【8月31日配信】ガイアウォーズ2

「はいどうも!曰く付き収集クラブへようこそ!みんないつもコメントありがとう!今日もお返事からスタートだ!」

 

 いつも通りの明るいトーンで、撮影が始まった。

 

「『かえしてよ。』けんじか?たかのぶか?せめてアカウント名から分かるようにしてくれよな!

 『積み木で的当て、自分もやってた!』やっぱ子供の思いつく遊びってそんな感じだよなぁ…頭は狙ってないよな?

『そのげーむぼくの。』返してあげるからせめて名前を教えてくれ!

『ヨナちゃんで的当てだって?』やらないよ!かわいそうだろ!」

 

 また妙なコメントが混じっているが、井出なら本当に名前と住所が分かれば返しそうだなと、田口は考えた。


「前々回のレトロゲーム、みんな覚えてる?あの中に変なカセットがあったんだよ!」

 コメント返しが終わり、井出が箱からカセットを取り出しながら本題に入る。

「その問題のカセットがこれ『ガイアウォーズ2』!パッと見、『たかし』って書いてある以外は普通のカセットなんだけど…」

 井出はカセットを色々な角度からカメラに向けていく。

「まず、ネットで調べても全く何も情報が出てこない!『2』って銘打ってあるけど『1』すら出てこない!中古ゲーム屋の店員も知らないらしい!」

 興奮気味に話す井出の横でこけしが倒れる

「……おっと、腕が当たっちゃったか。ごめんな。」

 こけしを立て直して頭を撫で、話しを続ける。

「……ちなみにこのカセット起動してみたんだけど、タイトル画面も無しでいきなり始まるわ、主人公以外真っ暗だわ、時間が経つといきなりゲームオーバーになるわ…まともに遊べなかったんだよね!

 もし、視聴者さんの中に『ガイアウォーズ2』持ってたり、昔遊んだことあるって人いたらコメントちょうだい!正常だった場合どんなゲームなのか知りたいからさ!」

 井出の情報提供のお願いで今回の撮影は終わった。


 編集中、田口は動画を一時停止した。

 井出の腕がこけしの近くを通った瞬間、こけしのヨナちゃんが横に倒れる。

 何度見ても、腕は当たっていない。机が揺れた様子もない。

「……やっぱ、触ってないよな」

 ぼそりと呟いて再生を押す。

 その直後、一瞬だけ音声トラックに“ザッ”というノイズが走った。

 環境音でもマイクトラブルでもない、短く息を吸うような音。

「……今の、なんだ?」

 シークバーを戻しても、もうその音は再生されなかった。


「井出、お前、大丈夫か?」

 井出特製チャーハンを食べながら、なんとなく聞いてみる。

「ん?急にどうしたんだよ?俺はいつでも元気ブリバリだぜ?」

「……そうか、それならいいんだけど」

 特に何かあるわけではないが、最近なんとも言えない違和感がずっと付き纏っている気がする。

「なんだなんだ?この前のファミレスから、ちょっと変だぞ?俺からしてみたらお前の方が心配だ!」

「は?俺が?」

「この前の積み木の動画も投稿予定ギリギリだったし、さっきの編集中もウトウトしてたろ?テロップが『ガイアウォーーーーー』ってなってるの見たぞ?」

 井出がニヤニヤしながらこちらを見てくる。

 確かに最近仕事が忙しいこともあってちゃんと眠れていなかったのかもしれない。

「まあ、編集全部任せっきりなのは事実だし、動画投稿も遊びみたいなものなんだから、遅れる時は『遅れる!』って言ってくれていいからな?」

「……おう、その時はそうさせてもらうわ」

「お疲れみたいだし、次回の小道具はまた今度教えるわ!この前はファミレスだったし、次は酒が飲めるところにしようぜ!」

「そうだな。久しぶりに店で飲むか。」


 違和感は、とりあえず疲れのせいにしておくことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る