【9月21日生配信】 たかし宅 後編

「さてさて、二階に着きましたよっと……お、結構明るいな。」

 二階はさほど広くなく、廊下の突き当たりにある窓から外の光が差し込んでおり、スマホのライトがなくても問題なさそうだった。


 『オーブ映ってる!』

 『ただ舞ってるだけのホコリだろ』

 『あと15分ぐらいで現地着けそう!』

 『凸狙いのやついるな笑』

 『みぎのへやがぼくのへやだよ』

 『↑たかし乙』

 『廊下の奥、誰かいる?』


 様々なコメントが流れていく。井出はそれらを流し見すると、

「よし!じゃあ右の部屋から!」

 ノックを軽く三回して、ゆっくりと扉を開けた。

「おじゃしま〜す……ゲーム返しにきたよ〜。」

 部屋の中は子供部屋らしい内装になっていた。学習机、ベッド、漫画や図鑑の並ぶ本棚、小さなテレビ、古いアニメのポスター、そして――ゲーム機。

「お、ゲーム機あるじゃん。やっぱりたかしの家で間違いないな。」


 『マジで子供部屋じゃん』

 『いらっしゃい』

 『やっときてくれた』

 『自分の部屋にテレビあったとか羨ましい』

 『あそぼ』


「あそぼ?みんなコメントでビビらせようと必死すぎだろ!……ま、返す前にいっちょ遊んでみますか!電気通ってるのか知らんけど!」

 井出が『ガイアウォーズ2』をゲーム機に差し込み、電源スイッチをスライドさせると電源ランプが点灯した。


 『電気通ってるの!?』

 『あそぼ あそぼ あそぼ』

『ひさしぶり』


「いや、電源入るんかーい!もしかしてテレビも点くかな?」

 そう言いながら井出がテレビのスイッチを入れると、一瞬、砂嵐が映ったあと、ゆっくりとゲームのタイトル画面に切り替わった。

「……あれ?タイトル画面あるじゃん? あ、そういえば動画には撮ってなかったんだけど、実は『ガイアウォーズ2』一回、家で起動させたんだよね。そのときはタイトル画面なしで、いきなり真っ暗な画面から始まったんだけど……」

 井出の言う通り、テレビには『ガイアウォーズ2』と表示されたタイトル画面が映し出されている。


 『なんでプレイ動画撮ってないの笑』

 『あそぼあそぼあそぼあそぼ』

 『正直、カセットだけ自作したんだと思ってたわ』

 『おにいさん1Pつかっていいよ』

 『はやくはやくはやくはやく』


 おかしなコメントがだんだん増えてきているが、井出はイタズラだと思っているのか、気にせず、むしろ便乗している。

「え? お兄さんが1P使っていいの? たかし優しいな!……たかしでいいんだよね?」

 井出が1Pのコントローラーを手に取ると、勝手にカーソルが動き、協力プレイモードが始まった。


 『たかしだよ』

 『ぼくじょうずだからついてきて』

 『さっきから変なコメント多くね?』

 『よし!最寄りのコインパーキングに車停めたわ!』

 『ひさしぶりにあそぶ』

 『勝手に動くとか何?こわ』


「え? え? なんか勝手に始まったんだけど!……あれ? 2Pどんどん進んでっちゃう。こっちの動きに合わせてる……? いや、違うな……田……相棒、ちゃんと撮れてるか?」

 あまりにも現実離れした状況に戸惑いながらも、必死に2Pについていく井出と、呆気に取られながらもなんとか配信を続ける田口。コメントもものすごい速度で流れていく。


 『へ?どういうこと?』

 『そういう動画流してるんじゃないの?』

 『たのしいたのしい』

 『もうすぐぼすだよ』

 『たかし、視聴者側にもいるんか?』


 そうこうしているうちに、ボスを倒したのかスコア画面が表示された。

「おお……第一面だけどクリアした……たかしメッチャ上手だな」

 怪異と協力してゲームをするという訳のわからない状況にもかかわらず、井出は達成感に満ちた顔をしていた。そんな中、コメントが流れる。


 『たのしかった』

 『おにいさんもうまいね』


 突然、ゲーム機とテレビの電源が落ちた。何度スイッチを入れ直しても起動しなくなった。

「うーん? たかしが満足したってことかな? まぁ、とりあえずこのカセットは置いていくからな!」

 そう言って井出は学習机の上に『ガイアウォーズ2』を置き、部屋を出た。


 『すごい光景を見た』

 『種明かししないの?』

 『たかしメチャうまかったな』

 『心霊現象っていうレベルじゃねーぞ』


「あ! そういえば、こっちの部屋なんだろうな! 開けてみるぜ!」

 たかしの部屋の向かい側の扉を開けると、寝室のようだった。

「おっと……ご両親の寝室でしたか。こりゃ失礼しました〜」

 そそくさと扉を閉めた。


「えーっと、これで全部の部屋を見たわけで……すごい体験しちゃったな! これからは少しオカルト信じるわ!」

 廊下から玄関へと戻りながら話す井出に、田口は「こんだけやって『少し』かよ」と思いながら苦笑した。


 玄関から外に出ると日が暮れ始めており、井出が締めの挨拶を始める。

「……というわけで、生配信はこれで終了です! えーっと、自分でも正直まだ頭の整理がついていません! いませんが! 今回あったことは本当です! 視聴者のみんなも貴重な体験ができましたね! 次回はまた今までどおり曰く付きアイテム紹介するから、ぜひ見てね! バイバイ!」

 田口は配信を終了し、二人は駅まで歩き出した。


 配信終了画面では『信じられない』というコメントが大量に流れる中、一つだけ違う話をするコメントが残った。


 『おい! 現地着いたけど普通に人が住んでる家だぞここ! どういうことだ?』

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