【9月7日配信】幽声ラジオ

 翌日。居酒屋での田口の不安をよそに、カメラがいつも通り回り始める。

 

「はいどうも!曰く付き収集クラブへようこそ!今日もコメントお返事からスタートだ!

『ガイアウォーズ2 なつかしいわぁ!』んなわけあるか!…いや、開発者か?

『本当に調べても情報出ないんだけど』でしょ?少しでも情報ある人!コメント待ってます!

『たかし映ってなかった?』映ってないよ!そんな怖いこと言うなよ!…映ってなかったよな?

『カセット上手に作ってありますね!』残念!作り物じゃないよ!」


 増えてきた平仮名だけのネタコメントには触れない方向にしたようだった。


「さてと、今回はこの『幽声ラジオ』を紹介するぜ。最近はおもちゃとかゲームが続いてたからな!久しぶりにおもちゃ関係以外の物を手に入れたぜ!」

 井出がカメラの前に例の角やダイヤルの欠けた古いラジオを置いた。

「これ、夜中の0時に電源を入れて特定の周波数に合わせると、戦時中の空襲の音や人の声が聞こえるらしい…と、言うわけで!これを収録している現在時刻は23時58分!こりゃ聞いてみるしかないっしょ!特定の周波数ってのが分からないから、時間になったらいろんな周波数に合わせていくぜ!」

 井出は壁掛け時計を指差した後、ラジオの電源を入れてダイヤルを回してチューニングを始める。田口は打ち合わせ通り、0時になると同時に机の下に隠したスピーカーから飛行機や爆発音を合成した音声を流した。

「おおっ!?…今の聞こえた?小さいけど何か聞こえるぞ!……飛行機の音…かな…?なんか爆発音も聞こえる…?」

 井出がラジオに耳を寄せて大袈裟にリアクションをする。

「…いやぁ、なんだかんだ言って初めて心霊現象が撮影?録音?できたな!これからも曰く付き開封クラブをよろしくな!みんなも曰く付きアイテムの情報があったら是非とも教えてくれよな!じゃあ、また来週!」


「流石に『かえして』みたいなコメントに反応するのやめたんだな」

 編集作業をしながら田口は聞いた。

「おう、流石にしつこいなって思ってさ。なんなら今もいろんな動画に『かえして』コメント来てるしな」

 登録者数と共におかしなコメントも増えている。何度か調べているが、チャンネルのことをSNSで話題に上げている人は少数いるものの、炎上や晒しにあっている様子はない。

「ま!実害があるわけでもないし、反応しなければそのうち飽きて変なコメントも減るだろ!……っと、飯できたぞ!作業のキリはつきそうか?」

 あっけらかんと話す井出に「まあ、お前がそれで良いなら」と田口はこの話を終え、パソコンを閉じて机の上を空けた。

 

「いやー、久しぶりに家で揚げ物作ったぜ!張り切って作りすぎた!」

 二人の目の前には唐揚げが山になっている。

「美味いけど、いくらなんでも作りすぎだろ」

 唐揚げの山を崩しながら次回の打ち合わせをする。

「次回はカメラで行こうと思う」

「カメラ?でっちあげ音声の次は、インチキ画像作れってか?」

「いや、作らなくていいよ!あるから!」

「あるから?どういう意味だそれ?」

 井出が困惑する田口の目の前に一台のカメラを置いた。

「これだ。名付けて『闇写カメラ』見た目は一昔前の型式のデジタル一眼なんだけど……まあ、曰く付きだ!」

「……そんな明るく『曰く付きだ!』なんて言うの日本でお前ぐらいだろ……」

「うるせえやい!今回の曰くも結構パンチ効いてるんだよ!

 このカメラはもともと「事故現場専門」のカメラマンが使っていたらしいんだ。

 夜の現場ばっかり撮っててさ、“光を飲み込むような黒”を写せるって気に入ってたらしい。でも、そのカメラマンは数年前、ある現場から帰ってこなかった。

 カメラだけ見つかって、彼が最後に撮った写真を見てみると、写っていたのは事故車でも遺体でもなく、カメラを覗き込む自分自身の後ろ姿だったらしい……って、カメラを持ち込んだ人から中古カメラ店の店長が聞かされて『どうしても気味が悪い』って、処分に困っていた品なんだよ」

「……なるほど、流石生成AIに考えてもらっただけあるなテンプレっぽさもあるけどしっかりした話だ」

 井出の堂に入った語り口に田口は少し緊張しながらも笑った。

「ん?今回は生成AI使ってないぞ?」

 井出から出た思わぬ言葉に田口の口からは「は?」と間抜けな声が出た。

「今回はマジのマジ。駅西の中古カメラ屋あるだろ?あそこの店長に曰く付きってことで格安で譲ってもらった。」

「お前、こういうの信じてないんじゃなかったか?」

「いやー、流石に目の前で本物を語られると興味が湧いちゃってさ!んで、実際に撮ってみたんだよ!ほれ!」

 笑いながら見せてきたカメラの液晶画面はやけに暗かった。

「……なんだこれ?設定おかしいのか?」

「違う違う!ちゃんと設定してもこうなるんだよ!最初はオートで撮ったけど暗くて、ネットでカメラのマニュアル設定調べて撮ってもこんなんになるんだよ!」

 拡大すると、かろうじで中心に何かが写っているのが見える。

「これ、何が写ってるんだ?」

「ん?こけしのヨナちゃん」

「俺も撮ってみていいか?」

 田口は今見た写真と同じようにこけしに向けてシャッターを切ってみたが結果は同じだった。それをみた井出は笑いながら

「やっぱり真っ暗だな。実際はレンズとかセンサーの故障なんだろうな!……まあ、さっき『ある』って言ったのはそういうことだ!次回はこれで行くぞ!」

 と言って、食べ終わった皿をキッチンに戻し始めた。

 ふと、田口は思い出したことをキッチンで洗い物をする井出に聞いてみた。

「そういえば、あのラジオ。綺麗にしたんだな」

「は?なんのことだ?」

「ほら、居酒屋で見せてもらった写真だと煤けたみたいに黒く汚れてただろ?」

 

「何言ってるんだ?そんな汚れ無かったぞ?」

 

 そう言ってキッチンから部屋を覗き込んだ井出の顔に黒い煤のような影がかかっているように見えた。

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