間に湯呑みが滑るように1センチほど移動しているように見える。
「本当だ!田口、編集が上手くなってきたな!」
「いや、何もいじってないけど……」
「またまた!お前、ちょっと前に『存外、本物って無いもの』って言ってたじゃん!俺は騙されないぜ!──ほれ、メシだメシ。」
田口は井出の勢いに押し切られて再生を止めた。
けれど画面の隅で、湯呑みの影がまだ揺れている気がした。
「……で、次のネタは決まってるのか?」
ビールを飲みながら井出に聞く。
「もちろん!この前フリマアプリで買ったコレだ。」
井出のスマホには海外土産のようなお面が表示されている。
「これにどんな曰くをくっつけるんだ?」
「くっつけるも何も、本物だ!ほれ!」
そう言って画面を下にスワイプすると商品説明が出てきた。田口はそれを読み上げる。
「えー……っと?
『カラカラ様の面』、海外祭具・中古。
ご覧いただきありがとうございます。
東南アジアの島国の祭礼で使用されていたとされる『カラカラ様の面』です。
詳細な由来は不明ですが、現地では『被るとどこからか足音が近づいてくる』と言い伝えられており、
それが幸運を呼ぶのか、不運を招くのかは諸説あるようです。
材質は木製で、塗装の剥がれや経年によるひびがあります。
目立つ傷などは写真でご確認ください。
観賞用・コレクション目的でのご購入をおすすめします……?」
一通り読み終えてスマホを返すと井出は面白そうに笑う。
「面白そうだろ?しかもこの最後の
『※実際の使用・着用は自己責任でお願いいたします。』
『※曰く付き・オカルト系アイテムにご理解のある方のみご購入ください。』
がいい味出してるよな!」
田口が写真と似た物がないか調べ始めると井出が良いことを思いついたと手を叩いた。
「そうだ!チャンネル登録者数2000人突破記念ってことで、次回は田口も出演しようぜ!」
井出の思いつきに「次の一回だけな。」と田口は念を押した。
打ち合わせを終えて、田口が自宅に帰ろうと玄関を開けると廊下に箱が置かれていた。
「なんだこれ?」
「お!噂をすればだな!カラカラお面、置き配されてたのか!」
箱を抱え上げる井出に見送られて田口は帰路につく。箱の角に、黒い煤のような影が滲んでいるように見えたが、気のせいだと自分に言い聞かせた。
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